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アートは「バックキャスティング」に馴染まない〜日比野克彦さん講演会

2024年2月10日(土)

熊本大学の日比野克彦さん講演会(2月10日 午後2〜3時半)へ。

熊本市現代美術館館長でもある日比野さん。「アートの力」の演題通り、場(地域、企業、行政、福祉etc…)の力を引き出すアートの文化的処方箋の事例が多数紹介された。

「アートは人の心を動かす力がある」ため、社会的課題への解決のヒントもそこにある、というお話。

やはり「普通」や「これまでのやり方」にとらわれない発想を大切にしなくてはならないと改めて思った。

日比野さんは行政職員の研修に熱心に取り組まれている理由もそこにあるのだろう。熊本市役所職員の研修にも様々な形でかかわっているとのこと。

「講演会は、その後の質疑応答で必ず質問することを前提に聞け!」と木下斉さんもVoicyでさかんにおっしゃっているし、私もそれを旨としているので、気合を入れて挙手。ラスト3人目で当てていただけた。

私の質問はこうだ。

「今日は行政や企業とのコラボの事例を多数紹介していただいたように、日比野さんのところには、日々たくさんの行政や企業からの協力のお願いや案件が持ち込まれているかと思います。そうしたものの中で、話を受ける、受けないは、どのようにして決めていらっしゃるのでしょう? こういう依頼者とは仕事をしない、とか、仕事を受けないといった基準はありますでしょうか?」

日比野さんの回答は意外なことに、「いや、あんまり断らないですけどね(笑) 話は聞きます」と。「単純に、こういう風に考えてるんだ? とか、話を聞くのは面白いですから」ともおっしゃっていたかな…。ちょっと正確な言葉は覚えていないけれども。

「もちろん、話の進み方に遅い早いはありますけどね…。ただ、先方のお願い事に対しては『それは無理なので、このようにしませんか?』というような提案をすることはある。アートが最大限活用できるやり方でないと、自分が辛くなるから」

なるほど。そりゃそうですよね。自分が関わることに意味を見出せない仕事ほど辛いものはないのだし。

もう一つ、回答の中で印象的だったのは、「バックキャスティングの考え方は、アートにはなじまない」とおっしゃっていたこと。

「アートは目標設定というのが苦手なんです。とりあえず始めましょう、と動いていく、その後どうするか? は、未知数。アートの場合、最初から目標を決めて、ではこうしましょう、というバックキャスティングではうまくいかないんです」というお話。

なるほど、アートの領域は意図せぬ偶発性がまた、元のアート的要素に組み込まれ、新たな展開をみせていくことになるのだし、そこがアートの醍醐味でもあるわけで。

「正解のない時代」と言われて久しい。場合によっては、ゴールや目標を定めない動きを試みるのも、分野によっては一興かと思えた日比野さんのお話だった。

そしてまた、人生も。

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