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ワンちゃん席

4月1日から健康増進法が改正されて飲食店での喫煙は難しくなった。東京ではさらに厳しい条例が制定されているのでなおのことだ。

とはいえ、健康増進法も東京都受動喫煙防止条例も対象としているのは基本的に屋内での喫煙であり、飲食店であろうとなんであろうと、屋外での喫煙については関知しないという立場である。

そういうわけで、我々喫煙者にとっての福音となるはずの飲食店のテラス席だが、下北沢やら中目黒やらのいけ好かない感じの飲食店のテラス席はと言えば、「NO SMOKING」の文字が躍り、その横に「ワンちゃん席」とか「ペット歓迎」などと書かれている。

寒空の下、テラス席でコーヒーを飲むのはなんとも侘しいが、ニコチン及びカフェインを可及的速やかに摂取するためにはやむを得ないとテラス席を覗けば、そこでは有閑マダムがワンちゃん様を連れてのどかに過ごしている。ワンちゃん様は(飼い主と同様)毛皮に包まれているので寒さも何のそのと言った顔でご主人とのひとときを楽しんでいるようだ。時々有機野菜を用いた横文字の食べ物などを与えられてすらいる。

仮にも一介のホモ・サピエンスであり、万物の霊長を自負するところのわたくしがホットの缶コーヒー片手にリュックを背負いながら突っ立ってニコチンを摂取しているというのにワンちゃん様は優雅なものである。我々喫煙者にとっての約束の地であるテラス席がワンちゃん様によって占領されているのはどういうことか。飲食店の経営者は我々をワンちゃん様未満の存在として見なしている。このようなことが許されるのか。

とはいえ、飲食店の経営者や従業員にとっても、お客にとっても喫煙者よりはワンちゃん様が来るのが望ましいということは理解できる。なによりワンちゃん様はかわいい。かわいい上に素直である。喫煙者はといえば長年の悪い習慣がたたって一様に生気のない顔で、素直に従うのはニコチンに対してだけである。しかも有害な煙までもくもくと吐き出すのだから始末に負えない。

しかしワンちゃん様は人間に対して忠実であるということでペットとしてもてはやされているのだから、人間であるところの喫煙者に対して席を譲るくらいの配慮を見せて然るべきではないか。どうせ敗北するのならば猫に敗北したかったものである。猫は自分こそが世界の中心だと思っているし、私もそう思うからだ。

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