テクニカルコラム「サスペンションチューニングの目的は、タイヤの接地性の確保とその向上にある。」

 走る、止まる、曲がるといったクルマの基本性能は、そのほとんどがタイヤに支配されているといっても過言ではない。当然のことだが、タイヤは路面に接地していなければその能力を発揮することはできない。

 路面の凹凸やインリフトなどにより、一瞬でもタイヤが路面から離れてしまえば、いかに高性能マシンであってもそのポテンシャルをフルに発揮することは不可能だ。

 サスペンションの最も重要な役割は、刻々と変化する路面状況に対応し、タイヤを確実に路面に接地させることであり、サスペンションセッティングは、走行中における条件変化(自己発生Gの上昇、あるいは外部からの強い入力)に対応した接地性の改善が最大の目的なのである。

スプリングはサスペンションの要

 サスペンションには様々なレイアウトがあるが、基本的にはスプリング、ショックアブソーバー、各種アーム類、スタビライザー、ブッシュなどにより構成されている。これらのパーツが有機的に連係することで、サスペンションは機能している。

 サスペンション構成パーツのなかでも特に重要な役割を担っているのが、スプリングだ。スプリングは、クルマの車重を支える受動的な役割と、加減速時の前後姿勢変化やコーナリング時のロールバランスを制御するといった能動的な役割とを担っている。スプリングには、縮むと元に戻ろうとする(伸びようとする)基本特性がある。荷重が弱ければ伸びようとし、その逆に強い荷重がかかった場合には縮む、この基本特性により路面の凹凸に対する追従性が生まれるのだ。

 一般的に、スプリングが硬い場合には、縮んでから元に戻るまでの時間が早くなる。その結果、能動的な面では旋回時のロール量の減少、加減速時でのリヤのスコート及びフロントダイブの減少などのメリットが生じる。また、受動的な面では、路面からの大きな衝撃も吸収することが可能となる。
スプリングのバネレートは、受動的な面では車両重量とその前後バランス、そして能動的な面では発生するGが一応の目安となる。発生するGはタイヤのグリップ性能により変化する。

 例えば、ハイグリップタイヤを履いてミューの高い路面を走行するような場合には、高いバネレートのスプリングが必要となってくる。これは、旋回時に発生するGが高いためにロールが深くなり、その収束時間が長くなることに対応するためだ。一般的に、自己発生Gが高くなればなるほど、高いバネレートを持ったスプリングが必要となる。

ショックアブソーバーはスプリングとペアのパーツ

 ショックアブソーバーはサスペンションの要であるスプリングとペアになって機能するパーツだ。ショックアブソーバーは、スプリングの伸びようとする基本特性とは逆に、その状態で留まろうとする基本特性を持っている。そのため、ショックアブソーバーだけでは荷重を支えたり、ロールを制御することはできない。ショックアブソーバーはあくまでもスプリングの動きを規制する役割を担うパーツなのだ。

 ショックアブソーバーには大きく分けて単筒式、複筒式の2タイプがあり、それぞれにメリット、デメリットがある。まず単筒式だが、メリットとしては構造が単純で放熱性、耐久性にも優れ、過酷な条件下でも常に安定した性能を発揮する。さらに、路面からの入力に対するレスポンスに優れ、小入力から大入力までのすべての入力に対して敏感に反応する。デメリットとしては、充填された高圧ガスの影響により、乗り心地の面ではやや劣る傾向が挙げられる。

 それに対し複筒式はマイルドな性能を持ち、充填されているガスの圧力も低いので乗り心地の面では優れている。しかしながら、単筒式に比べると構造が複雑で、その構造上、放熱性の面では不利である。また、ガス圧が低いために過酷な条件下では性能低下の原因となるエアレーションやキャビテーションといった現象が発生しやすいといったデメリットがある。

ブッシュの弾性チューニングでハンドリング、トラクションが格段に向上

 サスペンションを構成するパーツのほとんどは金属で作られている。そのため、直接連結すると、スムーズな動きを妨げるばかりでなく、パーツそのものの寿命にも悪影響を与えかねない。さらに、乗り心地や振動面でも問題が生じる。

 ブッシュとは金属のパーツのジョイント部に挿入される一種の緩衝材で、通常は弾性のあるゴムで作られている。この弾性をチューニングすることを「コンプライアンス・チューニング」という。これは、ノーマルブッシュのゴム硬度を高めたり、あるいはゴムに硬度の高いウレタンやテフロン樹脂を使用するなどして、サスペンション構成パーツ間の"遊び"を調整するチューニングのことだ。

 このチューニングの目的は、サスペンションシステム全体の遊びを減少させ、サスペンションが本来の設計値に限りなく近い軌跡を描いて動くようにすることにある。

 コンプライアンス・チューニングのメリットとしては、ハンドリング性能、トラクション性能ともに大幅に向上する点が挙げられる。しかしその反面、乗り心地や振動に関してはノーマルに比べ悪化するデメリットもある。そのため、チューニングの際にはコンフォートユースかスポーツユースかを明確にすることが必要だ。

 コンプライアンス・チューニングの究極とも言えるのがピロボールを使用したチューニングだ。これはブッシュの代わりに金属製スフェリカスボール・ジョイント(ピローボール)を使用するもので、サスペンションを構成するリンク間の遊びは完璧に無くなり、ハンドリング、トラクションとも飛躍的に向上する。その反面、乗り心地の悪化、振動の増大、さらに異音の発生といったデメリットも生じる。モータースポーツユース及び純粋なスポーツマシンには超お薦めだが、ストリートユース主体の場合には、あまりお薦めはできないチューニングといえる。


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