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読書記録:アイザック・アシモフ『鋼鉄都市』

古いSFを読もうということで、今回はアシモフさんを手に取った。ロボット三原則は頭に入っているものの、アシモフの長編を読むのは初めてだ(学生時代に短編はどれか読んでいるかも)。

アイザック・アシモフ 著、福島正実 訳『鋼鉄都市』(早川書房)。

警視総監に呼びだされた刑事ベイリが知らされたのは、宇宙人惨殺という前代未聞の事件だった。地球人の子孫でありながら今や支配者となった宇宙人に対する反感、人間から職を奪ったロボットへの憎悪が渦まく鋼鉄都市へ、ベイリは乗り出すが……〈ロボット工学の三原則〉の盲点に挑んだSFミステリの金字塔!

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初版が1953年。ちょうど70年前のSF作家の想像力に驚くばかりで、ストーリーも設定も古びておらず、最後までワクワクが止まらなかった。

しかしやはり、70年後の人間が読むからこそ興味深い点もあり、特に、地球人口が80億人を超えてキャパオーバーしているような表現には考えさせられる。2021年時点で79億人に迫っている人類の、全員がお腹いっぱい食べるには、作中のように栄養を取るためだけの食べ物が必要になってしまうのだろうか。

昨今、昆虫食の話題が世間を賑わせていたが、この小さな星の『適切なキャパシティ』とはいったいどのように定義して計算できるのか、そしてその腹を満たすためにもし万が一、タンパク源としての昆虫が必要となったなら。。。今のところ反発が強いようだけれど、さらに70年後には当たり前にパンに練り込まれているかもしれない。そんなことをぼんやり想像しながら読んだ。

もうひとつ興味深かったのが、鋼鉄都市には携帯電話が存在していなかったこと。公衆電話のようなところで連絡を取り合っており、なるほど、現代のように個人がこれほどまでに簡単に連絡を取り合うなんて想像し難かったろうなぁと思う。ハンズフリーなんて、テレパシーとほとんど変わらないように見えるし。

アシモフ原作の映画がほとんど作られていないのは不思議に思うが、CGであらゆる表現が可能となると同時に、フィクションに現実がどんどん追いついてしまっていることも一因ではないかと思う。スマホよりも進化した端末が存在する都市を再構築すると、ストーリーも影響を受けるだろう。この小説の映画化の話も無いわけではないようだが、何度も立ち消えになっているところを見ると今後も期待できない。『アイ,ロボット』の二の舞は避けたいだろうし。

さて、現代のロボットたちはまだ人間と同等に振る舞うことができるようにはなっていないが、ChatGPTなどAIの進化を見ると、もはやその未来もすぐそこまで来ていると感じずにはいられない。一方で最近面白いなぁと思うのが、「役に立たない」ロボットや「弱い」ロボットたち。

これはロボットなのか?と思わなくもないけれど、癒やすことを主目的にするならば、言葉も表情もいらないということなのだろう。ロボット三原則の全く外にいるようでいて、しかし、ロボットとは何か?人間とは何か?という三原則がカバーしきれない問題について考えさせるような存在のように感じる。

私たちに必要なロボットの、その理想や「ちょうど良さ」について考えるとき、それは人間の「尊厳」とか「価値」について考えることにもなる。人間と同じ能力のロボット、いや、もはや人間では及ばないスピードを内蔵したロボットは、私たちを幸せにしてくれるのだろうか。アシモフの問いは依然として私たちの前にあって、いつか解決できるのか、それとも永遠に自問自答を繰り返さなければならないのか、いや、それすらもロボットが答えてしまう未来がくるのだろうか。

社会が小説より遥か先へ飛び越えてしまう前に、続編を読もうと思う。



さて、球春到来、頭のなかはWBCでいっぱいです。土曜日からはセンバツ高校野球も始まるし、大相撲も面白い。ウィンタースポーツはシーズン最終盤で、特に今週末から始まるカーリングの世界選手権が楽しみ。

不注意で足の指を怪我してしまってしばらくは遠出できそうにないので、テレビにかじりついて応援する日々を送ります。

さぁ、侍ジャパンはアメリカでどんな試合を見せてくれるでしょう。誰も怪我せずに、楽しく野球ができますように。

ではでは、今回も読んでいただきありがとうございました。

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