哲学ダイアグノーシス_-_コピー

note版 哲学ダイアグノーシス 第十八号 ヒューム

<note版>

あなたの想いが哲学になる、

経営者・ビジネスリーダーのための読むエクササイズ

<哲学ダイアグノーシス>

第十八号 ヒューム


第14号でメルロ=ポンティの哲学をご紹介した際に、科学的なものの考え方の限界についてお話しました。メルロ=ポンティに限らず、多くの哲学者たちが、科学的なものの考え方を批判しています。しかしながら、いわゆるルネサンス期以降の近世あいるは近代において、17~18世紀をピークとして、哲学者たちの関心はむしろ科学的なものの考え方の基礎づけにあったのです。自然科学を基礎づけるための「確実な知」、近代の哲学者たちはそれを探求したのでした。

このような方針は、ルネサンス期のイギリスの哲学者、フランシス・ベーコン(Francis Bacon、1561年~1626年)の「知は力なり」という表現に端的にあらわれています。ここで「力」とは自然を支配するための力であり、自然はそれを知ることによって支配できると、ベーコンは考えたのです。

科学者たちは探求の成果として「法則」を導きだすわけですが、法則とは、あるものと別のあるもののあいだの、あるいは、ある現象と別のある現象とのあいだの、特定の関係を表現するものであるとされています。さらにいえば、法則とは、あるもの(A)を原因とし別のあるもの(B)を結果とする、つまりAとBを原因と結果の関係、「因果関係」にあるものとしてとらえて表現するものなのです。

自然の世界に起こる現象を観察し、それが何を「原因」として起きたのか考える、つまり、自然のなかに「原因と結果」の関係、「因果関係」を見出し、それを実験によって検証する。検証の結果、見出された因果関係が正しいことがわかれば、それを利用して自然の世界に「結果」として起こるであろう現象を予測する、あるいは人間が望むとおりの現象を「結果」として生じさせる、それが「自然を支配」するということです。

結果を予測すること、あるいは結果を生じさせること、そのために必要とされるものが「技術」なのであって、ベーコンを筆頭に、近代の哲学者たちの多くが、科学と技術をいわばセットとして探求していたと言えます。

ところでベーコンは晩年、鶏肉を冷凍保存するための実験に取りくんでいる際に風邪をひいてしまい、それが悪化して亡くなってしまいました。さすがは「ベーコン」という名前だけあって、人生の最後まで「肉」とのかかわりが深かったのですね……いや、失礼しました(笑)。

ベーコンのこのような考え方は、その後「イギリス経験論」という立場に発展してゆきます。そして、フランス、オランダ、ドイツといったヨーロッパ大陸でも、「確実な知」をめぐって「大陸合理論」と呼ばれる立場が確立されてゆきます。そしてさらに、「イギリス経験論」と「大陸合理論」それぞれの考え方を、カントが統合することになります。カントをそのような思索へと導いたのが、今回ご紹介する、スコットランドの哲学者でありイギリス経験論哲学の完成者とされるD・ヒューム(David Hume 1711年~1776年)の考え方なのでした。

ヒュームについてお話する前に、「イギリス経験論」の考え方について、簡単に見ておきましょう。

ここから先は

5,907字

¥ 300

「哲学」をより身近なものにするために活動しています。 サポートをよろしくお願いいたします!