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「あるもので」がとってもすてき

ある日職場に行くと、一通の手紙を渡された。送り主は、先日仕事でお世話になったおかあさんだった。

中を見てみると、そこには3種類のお漬物のレシピと手紙が入っていた。
その夫婦には先日、行政が企画したツアーを実施した際、そば打ち体験でお世話になった。
旦那さんがそば打ちを教えてくれて、奥さんはお友達と一緒に手料理を振る舞ってくれた。
そのときの料理がどれも美味しくて、感動した。

「卵とか肉とかはないけども、ここにあるものだけで」
とおとうさんが言っていた。
今で言うビーガンを地でいく、しかも「あるもので」とてもおいしい食事。

アメリカに留学していたころ、まわりにもビーガンの人が多くて私も影響されていたが、どこか無理をしている印象があった。
ビーガンの友達と食事に行くとお店も限られる、一緒に食事を作ろうとしても調味料から適切なものを探さないといけないといったように、「がんばって」ビーガンに挑戦していたという感じだった。

でもここでは「あるもので」、背伸びをしないビーガン。
しかも美味しいから動物性食品がないことが気にもならない。

豊かな食事ってこういうことなんだろうなと思った。
その日のお品書きは手打ちした蕎麦に加えて、季節野菜の天ぷら、蕎麦湯の寒天、煮しめ、紫芋の寒天、などなど。
なかでも特に感動したのがお漬物だった。
お漬物特有のクセが、大人になった今ではお酒のあてにもちょうどいいのだが、そのお漬物は、角がなく、柔らかい味がした。決して味が薄いわけではなく、いくらでも食べられる優しい味。

みんなおいしいおいしいと言いながら次々に箸が伸びていった。
おかあさんに、お漬物が本当に美味しい、と伝えると「これはゴロゴロ漬けっていうんだよ」と教えてくれた。
「材料を袋に入れたら、一日に一回程度ゴロゴロと転がせばいいだけだから簡単、ゴロゴロ転がすから”ゴロゴロ漬け”」
そう言ったおかあさんの笑顔は、まるでさっきのお漬物のように、柔らかくて優しいものだった。

作ってみます!と言った私に、おかあさんはわざわざレシピを紙に書いて、送ってくれたのだ。
それを見た瞬間、心がじわーっとあたたかくなるのを感じた。
手紙には「今度一緒に漬物を漬けましょう」と記されてあった。
とてもとてもうれしかった。

おかあさんたちは「近くで集まっておしゃべりしたりできる場所がない」と言っていた。
私がカフェの番人になって、座ってお客さんが来るのを待ちながら仕事をして、おかあさんたちがたまに来てくれたら、それはそれは幸せだろうなあと、夢がふくらんだ。

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