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おしまい

………おしまいがやってきた。

前触れはなかった。誰も、知らせてくれなかったし。
ぐうんと曲がった町並みは、
窓の外で、変わらず静かに閉じていた。
風もなく。音もなく。
光だけが表面で揺れていた。

オレンジで、
緑で、
水色で、
金色で、
ピンク色の
………町。
それが世界の全部だった。
いちばん最初から、世界はそうやってそこにあった。
だからそれが世界だった。
そこにいつもあるはずだった。
ずっとずっと、あるはずだった。
なのにおしまい……?

おしまいになるにあたって。
わからないことはいろいろあった。
おしまいでなければ何かわかってたのかというと、
そうでもないような気もするけど。

たとえば窓は?
たとえば町は?
たとえば、光は?
すっかりおしまいになる、
というのは難しいことのような気がした。
ほんとうは何か、おしまいにならないものもあって、
おしまいになるのも、
実はそんなにたいしたことじゃないのかもしれない、
とも思ってみた。
あんまり説得力がなかった。
嘘なのかもしれないし、と思ってもみた。
あんまり説得力がなかった。
おしまい、というのは、もっと、
厳密で正確なもののような気がした。

とてもとても静かだった。辺りは何も動かなかった。
じっとしているのに、何も動かないのに、
すこしずつ、すこしずつ、世界は揺れはじめた。

わからないのも。おしまい。
つまらないのも、おしまい。
ほんとのことも、おしまい。
静かなのも、おしまい。
揺れるのも。町の輪郭も。
オレンジが消えた。
緑が消えた。
水色が消えた。
金色が、ピンク色が消えた。
街が消えた。
窓が消えた。
何もかもがすっかり消えた。


………おしまいがやってきた。

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ビニールのストローの先からぐんにゃりと世界が生まれた。
風の中でたっぷり生きて、おしまいになった。
それだけしか知らない。
誰も、知らない。
そういうことも、ある。



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