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わたしという誰かの演劇_012

 わたしのいるところで、演劇がはじまる。

わたし  明日のパンを買いに行こう、朝食べるパンを、そう思って夜ちょっとコンビニまで歩いた、今日はなにを書こうかな、書くべきことなんてないな、それなのになんでなにか書きたいと思っているんだろう、小説家にでもなりたいんだったらもうちょっと別のものを書くんじゃないかな、って、駅までの道を歩きながら思った、駅までのいつもの道の途中にコンビニはある、セブンイレブンのパンがいちばんおいしいと思います、パン屋さんのパンのほうがもちろんおいしいけど、かなりいい線いってると思うセブンイレブンのパンは、コンビニ各社の中ではって話ですけどねつまりあくまで、誰にも読まれないのはさびしいな、読まれる場所に書いてるわけだからやっぱり、でももう学生でもないしね、みんなそれぞれの生活があってやるべきことをやってるんだから、わたしの話の相手なんてしている場合じゃないっていうのもわかりすぎるほどわかります、もう大人ですから、駅までの道の途中にはひとがすれ違えるくらいの細い路地があって、クルマが通れるほうの道を歩くのに飽きたときには、ときどきそっちの路地のほうを歩きます、駅までの道の途中にコンビニはある、ってさっきも言いましたね、路地を通るときいつも見ちゃう家があるんです、なんで見ちゃうのかってその家、普通の家なのにサボテンを売ってるから、表札と郵便受けのついた門のとなりにちょっとした屋根のついた棚、棚みたいなお店が設置してあって、そこでちっちゃな植木鉢に植わったサボテンをいくつも売っているんです、どれもかたちが違ってかわいくて、それでいつも見ちゃうんですけどその家、植木鉢にはなんだろう、サボテンの種類と値段をマジックで書いた白いプラスチックの紙みたいなのが挿さってて、みんな数百円で全然お手軽な価格設定なんですけど買ったことないです、でもかわいいから見ちゃうんですよね、ほんの一瞬通り過ぎるときに、なんて言いつついまは夜だからその路地は通りません、だって暗いし街灯ないし、不審者だと思われたくないし、サボテンの代金は「お金はここに入れてね」って書いてあるボックスに入れます、貯金箱みたいな、わたしは入れたことないですけど、かわいいサボテン育ててるんでしょうねその家のひとはいつも、ほんとに買うひとがいるかどうかはわからないけど見てほしいんです、せっかくかわいいサボテンなんだし、買おうかな今度、いろんなかたちのサボテンがある、でもいまは明日の朝食べるパンを買おう、ついでに買ったアイスコーヒーを飲みながら、サボテンのない道を帰った、街灯はLED、ちょっとまえに全部交換されたから、いまはとても明るい、

 また明日。

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