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思い出のノート

初めての投稿なので、私の「ノート」にまつわる思い出を。



30年ほどの人生の中で、いちばん熱中していたものがあったのは中学生のとき。

昔から絵を描くことが好きだった私は、イラストレーターに憧れていた。
けれど簡単に叶う夢ではないこと、上には上がいることも知っていた。

子供のころから勉強も運動も友人との関係も、なんでもそれなりにできてしまったせいで努力の仕方がわからなかった。
いや、努力したくなかった。疲れるから。

もっと上手くなりたいな。でも努力するのは嫌だから楽して上手くなる方法ないかな。とか本気でそんなことばかり考えていた。

描きたい絵を描きたいときにだけ描いていたから、左向きの人物バストアップイラストばかり量産していた。
たまに全身描いてみたと思えば、下に行くほど少なくなる描きこみ。
無駄に顔だけ気合いの入ったバランスの悪い絵の出来上がりである。
たぶんちょこっと絵を描く人あるある。

自分のおかしなバランスの絵を見るのが嫌で、結局またバストアップばかり描く。
これじゃあ上手くなるはずもない。

でも絵を描くのがただただ楽しかった。
自分でイラストサイトを作ってそこにアップしたり、当時全盛期だったお絵描き掲示板で知らない誰かと交流したり。
自分の絵にコメントがつくと、飛び上がって喜んだ。

パソコンで絵を描き始めた当初はマウスだったけど、ペンタブという存在を知りお年玉で買ったりもした。
お絵描き掲示板も、簡素なものからかなり高度な設定ができるものまで色々あったので、ソフトがなくてもそれなりの絵に仕上げられた。

いくつか行きつけの掲示板があって、それぞれに常連さんが数人いた。
積極的に交流する人もいれば、黙々と絵を上げ続ける人もいて、その自由な空気が気に入っていた。

何か月も続けていると、やっぱりみんな上手になっていくのがわかった。
それがいい刺激になったんだと思う。
好きなときに好きな絵しか描かなかった私が、1冊のノートを用意して、そこに毎日1ページずつ絵を描いていくことに決めた。

バストアップイラストだけではない。
絵の練習方法なんて知らなかったので、何かひとつテーマを決めて、色々な角度で全身を描く。
ただそれだけのルールだったけれど、私にはなかなか大変だった。

今でもよく覚えているのが、「旅人が知らない国にたどり着いた」というテーマのイラストと、「パジャマ姿の男の子が月の上で寝ている」テーマのイラスト。

旅人のほうは人物を小さく、大きな扉が開いていく様子を描いたと思う。
パジャマのほうは帽子で顔が半分隠れていて、三日月の上に寝転んでいる構図だった。
他にも色々描いたはずだけど、なぜかこの二つが特に印象に残っている。

毎日絵を描き続けていたとき、少しずつではあるけれど確実に絵のレベルは上がっていたと思う。
お絵描き掲示板での反応も日を追うごとに良くなっていた。

でも、そのノートは今はもう残っていない。
高校に上がって、自然と絵への興味が薄れてしまった。
中学時代に比べ世界が広がり、興味の対象が増えたことや、純粋に勉強で忙しかったこともあるかもしれない。

絵を描くことが嫌いになったわけではない。
でも、描きたいという気持ちも湧いてこない。
いつしか掲示板を訪れることもなくなり、自分のイラストサイトも放置してしまった。

大学進学時に一人暮らしをすることになり、自分の部屋を整理するときに例のノートやその他諸々絵に関するものは処分してしまった。
そこから現在まで、全くと言っていいほど絵から離れた生活を送っている。

最近になって、昔の自分の絵が見たくなることが増えた。
当時のお絵描き掲示板やイラストサイトは当然消えてしまった。
せめてあのノートがあったらな。
中学生だった私の頑張りを、今の私が認めてあげたいな。





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