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ときめきメモリアルの思い出とメンタル強い系友人のお話。

「ときめきメモリアル」というこっぱずかしい名前のゲームがある。今は2とか3とか女性用とかいろいろ出たらしい(未プレイ)が、ここで話しているのは元祖「ときめきメモリアル」である。

私が初めてやったのはプレイステーション版であった。当時私は中学生。学校も部活も満喫していたのだが、それを超えてゲームが好きすぎて家で暇を見つけたゲームをしていた、私的ゲーマー最盛期のころであった。

ファイナルファンタジーとかスーパーマリオとか星のカービィとかゼルダの伝説とかスターフォックスとかトルネコの大冒険とかアークザラッドとかバイオハザードとかクロックタワーとか、ストリートファイターとか鉄拳とかボンバーマンとかマリオカートとか桃鉄とかドカポンとか聖剣伝説2とかルドラの秘宝とか燃えろプロ野球とかくにおくんとかスーパーチャイニーズとか、兄の所持するいろんなゲームがうちにあった。DS・Wii以降、今はゲームも市民権を得て、「どうぶつの森」など女性向けのゲームもたくさんあるが、当時のゲームは基本男の子向けで、アクションとか格闘とかレースとかRPGとか、戦ったり冒険したり競ったりする系のゲームがほとんどであった。

そんな時代に、ある意味異彩を放っていたのがこの「ときメモ」である。有名なのでご存じの方も多いと思うが、これは美少女ゲームとか恋愛シミュレーションとかいうジャンルのもので、アニメチックでいかにもな見た目の女の子たちがたくさんでてきて、デートしたりいっしょに登下校したりしながら高校3年間で愛をはぐくみ、卒業式の日にお目当ての女の子に告白されてハッピーエンドを迎えようというストーリーである。

当時はこういう「美少女恋愛ゲーム」は所謂「モテないキモイオタク男」が心の慰みにやるものだという社会的通念がうっすらとあり、周りにやってるなんて(少なくとも公言する)子はいなかったし、プレイしてみたいなんて言うのはもちろん、このゲームの名前を出すのさえ憚られるものがあった。そんなゲームのワンシーン、「乗っていた観覧車が止まってしまい怖くて涙ぐむヒロインを元気づけるイベント」を、ゲームの裏技大辞典「大技林」で目にした私は、当時ひたすら戦ったりレベルを上げたりするゲームに疲れていたのもあり、プレイしたい欲求を抑えきれず、こっぱずかしさを気合で乗り越え、身銭を切ってえいやっと購入したのであった。
(近所のゲームショップで買うときはほんとに恥ずかしかった。女子中学生が『ときめきメモリアルください』と申し出るのを当時の店員さんはどんな気持ちで聞いていたのだろうか。ちなみに買ったあとも、なんとなく机の引き出しにソフトを隠し、親に見つからぬよう部屋でコソコソとプレイしていた。)

はてさてこのゲー厶、背徳感さえあるキモいイメージとは裏腹に、やってみるとおっかなびっくり、なかなか堅実な作りのゲームなのである。そもそも作っているのは「パワフルプロ野球」「グラディウス」「パロディウスだ!」、のちには「ビートマニア」「ダンスダンスレボリューション」などポピュラーゲームを量産する老舗メーカー、コナミ。ときメモも例に洩れず、女の子がやたら出てくるというだけで、アダルトなシーンも皆無、もちろん全年齢対象で、ゲームの内容も「毎週平日は勉強をしたり部活に励んだりして、学力や運動能力などのパラメータを上げて自己研鑽に励み、ときどき土日に女の子とデートに行って好感度を上げる」という地道で着実なものなのである。

出てくるヒロインは全部で10人ちょい。そのうち、理数系が得意な女子は理数系のパラメータを上げないと振り向いてくれない、おしゃれな遊び人女子はおしゃれのパラメータを上げないと振り向いてくれない、運動系の女の子は運動のパラメータが…、といった感じになっていて、日々の研鑽が必要だ。だからといってあんまり勉強や部活ばかりしていても体を壊すので、適度に休みをとりつつ、また運動ばかりしていても学力やおしゃれが下がりすぎる(特定のパラメータが低すぎてもダメだったりする、いくらスポーツマンで勉強ができてもブサイクで汚い男は女の子に敬遠されるのだ)のでバランスよく努力しつつ、休みの日には女の子に電話をかけたりデートにでかけたりして高校3年間を過ごすといったことになり、けっこう忙しい。特にメインヒロインの幼馴染、藤崎詩織ちゃんは、学校のマドンナとしてヒーローにも非常に高いパラメータを要求し、エンディングを見るのは至難の業で、相当な心身の鍛錬と容姿と話術が必要になる。ほかにも、毎年文化祭や体育祭がありミニゲームが面白いし、部活を頑張れば甲子園やインターハイで優勝することもできる。修学旅行にも行くし、デート中に絡まれて地元の番長とケンカすることもある。卒業後の進路もあり、パラメータによって彼女と同じ大学に入学を決めることもできる。1プレイせいぜい数時間程度で、その名の通りときめきながら最高の高校生活のメモリアル(思い出)を作れるのだ。シミュレーションゲームとして非常に自由度が高く、そしてさすがコナミ、ゲームバランスも非常に優れた良質なゲームなのである。

(余談だが、「ときめきメモリアル」という口に出すのも憚られる恥ずかしいタイトルは、開発陣が敢えて恥ずかしさを狙ってつけたという。基本的にネタゲーなのだ。)
(さらに余談だが、この藤崎詩織役を実写映画で演じたのは当時無名の若き吹石一恵ちゃんである。彼女の福山雅治との結婚が報じられたときは「やはり藤崎詩織を射止める男は福山レベルのハイスペック完璧超人しかいないのだ」とオタク界がザワついた。)

ゲーム自体面白いし、かわいい女の子たちと仲良くなっていく過程は平和で楽しいし、文化系のメガネ女子が熱中症でぶっ倒れたり、野球部のマネジャーがお弁当を作ってきてくれたり、部活の合宿で女風呂を覗こうとして誤って男風呂を覗いてみたり(「ストレス」が溜まる)、こっぱずかしくなるようなコテコテのイベントをプークスクスと笑ってこなしながら架空の3年間を過ごすのはなかなか楽しいもので、いつの間にかハマり、攻略本も複数冊購入・熟読し、全員のクリア条件を頭に入れてプレイし、理解のある友達にソフトを貸して布教するまでになった。美少女ゲームに興味のなかった私の兄が、このゲームをきっかけに恋愛シミュレーションにハマりゲームの音楽クリエイターを目指すようになり本当に実現したのはまた別の話…。
(なお、私が大人になって機会があって久々にプレイしたときは、一回目で藤崎詩織に告白され一流大学への進学を決めつつ隠れキャラのレアイベントも成し遂げた。ゲームの腕は衰えないものである。)



さて話は変わるが、私の友人に、世のリア充の権化みたいな人物がいる。このブログに何度も登場しているメンつよ系の彼である。この男、メンタルは鋼のように強く、何かを渇望したり追い求めたりすることは決して無く、いつも泰然自若としている。見目もよく面白いのでよくモテて、女性に困ったこともなさそうだ。男性の人望も厚くスポーツマンでバンド経験もあり、オタクとは真逆に位置するような存在である。


このメンつよ系男とある時話をしていて、なにがきっかけだったが、彼が「ときメモをやったことがある」と言い出して、かなりビックリした。元祖ときメモをやったことがある人間なんて、二次元に彼女を求めるモテないオタク男か、私のような好奇心の奴隷の変人オタク女しかいないと相場は決まっているはずなのに。リア充男もゲームキャラと恋愛したりするんだ。リア充もアニメ声の二次元美少女たちには憧れるものなのか。


「私もあのゲーム好きだった」と告白しつつ、あのゲーム面白いよね、どのキャラクターが好きだった?」と聞いてみた。ちなみに私のお気に入りは、毎朝50kmのロードワーク(設定がおかしい)を欠かしたことのないスポーツ少女清川さんと、ストーカーじみた隠れキャラ舘林さん。舘林さんとのイベントを進めるには運が必要で難しく、幸運にも幻の公園イベントに進めたときはセーブデータを保存していたものである。こういうふうに各々お気に入りのイベントなどもあって、このキャラ好き!という話は、メモラー(ときメモファンのこと)同士で必ず盛り上がれる鉄板の話題である。


しかし、話をきくとなんだか様子が変だ。「どの子が好きとかはよくわからんなあ。普通に部活やってたんよ。でも、なんかあのゲーム毎回エンディングが暗いんよね。歌も暗くて。」


ん…?ゲームの最後は、10数人いるヒロインたちの誰かに告白されてハッピーエンドになるはずなのだが。そして藤崎詩織の歌う名曲「二人の時」が軽快に流れて高校3年間に思いを馳せる。暗いエンディングというのは、誰にも告白されなくて一人で部屋で佇むってやつだぞ。「部活(勉強)ばっかりやってた高校3年間だったけど、ほかの過ごし方もあったんじゃないかなぁ…」とかいうモノローグとともに、悪友の好雄(よしお)の歌う哀しい調べ「女々しい野郎どもの詩」が流れる。ちなみにこのエンディングを見るのはけっこう難しい。ふつうにやってればだいたい誰かが告白してくれる。私もほとんど見たことない。


私「なんで?それバッドエンドじゃん。女の子とのエンディング迎えられなかったの?難しかったの?」


強「いやー、高校生活っていったら部活っしょ。だからとにかく部活をやってたんだよね。野球とかサッカーとか。全国目指してさ。」


私「え、ちょっとまって、もしかして女の子とデートしなかったの?自分から電話してデートに誘うんだよ…?」


強「部活ばっかりやってたからね。そんな暇なかった。そのお陰で目標の全国優勝を達成して卒業後はプロ入りできたし、最高の高校生活を過ごせたよ」

強「なのに、なんでエンディングは暗くなるんだろうね?やれ学校のマドンナだとかやれ部活のマネジャーに告白されるとかより、全国優勝するほうが僕にとっては価値のある高校生活だけどね?」

強「せっかくゲームという架空の世界を生きるんだから、現実世界で実現不可能なことを疑似体験したほうが楽しい。女の子を落とすなんて現実でもできる。それより何かのスポーツを極めるほうが難しいし、価値がある。僕は高校でラグビー頑張ったけど最後まで全国行けなかったからなぁ。ゲームで達成できて最高だよ。」


…斬新ね、その遊び方…?

しかもわりと説得力あるね…??


確かに、好きな女の子を攻略する高校生活より、部活の何かで日本一になった高校生活のほうが立派ね…?日本一はその年の日本に一人しかいないしね…?全国優勝って多少の才能と努力じゃなれないもんね…?あれ、私なんで女の子落とすのを頑張ってたんだっけ…?


ちなみに、女の子に興味がないのになんでときメモをプレイしたのか聞いてみたら、「友達の家にあったから友達とやった」そうな。そうだよね、リア充はわざわざ恋愛シミュレーションゲーム買わないね…。それにしても、彼が3年間「部活」コマンドを選択し続ける様子を見て、ふだん普通にプレイしていただろうその友達はどんな気持ちだったんだろう。実にシュールである。


リア充には二次元の美少女は必要ない。架空の恋愛も必要ない。リアルを満喫している人は、ゲーム内で現実と乖離した生活をする必要もない。ゲームの世界に没頭したりゲームキャラに夢中になってしまうこともない。ただ現実を生きてるのだ。

ということは、私があんなにゲームに没頭したのは、心のどこかで、現実とは違う生活をしたいという逃避の心があったんだろうか…。。。

そもそもゲーマーというのはみな、どこかで現実を直視することを避けていて、心に歪さを抱えているのだろうか…?

本編に加え外伝の「ときめきメモリアル ドラマシリーズ」をプレイし、ヒロインたちとスポーツや音楽に励み、感動して流した私の涙は何だったんだろうか。。


とりあえず、現実での努力を怠り、ゲームという仮想空間で代わりに欲を満たしているとしたら生き方を見直そうと、これからは現実を生きていこうと、思うのであった。


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