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「妄想邪馬台国」1

1978年の初冬。赤城おろしが吹く季節になった。

群馬県伊勢崎市連取本町の平和荘。地元の国立大学に通う異能清春の部屋だ。異能の部屋の北側には歴史書、法律書や犯罪心理学書、それにどこから持ってきたものか気味の悪い死体検案書や犯罪者の陳述書のコピーなどが積まれ、西側には探偵小説や怪奇小説が同じように積まれている。いずれもカビ臭く湿気を伴っていることから相当に古いものだ。本以外は布団がかかったコタツしかない。異能はこの万年コタツで寝ているのだ。万年床だから臭かった。おまけに異能は、僕が誘わない限り銭湯にも行かないから、もの凄臭かったのだ…。

臭かったという過去形であるのは、異能が、やや清潔になったからだ。異能は、少しだけ変わったのだ。それには事情がある。

群馬県や隣の埼玉県の大学生による上野(こうづけ)探偵文学倶楽部を創設してから変わったのだ。埼玉県本庄市の短大生、水無月治子(みなずきはるこ)が倶楽部に加入してから、コタツから寝布団を外して、まめに天日干しするようになった。それだけではなく、コタツ布団を新調して、部屋も掃除するようになった。ただし、掃除をするのは治子が来る編集会議のときだけである。異能は治子に一目惚れしたのだ。

今日は、その上野探偵文学倶楽部が発行している探偵小説同人誌「推理」の編集会議の日である。異能はいつの間にかガスストーブまで購入して、部屋の中は暖かい。治子はいつも素足にジーンズのミニスカートを穿いてやって来た。異能は治子の美脚に魅了されたひとりだった。

「ねぇ稗田くん、邪馬台国ってどこだと思う?」治子が僕に聞いた。次号の「推理」の特集テーマが歴史推理だからだ。治子は邪馬台国について書くと言っている。

治子はコタツに入らずにガスストーブを背にしてぺたん座りをしている。筋肉質の太股がミニスカートにはちきれそうにおさまっている。それを異能はチラチラと見ている。

「推理力は優れているのに、女には、からきし弱いな」心の中で呟いて、ため息をつく。

「奈良の大和朝廷だろう」僕が言うと、
「平凡な答えね」治子が笑った。
「じゃあ、治子ちゃんはどこだと思うんだい?」
「出雲だと思うわ。寒いからコタツに入るわね」と言って、ガスストーブの前から這うようにコタツに美脚を入れた。その際にチラリとピンクのパンティが見えた。異能がそれを見ていたが、その視線に治子が気がついた。
「あ、清春くん、パンツ見たでしょ?」
「見てねぇし!」異能が大声を出して否定した。
「見てたわ!」
「見てねぇよ、誰が、お前のピンク色のパンツなんか…あ」
「やっぱり見てたじゃない。おまわりさーん、変態がここにいますぅ!」
「ち…」異能が舌打ちした。
「あれ?変態がふてくされてる!きゃははははっ!ほうら、見たいなら見なさいよ」治子がコタツから脚を出し、スカートをめくってパンティを見せた。それを見た異能は「ぎゃああ!」と叫んで両目を覆った。その様子が面白いのか治子は立ち上がって異能の前でスカートをめくって「ほれほれ」と言って腰を突き出してからかった。異能には女性に対して免疫力がない。
いたたまれなくなって異能はコタツから出ると「ションベンしてくる」と言って外のトイレに走って行った。
「ダメだよ、治子ちゃん。異能をからかうのはやめなよ」
「面白いんだもん」と言って、コタツに戻った。
「清春くん、トイレでオナニーしてるかもね。ふふふ」
「何言ってるんだよ。もう…」呆れた。
「もう、ほら、編集会議だよ。邪馬台国が出雲だって、どういうこと?」
「大国主命の国譲りってあるじゃん」
「ごめん、知らない」治子が呆れた表情をした。

つづく




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