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COLOR(カラー)

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それはたいへん美しい国でした。

1つ目は赤い国。

目に見えるものすべて、いや、目に見えないものでさえ、すべて真っ赤な国でした。気温は常に40度を超える灼熱(しゃくねつ)のような国であたりは赤い土で覆われていました。さまざまな赤い動物が住み、赤い人間は動物に感謝し、動物を狩りながら暮らしていました。

2つ目は青い国。

なにからなにまで真っ青な国でした。寒い季節と暑い季節とがあり、青い人々は青い海で暮らしていました。青い空の下、青い人々は青い魚を釣り、のんびりと暮らしていました。

3つ目は緑の国。

緑色のもの以外はまったくないとても緑な国でした。気候常に緑は穏やかでしたが、緑色の風が常にびゅんびゅんと吹いていました。そんな風の中でも緑の植物は国中で育ち、人々はそれらの植物を採集して食料とし、穏やかに暮らしていました。

ある日、赤い国の人は青い国の青い空をうらやみました

「青い国の空はなんてきれいなのだろう。あの空をなんとしても赤い国へ持ち帰りたい」

しかし、青い国の空を赤い国へ運ぶことなど今までに誰ひとり試みたことはありません。しかし、赤い国の人はどうしても青い空が欲しかったので、一生懸命に考え、ついに青い空を赤い国へ運ぶ方法を思いつきました。

そこで、赤い国の人はすぐ青い国へ行き、青い国の人に空をわけてくれないかと頼みました。青い国の人は快く青い空をわけ与えました。赤い国の人は意気揚々と赤い国へ青い空を運びました。

しかし、赤い国の青い空は青い国の空ほど青くはありませんでした。

それでも赤い国の人はたいへん喜びました。こうして、赤い国のある部分だけがあかむらさきの空になったのです。このあかむらさきの空を赤い国のほかの人がうらやみ、自分たちの空も青くしたいと、あかむらさきの空を運んでいっきました。

そうこうしているうちに、赤い国の空は一面あかむらさきになりました。

またある日、赤い国の人は緑の国の緑の植物をうらやみました。

「緑の国の植物はとても美しい。よし、緑の国へ行き、わけてもらおう」

今までに一度だって緑の国の植物を赤い国へ運んだことはありませんでしたが、赤い国の人は緑の国の植物がどうしても欲しかったので、一生懸命に考え、緑の国の植物を赤い国へ運ぶ方法を思いつきました。

そこで早速、赤い国の人は緑の国へ行き、植物をわけてくれないかと頼みました。緑の国の人は快く植物をわけ与えました。

赤い国の人は急いで赤い国へ緑の国の植物を運びました。しかし、緑の植物は緑の国のそれとは違い、少しだけ枯れたように茶色になってしまいました。

それでも、赤い国の人たちは喜び、この植物を国中に植え、赤い国は一面赤茶色になりました。

あるとき、青い国の人は赤い国の赤い太陽をうらやましく思いました。

「わたしたちの国にも赤い太陽があったらなぁ。赤い太陽が欲しいなぁ」

そこで青い国の人は、太陽をもらいに赤い国へやってきました。しかし、青い国の人はどうやったら赤い国の太陽を青い国へ運べるのか、まったく見当もつきませんでした。当然赤い国の人も同じです。

しかし、赤い国の人は青い国に空をわけてもらっているので、どうにかして赤い太陽をわけてあげたいと一生懸命考えました。

そしてついに、太陽をわけて、青い国へ運ぶ方法を思いつきました。赤い国の人はすぐに青い国の人にその方法を教えました。

「本当にありがとうございます」

青い国の人々はたいそう喜び、赤い国の太陽を青い国に運びました。しかし太陽は青の国では、赤い国のそれほど赤くなく、少しだけ病気のようにむらさきになっていました。

それでも青の国の人はむらさきの太陽を喜びました。

これに味をしめた青い国の人々は次に緑の国までやって来て、緑の国にそよぐ緑色の風をわけて欲しいとお願いしました。

「どうかわたしたちのあなたがたの緑の風をわけていただけないでしょうか。代わりと言ってはなんですが、わたしたちの青い空をあなたがたにさしあげます」

緑の国の人は、空ではなく海が欲しいと言いました。青い国の人は快諾をしました。

しかし、青い国の人はやっぱり緑の風や青い海を運ぶ方法を知りませんでした。そこで緑の国の人が一生懸命に考え、ついにそれらを運ぶ方法を思いつきました。

こうして青い国の人は緑の国の風を、そして緑の国の人は青い海をそれぞれ自分たちの国へ運んで行きました。

しかし、青い国の風は緑の国のそれとは違い、少しだけターコイズブルーになっていたし、緑の国の海は青い国のそれとは違い、少しだけターコイズグリーンになっていました。

しかし、それぞれの国の人はそれらにたいそう満足していました。

それから赤い国、青い国、緑の国の人はそれぞれさまざまなものをお互いに運んでいきました。

赤い国にいながら、青い国のものを食べることができたし、青い国にいながら緑の国の風を感じることもできました。あるいは緑の国にいながら赤い国の熱を感じることができるのです。3国にはそれぞれさまざまな色が混じり合うようになりました。


ーーそれはとても素晴らしいことであったはずです。


それから時がたち、赤い国の人が自分たちの国の多くのものと同じように、自分たちの国の赤い動物を多くの人に知ってもらいたいと考えるようになりました。そこで、自ら赤い動物をほかの国へ運ぶことにしました。

しかし、これまでさまざまなものを運んではきましたが、生きている動物を運ぶのは初めてです。赤い国の人はあれこれ考えて、さらに何度かの失敗を重ね、ついに緑の国に赤い動物を運ぶことに成功しました。

緑の国の人は突然表れた赤い動物にたいへん驚きましたが、すぐにその動物が気に入りました。しかし、どうでしょうか。赤い国の動物は緑の国へ入ると、灰色がかった深い緑色になってしまいました。

これを見た赤い国の人は驚きました。

「どうやらこれは成功のようで失敗だ。わたしたちの赤い動物はこんな色ではない」

さらに、あらためて緑の国を見わたして驚きました。以前まではあんなに緑の植物であふれ、鮮やかだった緑の国がくすんだ黒っぽい色の国になっています。

「これは一体どういうことだ」

しかし、驚いたと同時にこの風景には見覚えがある気がします。

病気のようにどんよりとしたむらさき色の空、赤茶色く、枯れたような植物に覆われた地面、腐ったような黄緑色をした風。

「確かこの風景は——わたしたち赤い国のそれと同じだ!」

赤い国、青い国、緑の国はそれぞれお互いにさまざまなものを交換してきました。それらは本当にいいことであったはずです。

しかしどうでしょうか。

いつの間にか3国はそれぞれのCOLOR(カラー)を失い、似たような色になっていました。さらに、そのCOLOR(カラー)はつまらないものとなっていたのです。

「何がいけなかったのか」

赤い国の人は、いまやっと立ち止まり、考え始めました。


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