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舞台「不動の衆」胃がキュッとなった、コメディの皮をかぶった何か

初めての団体さんはいつも緊張する。ぽこぽこクラブという団体さんだ。そちらに所属している高橋玄太さんが怪我をされたということで、急遽代わりに出演することになったマナベペンギンさん(teamキーチェーン所属)。ずっと観てきている彼が出演するならばと観に行ったのが「不動の衆」という舞台だ。(2022年8月3日㈬~7日㈰、下北沢OFFOFFシアター)。じぶんは8月6日、77年前の広島に原爆が落とされた日に観劇した。

「不動」と言えばマナベペンギンさんが2016年他で出演した「不動四兄弟」という戦争、特攻隊を題材にした舞台を思い出した。もっとも、今回観に行った「不動の衆」は全く異なる舞台だ。戦争ものでもない。”エロナウィルス”という感染症にかかったという人たちと、彼らの周りにいる人たちの物語だ。

エロナウィルス、3分間以上のディープキスをするという超濃厚接触をすると感染するという”噂”があるというウィルスらしい。これだけ聞くと、コメディだとしか思えなく、実際にもちろんコメディではあった。…ハズなのだが、後半、特にラストに行くにしたがって、それだけじゃない雰囲気がプンプン漂ってきた。コメディとだけ称するにはあまりにも不可解で、難解な物語。一度観ただけではじぶんの中で消化できず、感想を書くのも困ってしまうそんな舞台だった。

まず主人公と思しき小林健一(杉浦一輝)。家でも、そして外でもほぼずっと”仕事”をしている。例のウィルスに感染しているため、休養している。のにも関わらずの仕事?人間だ。このウィルスは感染すると、味覚と臭覚が効かなくなるということらしいが、ほかは特に問題なく元気そうに見える。

そんな彼の妻、真由美(戸倉有加)。アニメの「北斗の拳」にハマっているようだが、ただそうなわけではなさそうで、アニメのセリフを唐突に叫んだりと、どうにも様子がおかしい。彼がずっと”仕事”をしていることにも疑問を持っているように見えた。そしてラストで唐突に、健一に愛想をつかしたのか、出て行ってしまった。彼の真由美への態度を見れば大いに納得できるし、鬱憤がたまりにたまってしまったんだろう。最後まで健一が彼女の思いに気付いた様子もなかった。

そして、駐車場に食卓を持ち出して仕事をしていた(この時点で既におかしい)時に出会う、間暮人(坂本健)。独特の雰囲気を持ち、しゃべり方をする特殊な清掃業者。彼も感染者らしいが、大福が大好き。クセがいちばんというぐらいに強いが(ほぼみんな強いが)、きっと彼はたぶん、いい人。たぶんね。

衣装やら物言いやらがいちばんインパクトあるのが、健一たちが住むアパートの大家さん(中原三千代)。大家知世という名前らしいが、劇中には出ていなかったように思う。感染者ではく、そことなく漂う腐敗臭を感じることができ、いつも気にしている。結構、適当な性格。不審者?に石を投げて撃退する以外はたぶんいい人・・。

健一のもとへ、よく訪れるのが彼の部下らしい朝日昇(マナベペンギン)。飄々としていて、いつも仕事で忙しそうだ。彼はきっと本当に仕事をしているし、感染者でもなさそうだし、病んでもなさそうで、唯一ちゃんとまともに話ができる人かもしれない。マナベペンギンさんとしては、過去やってそうでやってない役どころ(のような気がする)で、どこか新鮮に見ていた。クセが多い登場人物の中、癒しというとまた違うが、どこかホッとさせる雰囲気を感じた。(ずっと彼を見てきたからなのか、どうなのかはじぶんではわからない…)

同じく健一の部下、時越百恵(辻捺々)。健一と実際に会って話しているシーンはほとんどない。代わりによく電話で話しているようだ。彼女のシーンは、内覧のシーンがメイン。内覧のシーンはクセのある客(のちほど後述する)を相手にしながらも、しっかり頑張っている姿が見て取れる。・・・と、今はここまでにして、彼女のことはまたあとで書くことにする。

そんな彼女の案内で、ある一室を内覧に来たのが、刑事の格好をした虻内圭司(渡辺佳弘)。夕陽を前にすると俳優になってしまう性質があり、時越をきっとお気に入りのようだ。夕陽のせいで(?)、何度も同じ部屋の内覧に来ている。感染はしていないとは思うが、別の何かに感染しているかもしれない。大家に石をぶつけられて流血したシーンがあり、のちに病院に行ったようだが大丈夫だったのだろうか。不審者のように見えるが、本当に不審者だったのかもしれない。

登場人物はこれで全員。だいたい、みんな、ひと癖もふた癖もある。基本的にはあまりドタバタしないコメディテイストで話は進むが、ラストあたりの時越と健一の対峙のシーン(正確には思い出の中)は胃のあたりがキュッとなってしまう。健一のような上司が前の職場にいたからだ。

物言いや性格は違うし、発した言葉も違うが、雰囲気や時越に対する言動がほぼそれだった。言ってることは正しいのかもしれないが、言う相手が正しくない。少なくとも時越には言ってはいけない。(昇なら軽く受け流しそうではある)彼女の姿がじぶんと繋がる。会社を結局辞めたというのも同じだ。

健一はきっとなぜ時越が辞めたのかはわからないだろう。そして、真由美がなぜ出て行ったのかもわからないだろう。その上、おそらくなぜ会社にずっと行けないのかもわからないだろう(じぶん目線でもはっきりとはわからなかった)。劇中の多くはそうでもなかったのに、最後に嫌いにさえなってしまった唯一の人物であり、同情はしないが可哀想と思える人物だ。

舞台「不動の衆」の感想自体はここで終わる。正直、感想を書きにくかった。つまらないのでは決してなく、難解な舞台と感じたからだ。1度観て、かつ、購入した台本を一度読み通して見て、やっとで書けた感想だ。スッキリ消化できた気がしない。そんな、とてもモヤモヤが残る舞台だったが、嫌いじゃない。本当は2度、3度と観ておきたかったし、観ておくべき舞台だったと思うが、観れる数には当然限りがある。1度でも観れたことに感謝しつつ、観劇した方たちの感想のツイートを気兼ねなく拝見させていただくことにしよう。ちょっとでもモヤモヤを解消するためにも…。


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