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かりんのかんづめ ~貧しさとノーブランドのジャージと妖精~



  洗い物をしながら、お笑い芸人・中川家のラジオを聴いていた。
 中川家のお兄さんである剛さんが「修学旅行を思い出すと辛くなる」と話していた。
「俺な、貧乏やったからなぁ。修学旅行のバックと言えば、みんなスポーツブランド持って来るやろ?ナイキとかアディダスとか」
「そやったな」
 弟の礼二さんが相槌を打つ。
「俺なんて、買ってもらわれへんから。親の茶色い旅行バックやったんよ」
 礼二さんは笑った。
「友達にいじられてな、辛かったわ。もう、笑いにするしかないから。俺も笑いに変えて。おもろいやろ?って」と話をしていた、二人はいじられたから良かった、いじめられなくてと言っていた。

 私は、わかり過ぎる!!と激しく同意した。

 まったく同じ経験をしていた。思い出すと胸がぎゅっと痛くなる、小学校の修学旅行の出来事。

 小学校の休み時間、女友達といつものように廊下などで集まって話をしていた。確か4人くらいだったかと思う。
「修学旅行近くなってきたね、楽しみ!」
「私、新しいジャージはプーマの赤いやつを買ったの」
「私はナイキの黒だよ」
「バックは何にした?私、お母さんが下着も全部新しくしようかって買ってくれて。Tシャツもジャージと同じブランドにしたの」

 私は、驚愕した。
 修学旅行の旅費とお小遣いを用意してもらうだけでも、ありがたいと感じていたから。いや、それ以上に申し訳ないと思っていた。
 そのとき、私が着ていたジャージは、近所にあるスーパーの2階で買ったもの。そう、完全なるノーブランド。
 チャックの部分にYKKとは、どこにも書かれていないやつ!そんでもって、太ももの箇所に英語でスプライトと書かれていた。「Sprite」翻訳すると妖精。

 私は貧乏な妖精。・・・滑稽過ぎる。

 修学旅行は、生涯に1度の大切な想い出作りの時間のはず!とっても楽しみしていたその時が、怖くなってきた。
 友人たちは、まだ楽しそうに話を続けていた。私の心臓はドキドキと鼓動を速め、友人の話が頭に入って来ない。聞けば聞くほど、笑顔が引きつる。

 そして、修学旅行の当日。

 私は、相変わらずspriteと書かれたジャージに、いつものノーブランドのバックを持っていた。

 なんと、意外にも、楽しい想い出がつまった修学旅行となった。

 今、思うと本当に当時の友人に恵まれたのだと思う。とくに何か言われる事もいじられる事もなく、いつもと変わらず楽しく過ごせ、皆と想い出を作る事が出来た。



 だけど、あの瞬間の胸の苦しさと冷や汗をかく感覚は消えないまま残ってしまった。

 私には、3つ下の弟がいた。私が中学3年の頃には、弟も修学旅行へ行く。
 同じ思いはさせたくない、と心をよぎる。

 中学3年になると、私は新聞配達を始めた。

 きっかけは、古い時代遅れな自転車を乗っていた事。思春期にこれでは、想像力に欠けた男子が嫌な事を言ってくる事は想像出来た。それに、好きな男の子にも可哀想という目で見られたくない。

 バスケットボール部でもあったので暇な中学生ではなく。毎朝、眠い目をこすり、低血圧とも戦いながら起きて配達に向かった。

 最初の給与で念願の自転車を買えた。もうこれで、心配はない。新聞配達、最高!!

 その次に、買ったもの。白いチャンピオンのジャージ。

 弟にそのジャージを手渡し、「修学旅行は、これを着ていくと良いよ」誇らしい気持ちでそう言った。

 弟は、素直にそのジャージを着て修学旅行へ向かい、私は笑顔で見送る事が出来た。

 同じ思いをさせずに済んだ事にホッとした。親に負担がかからなかった事も。とても清々しい気持ちになったし、あの頃辛い思いはしたけど、これをきっかけに、もうなんでもない出来事に変える事が出来た気がした。

 数年後、大学を出て社会人となってかなり過ぎた頃、母からいきなり言われた。
「そう言えばかりん、昔、弟のためにジャージを買ってプレゼントしたよね」
 私は母が何を言っているのか、一瞬わからなかった。
「え?ジャージ?・・・・ああ!!そうだ思い出した。白いやつね、お母さんよく覚えてたね」
 母は笑って言った。
「そう、かりんがね。修学旅行に自分だけブランドでも新品でもないジャージで恥ずかしかったから、弟には恥ずかしい思いをさせたくないってね」

 え?私、母親にそのまま言ってたの?(驚)

 やばい!良い話なのに、親にそれを言ったらおしまい!!
 プレゼントするだけで良いのに!

 お母さん、詰めの甘い娘でごめんなさい!!



 今なら、自分だけノーブランドで、YKKって書いてないチャックなんて、ネタになるし。おいしいから、楽しんで着るのに!!
 「スプライト!私は貧しい妖精!」って変なポーズをし、最後はお色気ポーズに流し目で、「チャックにYKKなんて、私には必要ないの!」

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