見出し画像

ワテは創作者じゃない……【リレーエッセイ16 #あぁ愛しのコンプレックス様】

【たまねぎ】

たまねぎを切ると
中からちいさなようせいが出てくる
目に向かって
小さなはりを投げとばす

ーーーーーーーー

小学生の時に、私が書いた詩だ。数年前に母が突然この文章をメールで送ってきて何事か?!と思った。押し入れの古い荷物を整理した際に、何やら私の子どもの頃の書き物が出てきたらしい。

この詩を書いたのが何年生の時だったのか、はっきり覚えていない。担任の先生がえらく褒めてくれた記憶がある……その先生の顔の記憶をたどると、おそらく五年生なのだが、それにしてはずいぶんと稚拙な表現。わざとなのかしら?

★★★

「この子は、何かモノをつくる方へ行くんじゃないだろか。絵を描いたり、小説を書いたり…」

家庭訪問でS先生は私の母にこう言った。自分をそんな風に行ってくれる先生はS先生が初めてだった。帰り際、S先生は私にこう課した。

「窓から見える手稲山を描いて、先生に見せてくれないか。それが、ミユキの家庭学習。できるかい?」


私が育った家は、茶の間の窓から手稲山が一望できた。初めて我が家を訪れた人は、必ずと言っていいほど息をのむ。視界に突如飛び込んでくる山なみ圧巻されるのだ。それくらい迫力ある借景だった。


「それが、ミユキの家庭学習」
S先生にそう言われて、私はすっかりうれしくなった。これまで、あまり褒められも叱られもしない子どもだった私に、S先生が課してくれた「特別な学習」。頻度は忘れたけれど、春夏秋冬、晴れ曇り雨雪、たくさんの山の景色を描いて先生に見せた覚えがある。

山を描くうちに、緑色はひとつじゃないことを知った。季節が変わると山の色は変わる。小さなころから毎日毎日見てたはずなのに、そこにあるのが当たり前すぎて、移り変わる山の表情を気に留めたのは「初冠雪」の時くらいだった。

春、芽吹いたばかり柔らかい緑。
猛々しく、春先のそれとはまるで違う夏の緑。
秋の色づきはまるでパッチワークのよう。
そして葉を落とした黒い山は、やがて雪化粧をまとって静まりかえる。

私が知ったのは、緑の違いだけではない。描く道具も。

家の中にあるものだけでも、水彩絵の具、色鉛筆、クレヨン、パステル、そしてただの鉛筆にボールペン。S先生は描き方に一切の指示も指導もしなかったので、私はその時の気分で書き道具を使い分けた。

すっかり落葉した、ある秋雨の日。
私は山の沈んだ色を、面相筆を使って色づけた。絵の具は、暗めの色彩で緑、赤茶、黒、グレーなどを用意し全てに水を多めに含ませる。山の輪郭に細い細い幾筋もの縦線で色をのせると、「雨」を描いていないにも関わらず、画用紙に表れたのは「降雨の山なみ」だった。

その年、S先生は私に色々なことをさせてくれた。山の絵、花の絵、作文に詩。写生遠足で書いた、なんの変哲もない住宅が並ぶ風景画を、校長室前の額に入れてくれた。

そして1年が過ぎた。進級のクラス替えがあり、S先生は私の担任ではなくなった。

その年までだった。私が何かを作ることに没頭したのは、その1年限りだった。

なんて書くと、なんだか切ない話のようだけど、そうではないし誰も悪くない。単に「やってみようか」と言う人がそばにいなくなっただけのこと。母は私に「山の絵」を描くことを勧めたらしいが、私はもう描かなかった。

「もうやーめた」
子ども心にはっきりそう決意したのか? まったく覚えていないが、おそらく「見せる人」がいなくなって単につまらなくなったんだろう。

★★★

私には、内側から湧き上がるクリエイティブ魂がない。あったとしても、きっと薄くて軽い。ふわっふわだ。

あの時、プロデューサー、もといS先生の伴走があったから山の写生を続けたけれど、孤独を背負って新しいものを生み出す能力も意欲も低かったようだ。都合よく言うなら職人、もしくは注文があれば着手する仕事人。当然、S先生と離れた子ども時代にそこまで深く考えたわけではない。大人になりグラフィックデザイナーを志して職に就いた時、私の能力では決して「芸術家(デザイナー)」にはなれないのだと思い知らされた。

それでも今、私は「文章を書く・作る」を仕事にしている。それは芸術作品ではなく、あくまでお客さまが求める文章だ。10年以上書いてきたけれど、今後「小説」を生み出すような創造性に秀でた書き手にはなれないだろう。

二十代で落ち込んだ私は、三十代で模索を始めた。自分の能力はどこで生かせるのか? と、少しだけ得意なことにしがみついた結果、四十を超えそうになったあたりで私は自分を少し好きになった。

『困ってたんです』『助かってます』『クニさんと一緒にやりたい』『どうしたらいいですか』

きらびやかな能力ではないけど、確かにどこかで役に立っている。

そんな手応えを感じるたび、私のコンプレックスは愛しいものになってゆく。



★★★

こちらのリレー企画に参加しています。


次の走者は、愛しのすーちゃん!

フッ軽で旅好きで校正好きで人が好きで……彼女もいまだ、もがき中…なのかかな?どうかな。そんな彼女のコンプレックス話が読みたいです。
よろしくお願い致します。








この記事が参加している募集

最後まで読んでいただきありがとうございます。面白いと感じたら、スキのハートは会員じゃなくてもポチっとできますのでぜひ。励みになります♪