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米国株式見通し

1.なかなか割安にならない株価
 
 米国株式はFRBによる利上げの継続と今後の景気後退入りが懸念されていますが、そのわりに比較的堅調です。個別銘柄の場中の動きを見ても、寄りで売られて始まった銘柄が引けにかけて買い戻されて、結局、陽線で終わるなど、押し目買いの動きも見られます。特にこれまで売り込まれたグロース銘柄はこのところ堅調です。
 
 株価が堅調な背景には、インフレにピークアウト感が出ていること、その中でFRBによる残りの利上げ幅とタイミングがある程度読めるようになって、利上げが終盤に差し掛かってきているとの安心感も出ていること、そして米国の景気が意外と堅調なこと、また何よりファンダメンタルズ面と比較して割安と思える銘柄も増えてきていることなどがあると思いますが、やはり、長い金融緩和環境などで膨張したマネーが株価を下支えしている面も大きいと思います(図1)。

(図1−1)

世界的な金融緩和で膨張したマネーが金融市場にも流入

(図1−2)

米国マネーサプライ(広義流動性)の対GDP比率

 株価が割高か割安かを測る一つのモノサシとして株式時価総額÷名目GDP(バフェット指数とも呼ばれます)の水準がよく参考にされますが(注)、S&P500時価総額を使ったバフェット指数を見ますと、昨年初めに200という過去最高の割高水準までつけた後、現在は150程度の水準まで低下していますが、依然として経済価値に比べると割高な水準となっています。
 
(注)株式の価値である時価総額は長期的には経済が生み出す価値(経済成長)に収れんするという考えで、時価総額が名目GDPを大きく上回れば割高、下回れば割安とされます。
 
 ただ、ここにFRBのバランスシートの動きも加えてみますと、やはりバランスシートの拡大によって膨らんだマネーが株価を支えてきた面は大きいと思われ(図2)、今後FRBの量的引締め継続でバランスシートが月950億ドルずつ縮小していくとはいえ、ここまで積み上がったマネーを考慮すると、株価が経済価値に比べて割高だったとしても、売られたところは買いの資金も入るなどで、割高さが完全に解消に向かうかは微妙に思われます。

(図2)

S&P500時価総額/名目GDPとFRBバランスシート
(株式マーケットデータhttps ://stock-marketdata.comより作成)

 家計の財務についても確認しますと、図3の通り、家計の可処分所得に占める負債の比率はリーマンショック以降低下傾向にあり、足元は10%を切る水準まで下がるなど、以前と比べて財務の健全性は増しています。コロナ対策で行われた国民への大量な現金給付も貯蓄率の上昇と金融市場への流入につながりましたが、MMFの残高も積み上がっており、今後、株式などのリスク資産投資に使える「待機資金」は比較的潤沢にある状況です。そういう目で株式市場の値動きを見ていますと、成長銘柄など魅力度高い銘柄が売られた際に、押し目買いの資金が入るのも何となく頷けます。

(図3)

米国家計の所得に占める負債比率はリーマン以降低下しMMF残高は拡大へ

 S&P500と予想PERの動向を見ますと、図4の通り、2021年以降低下してきた予想PERは現在約18倍の水準で推移しており、実質金利の上昇を考慮するとまだ割安な水準とは言えないですが、過去20年の平均水準(約17倍弱)に近いところまで低下しており、また、先ほどのリーマンショック以降のマネーの拡大も考慮すると、割高感はある程度解消されてきた印象もあります。

(図4)

S&P500の予想PERは過去平均レベル近くまで縮小(株式マーケットデータhttps ://stock-marketdata.comより作成)

 そうなりますと、株価=EPS(一株当たり純利益)×PERとおけるので、今後、予想EPSがあまり下方修正されなければ、「株価の下値余地はそこまで大きくない」⇒「売られた有望銘柄の押し目は拾っておこう」というセンチメントになりやすく、今の株式市場はそのような動きに見えます。
 
2.注目は景気後退と予想EPS下方修正の行方
 
 従って、市場の注目は相変わらず今後の景気後退と予想EPSの下方修正の行方になりますが、まずは今のマクロ経済の状況として、先週26日に発表された米国2022年第4四半期GDPを見ますと、前期比年率+2.9%と事前予想(+2.6%)を上回り、急速な金融引締めにもかかわらず堅調な数字で、発表時は一旦金利上昇、ドル反発の動きとなりました。
 
 ただ、米国商務省の公表資料を詳しく見ますと、GDPの数字を押し上げたのは主に企業の在庫投資(GDPへの寄与度1.46%)と輸入の減少(寄与度0.71%。輸入はGDPのマイナス項目で、その輸入が減っていればプラス効果となる)であって、国内最終消費は前期比年率+0.8%と、2021年1Qの+9.9%から低下傾向、さらに民間の最終消費は+0.2%と弱く、また住宅投資も▲26.7%と、前期の▲27.1%に続いて2四半期連続でコロナ時の2020年4-6月とほぼ同じ落ち込み幅となっています。このように第4四半期GDPの中身は決して良い内容ではなく、今後の更なる景気減速や景気後退が懸念されるところです。

 一方、予想EPSですが、予想EPSにはストラテジストなどによるトップダウンの予想と、アナリストなどによるボトムアップの予想の2つがあります。現時点のS&P500の2023年トップダウン予想EPSは205ドル近辺であるのに対し、ボトムアップ予想EPSは230ドル近辺と、トップダウンの方が保守的な予想になっていますが(図5)、景気が減速している際は、保守的なトップダウン予想の方に収れんされやすいものと思われます。

 これは、アナリストが2023年通年のEPS予想を見直す際に、2022年10-12月決算や2023年1-3月決算の実際の内容を見てからその都度見直していくことが多いためで、景気が減速している場合は決算数値が下振れしやすく、その結果を見たアナリストが通年の予想EPSを下方修正する動きになりやすい(その結果、当初の保守的なトップダウン予想EPSに近づく)ためです。

(図5)

S&P500予想EPS(2022年〜2024年)

 仮にボトムアップ予想EPSが今のトップダウン予想EPSの水準である205ドルまで下方修正された場合、PERの水準が今と変わらなければ、S&P500の水準は205ドル×18倍=3,690となります。ただ、実際に景気が悪化する中で、EPSが下方修正されてくると市場センチメントも悪化し、PERも下方圧力がかかりやすいので、例えば16倍までPERが縮小した場合は205ドル×16倍=3,280となります(今の株価から約20%の下落幅)

 個人的には株価下落は避けたいシナリオですし、そうならないことを望んでいますが、一応これくらいまでの株価下落リスクもあり得ることを想定しながら投資を行う方がよいかと思っています。仮にそこまで株価が下がるとすれば、時期的には今年後半~来年前半、その際にFRBが急速な利下げに転じてくれれば、その後PERが拡大する形で、市場が底を打つのではないかと期待しています(70年半ばの株価反発も同様の動きでした)。

 また、当面は景気減速~後退入りが懸念されますので、景気の影響を受けづらいディフェンシブ銘柄や、独自の成長力があり、高いROE(自己資本利益率)や営業利益率を達成できるグロース銘柄などが比較的堅調になると思います。

 最後に前回VOL2でも触れました米国インフレ率と名目GDPと株価の推移についてデータを更新しました(図6)。前回もご説明した通り、今回は1970年代半ばとは異なって、景気後退入りする前にインフレ率がピークアウトしてきたことで、GDPは減速しているものの、インフレ率が名目GDP成長率を明確に超えていない状況です(従って、実質GDPもここ2四半期はプラス)。

(図6)

米国名目GDPとインフレ率と株価動向

 その意味では、利上げタイミングが遅れたと批判されているFRBも、利上げ開始後の政策運営は今のところはまあまあ上手く行っているとも言えます。このまま名目GDPは減速するものの、インフレ率も低下して、両者がクロスすることなく推移し、その流れのままFRBが利下げに転じてくれるのが、株式市場にとってはベストシナリオでしょう。そうなることを個人的には願っていますが、果たしてどうなるか、景気と企業業績の動向を注視していきたいと思います。
(投資の際は自身のご判断でよろしくお願い致します。)

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