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コンプレックスを一瞬で消したデカいお尻の話

【お悩み相談お答えしますvo.4】


「私、スライサーでこのお尻を削り取りたいんです!」

シャンプー台で顔に不織布を乗せられ横臥したまま、私は彼女の不満げな話を聞くともなく聞いていました。彼女のシャンプーは、そのふっくらとした指先で頭皮をすっぽりと包み込む最上級の心地良さ。目を閉じその気持ちよさを堪能していた私には半ばどうでもいい話でした。

「そのスライサーがあったら私は二の腕を削りたいわ」

気持ちよさに思いつくまま口をついて出た私の一言でしたが、その直後、彼女の不満感はシャンプーするその指先からビシビシと伝わってきました。彼女は、いつも長袖を着ていました。それは、太い二の腕を隠したいからなのだと店長から聞いていた話を思い出しました。


しまった!

でも時すでに遅し。何とか取り繕おうとしても私はシャンプー台の上で横たわり、目を合わせることもできません。何とかしなければ。こうなったら彼女の悩みを根本解決するしかない!いつも気持ちのよいシャンプーをしてくれる若いシャンプーガール。彼女のお悩みをしっかり受け止め何とか解決しようではないですか。

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お尻は削り取れない

いくら決心したとはいえ、彼女のお尻を削り取ることはできません。彼女の悩みの本質は「お尻が大きい」ことではありません。お尻が大きいことがコンプレックスになっているということです。

シャンプーが終わり、私はカット用の椅子に案内されながら聞いてみました。

「お尻が大きいのはダメなの?」

――ダメに決まってるじゃないですか。これじゃモテないんですよ~。彼氏が欲しいんですう~!

彼女は、これ以上ないほど口を尖らせ、鏡に映る自分のお尻をトントンと指さしました。たしかに、よく見ると、確かに横に張り出したボリュームのあるお尻です。でもそれは彼女に彼氏ができない原因になるほど大きなお尻には見えません。大きいのは大きい。でも、既製品のパンツは履いているのですから、標準体型の範囲内です。不満なのは別な理由です。

お尻が大きいから彼氏ができない。
これ、本当でしょうか。

確かに、キュッとしまったお尻は、どんな服装の邪魔もせず魅力的かもしれません。でも、彼女の場合はダイエットで小さくなるということではなく、そもそも体型に由来していました。

彼女は骨格診断でいうと「ウェーブ」という体型でした。弱点という見方をしたら、腰の位置が低く下重心で、太ると太もも周りにお肉がつきやすいのが悩みのタネ。日本人特有の洋ナシ体型とも言われる骨格です。でも、女性らしい柔らかな素材や、フレアスカートなどのラインもとても良く似合うことが羨ましがられるタイプでもあります。

彼女を見ると、自分で言うほど太ってはいません。彼女が気にしているお尻の大きさは、ダイエットの問題ではなさそうでした。そこで私は、問題の本質に切り込むことにしました。

「ねぇ、お尻を小さくすれば彼氏はできるの?」

彼女は一瞬戸惑い、こういいました。

――鈴鹿さん、だから私いつも黒のパンツをはいているんですよ。少しでもお尻が締まって見えるように。

「そっかー。黒いと締まって見えるものね。」

確かに、彼女はいつも長袖のTシャツに黒のパンツ姿。骨格診断からみると、上半身にボリューム感のあるフェミニンな服装も似合うのでしょうけれど、仕事の最中はそんな服を着るわけにもいきません。ヒップを小さく見せることにこだわるのも、気持ちはわかります。

「だけど、どうなの?そのお尻をうまく隠すことができて、
念願の彼氏を見つけることができた!とするわよ。
で、いざ♡という場面がきたらどうする?」

――鈴鹿さん!それは部屋を真っ暗闇にしますよ!

私の頭皮マッサージをしながら、彼女は笑いながらそう言いました。

「でもね、せっかく彼氏ができても、
その人がお尻の小さな人が好きだったら、
そこでおしまいなの?
それ、勿体ないんじゃない?」

――え、何がですか。

「男子の中にはボンキュッボン(ちょっと古い)、
ヒップがバーンと大きな女性が好き
っていう人だっているはずじゃない」

――あ、昔の彼氏はそういえば。

「でしょ?
世の男子は全員ヒップの小さな女子が好きなわけじゃないでしょう。」

「だったら、最初から「ヒップの大きな女性が好き」
っていう男子を探した方が早いじゃない?
ミニスカート履いてバーンってヒップを強調して、
私はこんなスタイルです!ってやって、
あなたのそのスタイルが好きなタイプです!
っていう人と付き合った方が幸せだと思う。

だって、隠さなくていいし、明るくして、ほら、できるじゃない!」

彼女は、鏡の向うで私をギュッと見て、その後、お腹を抱えて大笑いしていました。

――確かに、そうかもしれませんけど、鈴鹿さん極端ですよー!

その日は、こんな話で終わりました。そして1か月後、次の予約でヘアカットに行ったとき、ドアを開け出迎えてくれたのは、ピタッとしたミニスカートにオシャレなハイソックス履いた彼女でした。

シャンプー台まで案内される間、私は、彼女が変わったのは服装だけでなく、髪型も、そして背中から漂う雰囲気も違っていることに気が付きました。

シャンプー台に座り、背もたれが倒され、彼女のふっくらとした指が私の頭皮を包んだ瞬間のことでした。

「彼氏できたでしょ!」
という私の言葉と

「彼氏できたんです!」
という彼女の言葉が同時に重なり、
私たちは大笑いしました。

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彼女はあの日、私と話したあと、いろいろ考えたそうです。

隠していたデカいヒップがいつかバレて嫌われるくらいなら、最初からそんな人を好きならない方がずっとマシだ、と思ったこと。

それより、「俺でっかいケツが好き!」っていう人を好きになった方が幸せになれそうだと思えたこと。

そして、生まれて初めてミニスカートを買ったこと。

買ったはいいけど、それを履いて外に出るのは勇気がいったこと。

でも、ある日その服装で出勤したら、店長も、先輩も、お客さんも誰もが「どうしたの?彼氏できた?!」って言ったこと(笑)

そうしたら本当に彼氏ができたこと!


彼女の嬉しそうな様子は、目をつぶっていてもしっかり伝わってきました。

コンプレックスは誰にでもあります。もっとこうだったら、と思うことは誰にもたくさんあります。もっと背が高ければ、もっと美人だったら、もっと脚が細かったら・・・。

大切なのは、自分の思い込みを点検してみることです。
「お尻が大きいから、彼氏ができない」のではなかった。お尻が大きいなら、そこが好きだという人が彼氏になればよい。思い込みを捨てて、自分の本来の姿に戻ったことが、彼女の未来を変えたのです。

ないものを求めて表情が暗くなるくらいなら、自分が今持っている素の姿で勝負したほうがずっとスッキリします。今の自分にできる精一杯で今日を生きる。

彼女は、その日を境に一気にモテ期に入り、ファッショナブルな美容師となりました。そして今は舞台をNYに移し活躍しています。

今日は懐かしい思い出、コンプレックスを自信に置き換えて進んでいった、若い女性のお話でした。

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