水月斎(くらげさい)

NOTEではアニメ談論(批評、評論、随想のような感じ)アニメタファーや書評をやっていき…

水月斎(くらげさい)

NOTEではアニメ談論(批評、評論、随想のような感じ)アニメタファーや書評をやっていきたいと思います。

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  • リコリス・リコイル談論

    リコリス・リコイル~君の心臓〈セカイ〉を撃ち抜くエモい令和の弾丸。2022年7月~9月  リコリス・リコイルについての談論をまとめました。 #1 1984 リコリスはディストピアのメタファー #2 ダイハード 構成、演出、スピーディーな展開が凄い #3 スタンドバイミー 魅力的なキャラクターたち #4 アラン機関、真島、DAの理念、千束の信念 #5 リコリコのテーマ #6 すべては「エモい」のために。付アランの幸福論

最近の記事

リコリス・リコイル~君の心臓〈セカイ〉を撃ち抜くエモい令和の弾丸。2022年7月~9月 #6:ニューシネマパラダイス

 目標と目的は違う。目的のために目標がある。キャラクター、演出、構成、テーマ、音楽……すべてを「高品質」にする、そんな目標をひとつひとつ攻略していく。  その目的は「エモさ」。すべては「エモーショナル」を達成するため。リコリコは完成度の高いエモいシーンを中心に成り立っている。  一例をあげると、人気を決定づけた3話、DAの噴水の前で他のリコリスたちの嘲笑をものともせずにたきなを抱きしめ、高い高いをするようにたきなを抱き上げて回る、通称メリーゴーランドのシーンだ。  13話

    • リコリス・リコイル~君の心臓〈セカイ〉を撃ち抜くエモい令和の弾丸。2022年7月~9月 #5:今を生きる 

       リコリコが提示したものはなんであったか。データや理念や思想ではなく目の前の人をもっと信じよう。言葉より行動、誰も生まれ落ちた境遇、時代や国を選べはしない。配られたカード(ガチャ)の中、自分で考えて決めよう、選択して精一杯生き抜こう。  先の見えない時代に沿った物語。『自分でどうにもならないことに悩んでもしょうがない!受け入れて~全力!だいたいそれでいいことが起こるんだ』という千束の言葉はある種の諦観を含んでいる。  常に死と相対し死生観を培った彼女らしい言葉だ。この過酷な

      • リコリス・リコイル~君の心臓〈セカイ〉を撃ち抜くエモい令和の弾丸。2022年7月~9月 #4:地獄の黙示録

         アニメにテーマは必要かはよく議論される。テーマ、というより理念であろう。人はなぜ闘争するか。利益や感情的な好悪、希望など、様々であろう。しかし、もっともわかりやすく欲望されるのが、考え方、理念の違いによる闘争である。  三つの大きな理念がリコリス・リコイルでせめぎ合う。リコリコは利己利己ですらある。  あくまで物語に奉仕するために理念の闘争がある。ただ理念重視、理念布教のための物語はイデオロギーの操り人形となり魅力をたちどころに失う。千束とたきなの物語のため、立ちはだかる

        • リコリス・リコイル~君の心臓〈セカイ〉を撃ち抜くエモい令和の弾丸。2022年7月~9月 #3:スタンドバイミー

           優れたキャラクター造詣。  ヒロイン千束の魅力が物語を牽引する。どこまでも明るく楽しく振舞い表情ゆたか。そして銃の天才であり文句なく有能。ちょっとしたルーズさ、お間抜けさで親近感を出すのも忘れない。正に今の若い世代の理想の陽キャである。  日常シーンの天真爛漫な笑顔と戦闘シーンの彼女の怜悧な横顔の落差に皆が心を鷲掴みにされる。  きれいごとの嫌われる時代である。彼女の「命大事に」は「人の時間を奪うのが嫌」という個人的信念。不殺の誓いを押しつけがましくなく説く。なぜなら

        リコリス・リコイル~君の心臓〈セカイ〉を撃ち抜くエモい令和の弾丸。2022年7月~9月 #6:ニューシネマパラダイス

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        • リコリス・リコイル談論
          6本

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          リコリス・リコイル~君の心臓〈セカイ〉を撃ち抜くエモい令和の弾丸。2022年7月~9月 #2:ダイハード

           アニメは演出と構成が9割であると個人的には思っている。凡庸な話でも構わないし、どこかで見たことのある設定、キャラでもいい。見せ方がすべてであり、料理人の腕一つにかかっている。  一見非現実的に見える千束の超接近戦の説得力を持たせる数々のガンアクション演出。神は細部に宿る。  二人が近づくシーンはいつもエモーショナルだ。真島のシーンは対照的に何を仕出かすかわからない危険な男の臭いがプンプンする。  同時にブラックコーヒーが飲めない、洋画好きとコミカルな一面も演出でみせる

          リコリス・リコイル~君の心臓〈セカイ〉を撃ち抜くエモい令和の弾丸。2022年7月~9月 #2:ダイハード

          リコリス・リコイル~君の心臓〈セカイ〉を撃ち抜くエモい令和の弾丸。2022年7月~9月 #1:1984

           どこかで見たことのある明るい髪色と黒髪の少女のバディキャラクター、不殺主義の天真爛漫奔放な明るいレッドに頑ななエリート主義のブルーが心を開いていく、決して珍しくない少女で編成された軍事組織+喫茶店もの、ある意味手垢にまみれているが故普遍的な才能や死生観を巡るテーマ、暗躍する組織に謎が謎呼ぶストーリー、みんな大好きガンアクション……今さら感は大いにある。陳腐でさえある。  しかし料理とはこの世界にただ一羽残ったドードー鳥のゆで卵を出すことではない。  ヴィシソワーズにオマー

          リコリス・リコイル~君の心臓〈セカイ〉を撃ち抜くエモい令和の弾丸。2022年7月~9月 #1:1984

          刀使ノ巫女~斬って結べその縁を。少女撃剣群像劇。2018年1月~7月

           400年の長きにわたり荒魂と言われる異形のものと日本は戦いを繰り広げていた。この荒魂を討伐するのは魔を祓う御刀に選ばれた少女たちのみ。    少女たちはそれぞれ、伍箇伝といわれる5つの学園に所属し、国家公務員待遇で各地へと派遣されていた。彼女達は日本古来の流派を修め厳しい戦いを駆け抜けていく……よくある退魔もの、といってしまえば、それまでだ。だが、それで観ないのは実に惜しい。昔ながらの骨太の群像劇が展開し、90年代の夕方アニメ的な前向きな明るさと壮大な世界観が楽しい。 剣

          刀使ノ巫女~斬って結べその縁を。少女撃剣群像劇。2018年1月~7月

          君の名は。・・・・・・少年少女の天翔る時遡る新日本神話創成。2016年劇場公開作品  

          『よりあつまって形を作り、捻れて絡まって、時には戻って、途切れ、またつながり。それが組紐。それが時間。それが、ムスビ』 「君の名は「結び」という言葉がキーワードになっており、「組紐」がそれを象徴するイコンとして扱われている。私たちも極めて巧妙に編まれたこの作品世界を解きほぐすのではなく、さらに編み組んでいこう。  ベースにある映像と音楽の糸。新宿も糸守町もありふれた風景も光に満ちている。明度や彩度をあげ過ぎたような新海誠作品の風景描写はどうも今まで馴染めなかったが、今回

          君の名は。・・・・・・少年少女の天翔る時遡る新日本神話創成。2016年劇場公開作品  

          古見さんはコミュ症です・・・・・・僕のクラスの天照大御神。2021年10月~12月/2022年4月~6月 

           古見さんはコミュ障ではない。きちんと人の気持ちがわかり、自分の気持ちもわかり、はっきりとした意志もある。極端に内気で赤面症なだけだ。むしろコミュ力モンスター長名や山井の方が問題である。友達100万人は無理、人間が覚えていられる顔は最大150人程度であるというし、拉致監禁など言語道断。  立て板に水、どれだけ流暢に会話ができても人の気持ちに配慮しない、またサイコパスのように自分の利益のために人のことは一切省みない、人に害を与えてまったく悪気がない、言葉の裏を読めない、読んで

          古見さんはコミュ症です・・・・・・僕のクラスの天照大御神。2021年10月~12月/2022年4月~6月 

          スーパーカブ……新たなる日常を疾走する。2021年4月~6月 

           もはや日常アニメは存立危機事態であろう。よつばと!を憎む、というコラムでは、よつばちゃんを取り巻くあのリベラルで裕福な雰囲気に耐えられない、と評論された。余裕をもたらす豊かさはもはや憎悪の対象となりつつある。  この衰退する日本、格差社会でもはや日常アニメは存在できないのだろうか。いや、ある。マシンを相棒としてどこまでも走る、そのかけがいのない日常をかみしめる、この世の広さを知るために走る物語を。  主人公の小熊は失踪した母親に捨てられ公団住宅に住み、母親の残した僅かな金

          スーパーカブ……新たなる日常を疾走する。2021年4月~6月 

          裏世界ピクニック・・・・・・少女たちのサバイヴ戦線。2021年1月~3月 

           大学生の空生は見捨てられた廃ビルの扉から、裏世界といわれるネットロアを所以とした怪現象、異生物たちがうろつく世界へと忍び込む。ストガルツキーの名作SF小説ストーカーをモチーフとした作品である。タルコフスキーが映画化した。  死にかけた際に救われ、出会った金髪の少女、鳥子と共に裏世界を冒険する。裏世界にはとんでもなく金になるアイテムが転がっている。目的は金だけではない。鳥子は失踪した先輩を探していた。二人で秘密を共有する共犯者はもっとも親密だ、とニヤリと笑う鳥子。嫉妬や疑い、

          裏世界ピクニック・・・・・・少女たちのサバイヴ戦線。2021年1月~3月 

          安達としまむら~「世の中に絶えて桜のなかりせば春の心はのどけからまし」萌えを超えて尊ひへ到れ。2020年10月~12月

           正直、好きなタイプのアニメであるが作画がなあ、というのが第一印象であった。安達も島村もあまりに華がなく、モブなどは顔が黒い。背景は平板。手抜き系かあ、とさえ思えた。あーあ、前番組のアサルトリリィ担当のシャフトかPAワークスがやってくれればなあ、と……しかし、回を追うごとに まさに背景、キャラクターに命が吹き込まれたかのように活き活きとしてくる。  よいアニメはにおいがする。雨のにおい、体育館のにおい、島村の勉強部屋のにおい、炬燵のにおい、春の夕暮れのにおい、私は女子高生だ

          安達としまむら~「世の中に絶えて桜のなかりせば春の心はのどけからまし」萌えを超えて尊ひへ到れ。2020年10月~12月

          イエスタディをうたって~ノスタルジーは古びない。2020年4月~6月

           美しい場面構成、すばらしい演出、原作の後半をバッサリ切ったのもよい。これが完全版「イエスタディをうたって」だ。原作者冬目景の世界を見事表現してくれた。声優さんたちも実にいい。ハルなんて想像通りだ。1998年の時代の空気が蘇る。物語内の時間は一年だが、単純に17年も完結にかかってしまったからだ。    フリーターの陸生はカラスを連れた少女、ハルに付きまとわれる。陸生はといえば高校教師になった大学時代の友人、榀子に片思いを引き摺っている。一方、榀子には既に亡くなった愛する人がお

          イエスタディをうたって~ノスタルジーは古びない。2020年4月~6月

          アニメタファー

           アニメじゃない アニメじゃない 本当のことさ~   みんなが寝静まった夜  窓から空を見ていると   とっても凄いものを見たんだ~    アニメを意識的に見るようになってかれこれ20年たつ。かつては同人誌を作り作品を一緒に楽しみああだこうだと喫茶店やファミレス、居酒屋で論ずる仲間も一人去り、二人去り、ついに誰もいなくなってしまった。内輪で仲間同士まるで交換日記のようにアニメ評を交していたのだがそれもなくなり、原稿だけが残った。  そこで私個人の備忘録というか、そうした文章