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【実践報告】就職・転職準備の手伝い方<後編>

前編は、就職/転職希望者の「AsIs:現状」の理解でした。

見つかった課題への対策を考える前に、「ToBe:あるべき姿、目標」を考えます。課題の裏返しの対策だけでは、マイナスを0にするだけで、+にならない可能性があります。目標から逆算した解決方法を考えれば、+を生み出すことができます。いわゆる、バックワードデザインというやつです。

目標はワクワクしながら考えてほしいので、これまでのお悩みを聞くモードから、未来志向に少し切り替えて、笑顔で声のトーンをあげます。

やるべきことは日本人の場合と変わらないと思いますが、外国籍の方の場合の留意点は『いつか母国に帰るかどうか』が人によって異なる点と、『就労ビザ』、『日本語・日本文化への適応』など、問題が国境をまたぐ点です。

以下、書いているうちにだいぶ長くなりましたが、目次から関心のあるところへジャンプしてお読みくださればと思います。

目標設定と、達成への道のりの設計

頭の中に時間軸を持って、少し遠い未来と、その途中ステップをどう刻むかを考えながら話し合っていき、達成できたかどうかわかる具体的な目標に落とし込んでいきます。趣味目的の学習者の目標設定に比べると、就職/転職支援は具体的に落とし込みやすいと思います。ただ就職/転職支援は、その人の人生設計に大きく関わるので、安易に解決策を提示したり、自分の古い経験則だけでアドバイスするのは避けたいところです。就職/転職市場も企業もキャリア論も人々の思考も、常に変わりつづけていますから。

「将来」ってどのぐらい先?

考える時間軸としては、2〜5年後、長くても10年先ぐらいではないでしょうか。変化し続ける社会の中、20年、30年先の未来は誰にも予測できないと思います。仮に目標を決めたとしても、時代や自分の状況に合わせて変えていく柔軟さが求められると思います。無理やり目標を決めて、それに自分を縛りつける必要も全くありません。

将来のことを聞く目的は、どの方向を目指すとワクワクするのか、職業や会社や社会的地位などではなく、その人の「軸・価値観」みたいなところを言語化することです。しかし、「将来とか知らんけど、いまやりたいことは『これだ!』『今すぐ始めたい!』」という明確な意思と勢いがあれば、大いに尊重します。将来のことははっきりしなくても、その行動の結果が、未来を創る可能性が大いにあると思います。

「将来」の方向性を確認する質問例(相手によって色々変わります)

  • 将来日本で働きたいって思ったきっかけは、何かあった?

  • 大学の専攻を選んだ理由は?それは、勉強していて楽しかった?

  • 今後、どんな分野で活躍していきたい?何のプロになりたい?

  • 将来どんなことを実現したい?どんなことに関わりたい?

  • どんなことが得意?または、自分では得意と思っていないけど、人にすごいと言われることはある?(人と話すのが好き、もの作りが好き、プログラミングはつい夢中になってしまう、細かいところによく気がつくと言われる、などなど)

  • いつか、母国に戻りたいという気持ちもある?

独身か否か、同居家族がいるか、など、家庭の事情やライフステージによって、少し先のどんな未来を描くかは変わってくるでしょう。

自己分析があまりできていない場合

上記のような質問を投げかけた時に、自己分析が全然できてなくて答えられない人、答えてくれるけど薄っぺらい感じがする場合に、どうするか。もし時間がゆるせば、自己分析の宿題を出して、頭から湯気が湧き立つほどたっぷり悩み抜いて、自分なりの答え(その時のベストエフォートでOK)を生み出していただくことが理想です。ただ、押し付けると嫌がられますが。

外国籍の方が企業の採用面接に行くと、だいたい「今後もずっと日本に住み続けますか」「5年後のビジョンは」などと聞かれるようですので、考えておいたほうがいいでしょう。

自己分析を助けるおすすめ本は次の2冊です。まともに取り組むと月単位の期間がかかりますし、外国の方にとっては、たとえ日本語が超上級の方であったとしても、本を読んで理解するだけで時間がかかると思います。現実的には、推薦図書として情報提供しつつ、ある程度質問を絞ってリストアップし、宿題として考えてもらうのがよいと思います。自己分析のきっかけとして、クリフトンストレングス(有料)などの性格診断ツールを使ってみたり、周囲に自分に対する評価を聞いてたりするのもありでしょう。

 おすすめ本1:『絶対内定』シリーズ

 おすすめ本2:セカヤリ 『世界一やさしい やりたいことの見つけ方』

直近で達成すべき目標

将来の方向性と自己分析がある程度確認できたところで(そんなにサラっとはいきませんが)、目標と現在位置との間にある、一番直近の具体的な達成目標を考えます。いつまでに、何が、どうなっていればまずは達成なのか、言葉に表して共通認識を持ちます。
決して、「目標はN1レベルですか?」なんて聞きません。。。

新卒の就活はだいたいスケジュールが決められてしまってますが、転職組は、本人の希望する退職時期・転職先の勤務開始時期を聞く必要があります。

  • いつから就職/転職活動を始めて、いつまでに決定したい?いつから働き始めたい?

  • 現職は、いつ頃辞めるつもり?会社への退職意向はいつ言う?円満に退職できそう?

  • どんな仕事がしたい?職種でいうと?

  • 会社を選ぶ条件と、条件の優先順位は?

  • 履歴書や面接は、日本語でがんばる?母語でも受けられるところにする?

タスクの洗い出し

日本で初めて就職・転職活動する場合、仕事の探し方そのものがわからないケースもあると思います。海外で仕事探しは、一人だときっと不安だと思います。目標に向かってどんな段取りを踏んでいけばいいのか、本人が知っている情報と合わせて棚卸し・リストアップしていくと、漠然とした不安が軽減されると思います。

  • 求人情報の探し方(求人サイトなどで、色々な職種や会社などを見ておく)

  • 応募方法(直接応募、転職エージェントやスカウトサービスの活用、LinkedInなどの活用、知り合いの紹介、etc.)

  • 就労ビザは問題ないか(転職組の場合、職種が大きく変わる場合は要注意)

  • 書類選考対策(履歴書、職務経歴書、エントリーシート)

  • 筆記試験対策(少なくともSPIの存在は知っておく)

  • 面接準備(履歴書・職務経歴書を説明する練習、面接官とのQ&A練習、面接マナーなど)

などなど・・・ 
自分で作成・管理できるのが一番いいのですが、一緒にタスクを棚卸して、スケジュールを組めるとよいかもしれません。就職が決まるまでの間、伴走できる(=レッスンを予約してくれる)可能性も高まります。

就職/転職支援をする上での留意点

背景知識のインプット

学生の場合は履歴書、社会人の場合は職務経歴書を、個人情報を消してもらった上で預かり、よく読みます。 私自身にとって馴染みのない専攻や専門分野、職種などであれば、ネットである程度基礎情報を入れて把握しておきます。ジョブホッパーで職務経歴が長い人は、直近の3社ぐらいは本人がしっかり説明する必要があると思いますので、自身もそれについて調べます。

すなわち、面接準備においてその内容を私がレビューする必要があるので、こちらも職務経歴書に出てくる企業名や事業内容を調べて理解を深めておく必要があります。

いいところ探しをする

履歴書/職務経歴書を見て最初に考えることは、その人の良さ・強みが、その中にしっかり反映されているかどうかです。企業目線で、魅力的な候補者に見えるかどうか考えます。

すでに日本語で作ってある履歴書/職務経歴書を受け取ることが多いですが、機械的に翻訳したものもあれば、友達に不自然な日本語を直してもらった程度で、中身がうまく伝わってこないものも多い印象です。人材紹介エージェントに登録していれば、ある程度加工してくれたり、アドバイスももらえる可能性があります。

せっかくこれまで努力して築き上げてきたキャリアが、企業に伝わらないのはもったいない。

前職での経験や大学でがんばったこと、工夫したこと、成果などをざっくばらんに聞きながら、日本語的によりよい表現にしたり、職務経歴書に書かれていない本人の良さや実績を引き出して、私がいいと思ったことは純粋にほめます。そして、本人の言いたいことと一致しているか確認しながら、一番適切な日本語を考えながら追加していきます。本人が満足し自信が持てる、魅力的な職務経歴書に改善していきますが、「本人が理解して話せる」「発音しにくい単語は避ける」かつ「日本人が聞いて理解できて、子供っぽいと感じない」語彙や表現を選択するところにも気を配ります。

文化・商習慣のギャップの理解

「いちいち言わぬが推し量れ」「普通は・・・でしょう」「仲間を手伝って当たり前」といった、無意識の同調圧力が強い環境の中に、外国人の方は置かれることになります。新卒組でしたら、その辺りのことを事前に説明しておく必要があるし、転職組でしたら、前職でどんな苦労や理不尽があって乗り越えてきたかを話せるようにしておくといいと思います。

就職後にどんな文化・商習慣のギャップに直面するかは、会社や職種などにもよると思います。(接客業か、製造業かでも違うでしょう。)企業との接点がない場合、教師の立場から企業に働きかけることは難しいですので、外国人のほうに心の準備をしてもらいつつ、できるだけ理解のある企業を探すしかないでしょう。

  • 報連相とは何か。頻度や内容は会社のルールや上司によっても変わる。

  • 自分の仕事が終わったらさようならではなくて、周囲の人に配慮の声掛けをする

  • 個人のタスクではなく、チームとしての目標達成にコミットすることが期待されている

  • お金をもらっている分だけ働くという感覚ではなく、いい仕事をして昇給を目指す(ことが求められている場合が多い) など

エピソードの棚卸し

実績や強みの説得力を高めるために、具体的なエピソードをもって裏付けしていくことが大切です。海外での転職活動は詳しくありませんが、日本ではいったん採用したら簡単にクビにできないこともあり、採用にはいたって慎重。企業側に、その人が入社後に活躍するイメージを持ってもらえるよう、これまでの経験を物語的に話せるのが理想です。日本人か外国人かに関わらず共通ではないかと思います。エピソードを引き出すために、いくつか質問をして思い出してもらい、それを文字に書き起こして、自分で話せるように練習してもらいます。

  • 前職で、一番(大変だった/大きかった/楽しかった)仕事やプロジェクトは何だった?それはどんな内容だった?

  • その中で、どんな困難やトラブルがあった?それをどうやって乗り越えた?

  • 日本語がわからなくて困った時に、どう対応してきたか? など

面接準備・・・自分の言葉で話せるスクリプトを

職務経歴書やエントリシートを作り込んでも、それを自分の言葉で話せなければ意味がありません。棒読みバレバレでは、かえってマイナス評価。オンラインでは画面の周りにカンペを貼り付けて対応できますが、それでも心のこもらない話は響きません。

上記の自己分析やエピソードの棚卸しができたら、色々な切り口での質問に対して答えられるように、練習あるのみです。スポーツの基礎練を繰り返し、繰り返しやるように。。。

面接官から聞かれそうな典型的な質問を、フラッシュカードにして、自己練習するのも一案です。最初のうちは棒読みでも、慣れるとどんどん言葉に魂が入っていき、スクリプトから徐々に離陸していくと思います。

採用側(日本企業)の視点を持つ

日本語教師として個人に向き合い続けていると、どうしても肩入れしてしまうというか、個人視点に偏りがちです。また、「これだけがんばっているからきっと大丈夫!」と信じたくなる気持ちもわかります。しかし、企業が同じように思うかどうかは話が別です。

そこであえて、「自分が採用担当者だったら、この人を採用するだろうか」と、客観的に見てみたらどうでしょうか。本人の話には、説得力が感じられるでしょうか。入社後、活躍するイメージが持てるでしょうか。日本語は完璧ではなくとも、目標に向かって自律的に活動できそうでしょうか。

面接でけちょんけちょんにやられて撃沈するよりも、練習中に撃沈するほうがマシなはずです。「その言い方は、企業が納得しないだろう」と思われるものは、レッスン中に改善しましょう。

就労ビザに関して

就職/転職における日本人と外国人との決定的な違いは、就労ビザです。
新卒の場合、留学ビザ→就労ビザの切り替えは学校と企業がフォローしてくれると思いますが、転職組の場合は、会社によっても異なります。

私は、ビザに関する知識・理解度が高くないことが弱点だと感じていて、先日『外労士(外国人雇用労務士)』の公認テキストブックを買って読み始めたところです。次回の試験日は、日本語教育学会での発表日時とおもいきりかぶってしまったので、その次の回を目指したいと思います。


フリーランスのオンライン教師ということもあり、日本語教師の枠を思い切りはみ出て、「日本語も教えられる、キャリアコンサルタント」という感じで就職/転職支援をしています。

せっかく日本という国を選んで働きたいと思っている方が、幸せな人生を送ることができるよう、今後も枠を決めずに支援できたらと思っています。

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