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土方と亀姫 陸

*プロットもなしに感覚だけでテキトーに書いているので辻褄が合わないこともあると思われます。真面目に読むのはおやめ下さい(笑)。

「朱の盆…」

「んだっぺ」

「変な名前の化け物だな」斉藤が笑った。

すると、朱の盆が斉藤を睨んだように見えた。朱の盆の目は大山椒魚の目のように小さいからわからない。ただ彼の紅い身体は怒りに満ちて、さらに朱の色を増した。

「食ってやる」朱の盆は畳を這うように亀姫の前に出ると大きな口を開いた口角から涎がボタボタと畳の上に落ちた。そのまま斉藤を捕まえようとしたが、それを亀姫が右手で制した。

「斉藤、朱の盆は、代々、わらわに仕える者じゃ。無礼は許さぬぞ」

「無用な殺生をしたとか負け戦続けとか無礼なのはそちらではございませぬか」土方が言うと、亀姫は「ふん、それは誠ではないか」と言って笑った。

「化け物のくせに何を申すかっ」斉藤が叫んだ。

「そなたらは、ひとくちに化け物というが、わらわは奥州合戦にてこの地を与えられた相模の佐原経連が築城したおりからこの城に住んでおる狢(むじな)の子孫じゃ。その後、経連は猪苗代氏を名乗ったが、その側室に化けたわらわの祖が、代々、猪苗代氏の側室をつとめたのじゃ。長き時を経れば元の狢には戻れぬ。細かく言えば猪苗代盛国の子孫じゃ。化け物とは違うのじゃ」

(細かく言えばって屁理屈をこねているが、要は狢の化け物じゃねぇか)

土方は、そう言い返したかったが、口には出さなかった。

「そなた、要は化け物じゃねぇかと申したな」

土方は驚いた。亀姫は俺の心が読めるのだ。

「驚くことはない。わらわは化け物ゆえに人の心が読めるのじゃ」

(おやおや、今度は自分で化け物って認めたぜ…)

土方の心を読んだ亀姫の顔が乙女のように紅くなった。

「化け物ではない。わらわの祖は狢じゃが、わらわの祖母の代から狢に戻れなくなったのじゃ。わらわは人じゃ、猪苗代氏盛国の子孫の亀姫じゃ」

土方は面倒になった。亀姫が言うように猪苗代盛国の子孫というのは、間違いではないから姫として認めることにした。

「亀姫様、これまでの失礼お許し下さい」土方が頭を下げた。それを見ていた斉藤も慌てて頭を下げた。

「そういえば、城代の高橋権大夫殿も亀姫様のことを承知なのですか。先ほど亀姫様は知らぬとおっしゃいましたが…」

「ふふふ、朱の盆、見せておあげなさい」

「すがだねぇな…」朱の盆は亀姫に向って頷くと“ぽんっ”という間の抜けた大きな音とともに城代の高橋権大夫に姿を変えた。

「おのれ、高橋様に何をしたっ」斉藤が亀姫たちに向って数歩進んだ。

「おんつぁげす、わがも化げで猪苗代氏に代々仕えているんだなし。むろん、会津の城代が治めるようになってがらもな。それは会津藩祖の保科正之様もご承知だっぺ」


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