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マーケティング基礎セミナー原稿から「マーケティングの歴史」

先日、商工会議所でマーケティングの基礎セミナーを開催することができました。3年ぶりの対面セミナーです。

午前中はマーケティングの歴史から、マーケティング・プロセスを説明し、企画書作成のポイントを話して企画書を書いてもらいました。

午後はフレームワークの演習です。午前中に書いた企画書に基づいて「SWOT分析」、「3C分析」を個人ワークしてもらい、それからグループに別れて各自の企画書をプレゼンし、グループで1つを選んで、「STPーVP分析」、「カスタマージャーニーマップ」作成を行いました。

講義の原稿からマーケティングの歴史の部分を紹介します。

マーケティングの始まり

マーケティングという概念は、1900年ごろ、アメリカで誕生したのだそうです。

18世紀後半にイギリスから始まった産業革命によって、アメリカでも製品の大量生産が可能になりました。大量生産は、大量消費によって支えられます。イギリスは海外の植民地に製品を送って大量消費を実現しました。

しかし海外に植民地を持たないアメリカは、生産した製品を国内で消費しなければなりません。そこで、大量生産した製品の販売のためにどうやって需要を作っていくかをあれこれ考えるようになりました。これがマーケティングの原型なのだそうです。

市場=Market を作っていくのでMarketに行為や過程を示すingをつけてできた言葉がマーケティングです。



現代のマーケティングの定義

マーケティングの定義を検索をしてみると、さまざまな定義があるために、混乱してしまいます。

さらに、定義の文章は、マーケティングのカバーする広い範囲を説明しようとするため、抽象的でわかりにくいです。

例えば、マーケティング発祥の国であるアメリカのアメリカマーケティング協会の定義は、

「マーケティングとは、お客さま、依頼人、パートナー、社会全体にとって価値のある提供物を創造・伝達・配達・交換するための活動であり、一連の制度、そしてプロセスである」

アメリカマーケティング協会


日本マーケティング協会の示すマーケティングの定義は次のとおりです。

「マーケティングとは、企業および他の組織がグローバルな視野に立ち、お客さまとの相互理解を得ながら、公正な競争を通じて行う市場創造のための総合的活動である」

日本マーケティング協会


マーケティングの定義だけを集めて解説しているホームページもあります。それだけいろいろな解釈があるわけです。

マーケティングの実務を担当する皆さんは、こうした定義に深入りするよりも、実務としてマーケティングの考え方や、やり方を身に付けて自分なりに、もしくは自社なりにマーケティングの定義を決めれば良いでしょう。


マーケティングの進化

時代の変化に合わせて、マーケティングは進化してきています。どのように変化してきたのかを知ることで、マーケティングの理解が深まります。マーケティングの進化を説明しているのは、マーケティングの父と言われているフィリップ・コトラーです。

コトラーは、マーケティングの進化をわかりやすくバージョンで示しています。

マーケティング1.0から始まり、2009年に「マーケティング3.0」を、2016年には「マーケティング4.0」、2021年に「マーケティング5.0」を提唱しています。

ここではマーケティング1.0から4.0の流れを追ってみましょう。

マーケティングの進化



マーケティング1.0

マーケティング1.0は、1,950年代~70年代、「製品中心」のマーケティングです。目的は製品を販売することで、産業革命により大量生産が可能となり、その需要創造のためにマーケティングが生まれました。

V1.0のマーケティングのマーケティングコンセプトは、製品開発であり、価値提案は製品の機能的価値でした。

あれば生活が豊かになる製品です。例えばT型フォード。1908 年に発売されたフォード・モデル T は、当時としては画期的だった流れ作業オートメーションシステムによる大量生産方式で、価格の大幅な引き下げに成功し、自動車をより身近なものにしました。

大量生産するために元々生産していた数種類の車種を「単一の黒一色」に絞りました。それまでの富裕層だけの市場を変えました。

企業側が製品と価格で市場をコントロールできる「企業主体の市場」です。これにより車社会の市場を創造し、作れば売れるという状況を生み出すことに成功したのです。



マーケティング2.0

次のマーケティング2.0は「人間中心」のマーケティングです。1980年代~1990年代、競合の増加、オイルショックによる不況で消費が冷え込み、製品中心のマーケティングでは通用しなくなりました。

技術が発展し、どの企業も比較的製品を低価格で生産できるようになり、市場の価格競争が激化しました。

そこでマーケティングは消費者がなにを望むかを考える「消費者思考」に変化して、差別化することがマーケティングコンセプトとなりました。「消費者主体の市場」の時代となったわけです。

マーケティング2.0では消費者の要望をしっかり把握する必要がありました。そこで誕生したのが「STP分析」です。

マーケティング3.0


マーケティング3.0は「価値主導」のマーケティングです。2000年代に入ると、消費者の要望は多様化し、製品の差別化も難しくなりました。つまり製品価値だけでは消費者に選ばれなくなったということです。

消費者満足や事業の差別化のテーマを引き継ぎつつも、マーケティングの目的が製品を販売することから「世界をより良い場所にする」という価値主導に変わっていきます。

消費者は単に自分の要求を満たす製品やサービスではなく、企業のミッションやビジョン、製品の裏側にあるストーリーや、特定の製品や人に対する共感で商品を選ぶようになりました。精神的充足も期待するようになったのです。

マザーハウスの事例

例えばマザーハウスというバッグや小物を販売する企業があります。マザーハウスのミッションは「途上国から世界に通用するブランドを作る」です。バングラデシュやネパールなどの途上国を生産拠点とし、現地で採れる素材を使用して製品を作っています。消費者はマザーハウスの製品を購入することで、社会貢献している気分になれます。

また社長兼デザイナーである山口絵理子さんは強い思いと起業ストーリーを各種メディアに発信して、ブランドや山口さんに対する共感でファンを獲得しています。

マーケティング3.0は伝統的マーケティングの究極段階とコトラーは述べています。


マーケティング4.0

2016年にマーケティング4.0が発表されました。これが最近の主流です。マーケティングの目的は一歩進んで、「お客さまを感動させて、忠実な推奨者にすること」になりました。

インターネットやソーシャルメディアの発達により、消費者から消費者への推奨が当たり前となりました。

製品そのものの価値や社会的価値だけでなく、その製品に関係するさまざまなお客さま体験が評価されるようになりました。お客さまは感動した体験をソーシャルメディアを使って他者に推奨します。その影響が大きくなったのです。

そのために企業は商品だけでなく、お客さまサポートやホームページなど、さまざまなお客さま接点で一貫性のあるお客さま体験を提供することが重要となってきました。

いくら商品が優れていても、サポートや営業マンの対応が悪ければ、その体験をソーシャルメディアで拡散してしまいます。

そのために「カスタマージャーニー」が注目されるようになりました。

カスタマージャーニー

カスタマージャーニーは企業とお客さまのさまざまな接点でのお客さま体験を棚卸しします。

マーケティング施策を設計するために、時系列でお客さま接点を並べ、その時々のお客さま体験を消費者視点で設計していきます。

スノーピークの事例

アウトドア製品のスノーピークは熱狂的なファンが多いことで有名です。スノーピーク製品を愛するお客さまは、自分たちのことをスノーピーカーと称し、ファンコミュニティができています。

本社敷地内に広大なキャンプ施設を持ち、キャンプのイベントを年に15回も開催しているそうです。それはプロモーションとしてやっているわけではなく、「キャンプの魅力を広げたい」というキャンパーとしての信念があり、お客さまと同じ目線で、お客さまとコミュニケーションしています。イベントには、役員など会社の意思決定にかかわる人物は必ず参加しているそうです。

その姿勢がスノーピーカー達に愛されて、感動した体験をソーシャルメディアを使って他者に推奨しています。


生き残っているマーケティング・コンセプト、施策

このようにマーケティングは時代と共に変化し、さまざまなマーケティング・コンセプトや施策が生まれています。

コトラーは著書『マーケティング5.0』で、時の試練に耐えて生き残っているのが、セグメンテーション、ターゲティング、ポジショニングというSTPのコンセプトと、製品、価格、流通、プロモーションの4Pモデルで、世界中で普遍的なものになったと述べています。

この普遍的なマーケティング・コンセプトを軸にどのようにマーケティングを進めたら良いのかが、コトラーが言うマーケティング・プロセス「R-STP-MM-I-C」です。

マーケティング5.0

2021年に出版されマーケティング5.0は、ビッグデータの分析や、AI技術などを使って、より高次でオートメーション化された新しいマーケティングについての提唱になっています。興味にある方はぜひ書籍をご覧いただければと思います。

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