あたしの飼い主は、年寄りのくせに、あたしを置いてすぐ出かけちゃうんだから。
　ケイコ、おねえちゃんどこに行ったの。
「映画見に千葉に行ったよ」
　一昨日も行ったんじゃないの。
「この前は、『スパイ・ファミリー』で今日は『ウィッシュ』なんだって」
　ふうん。
　映画、好きなのかな。
「今日は、久しぶりに障害のある友だちと行くんだって」
　おねえちゃんに、そんな友だちがいたの。
「よくは知らないけど、ずいぶん年下の友だちなんだって」
　ふうん、まあいいや。あたしはお昼寝してる。
　大丈夫だよ、ヘルパーさんと看護師さんが来たら、ちゃんと年末のご挨拶はするからね。
　車椅子のケイコさんは、ヘルパーさんにお風呂をお掃除してもらって、訪問看護師さんにお風呂に入れてもらっているのよ。
　おねえちゃんは背が小さくてお風呂の底に手が届かなくて、お風呂は狭いから中に入ると動けないし、力もないからきれいに洗えない。
　力がないし手が震えちゃうから掃除機が上手く使えなくて、ケイコさんのお部屋も掃除してもらっているの。
　おねえちゃん、あたしちゃんとご挨拶しとくからね。

「ただいまぁ」
　お帰り、おねえちゃん、あたしのおやつは。
「いま、あげるよ。ケイコにもシュークリームとプリンあるよ」
「ありがとう、映画は？」
「うーん、スパイ・ファミリーのほうが面白かったかな。眠くなっちゃったもん。福山は良い声だったけどね」
「ディズニーなのに、面白くなかったの？」
「途中からは面白かったよ」
　おねえちゃん、あたしのおやつを早くちょうだいよ。
「ああ、ごめんね。クララ、ごくろうさま。いい子だね」
　あたしはいつだって、いい子なんだからね。
　なでなでするより、おやつね。
「ハイハイ！」