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ラピスヴェールに秘められた、花屋好みの花の奥義〜竹久夢二との邂逅(かいこう)

倉敷市西中新田の花屋、アトリエ・トネリコでは、ちまたで人気のある鮮やかな花ではなくて、あえて、もの思いに沈んだような、落ち着いた花を扱っています。

店内の、中間色の花々のなかで、特に気になったのが、ラピスヴェールという、少しくすんだ淡い紫色で、花びらが中心から外へ、薄色のグラデーションがある、ばらでした。生産者は愛知県の天野バラ園さんで、岬 千尋さんによれば、元花屋さんなので「花屋心がわかる生産者さん」なのだそうです。その意味を解きたくて、さっそく買い求めました。

花を保護するための、包装紙から覗いた花は、目立たずとても密やかです。

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ですが、控え目な色彩のグラデーションを伴って、花の命が静に湧き上がってくる様が、とても神秘的です。

それは、竹久夢二の女性への、しつらえのようです。

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夢二が描いた和服の女性は、手の仕草や、髪型や、紫の着物がとても印象的で、アンニュイとした表情が謎に満ちています。そんな女性は、首筋と袖から僅かに長襦袢の柄がのぞいていて、さらに付け襟や、裏地の色彩が、女性の内面を垣間見る、小さなアクセントになっています。

花も夢二のしつらえも、しずかに湧き上がって、にじみ出るような内面の表現が、なんとも言えず魅力的です。

花は、谷𠮷孝之さんの備前焼の花器に生けてみました。

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すると、花は、人生経験を積んだ女性の魅力を、しとやかに、語り始めました。

それは、夢二の描く、宵待草の女性のようです。

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女性は、内に秘めた情念が仕草で表現されていますが、それだけでなく、長襦袢の襟を大きく出していて、袖からも長襦袢が出ています。腰の部分からも僅かに赤い腰紐が覗いていて、それらのしつらえは、強い情念が、ついには、外に滲み出したのを伝えています。

花を後ろに傾けてみると、緩やかなS字カーブを描いています。

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夢二が描く多くの女性達もS字カーブの姿勢です。

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花を見ていると、もたれかかっている木の幻が見えてきそうです。女性は、引いた顎に力がこもっていますが、花も、がくが跳ね上がって、力が放出されています。

岬さんご夫婦に確認したわけではありませんが、花屋心がわかる、いわゆる玄人好みの花とは、花が発散する綺麗さや鮮やかさを受け取るものではなくて、人の内面を投影できる花なんじゃないか・・、と想像しました。

最後に、竹久夢二や着物に関する多くの教えをいただいた、倉敷本通り商店街、ギャラリーメリーノ店主、清水繁子さんにお礼申し上げます。清水さんは、芸術学部を卒業後、京都で創作着物作家として活躍された方で、プロとしての確かな見識をご教授下さいました。

絵の画像は、お店の許可を得て、アップしました。

番外編
ラピスヴェールは、アトリエ・トネリコで購入して1カ月以上咲き続けました。花は生けられたまま、美しいドライフラワーになりました。切り採ってドライフラワーにして飾りました。

茎からは、根が発芽していましたので、挿し木にしました。
1年が経過しました。茎から新しい枝が伸びて、先端に小さな白い花が開花しました。それは少しくすんだ淡い紫色の花ではありませんでした。

ラピスヴェールは、バラ園で接ぎ木され、土台となったバラの生命力に支えられて開花していたのでした。姿を現した白いバラは、ラピスヴェールの“育ての親”だったのでした。ドライフラワーとなったラピスヴェールと並べて、1年ぶりに親子の再会を果たせました。

1年ぶりの親子の再会

(2022年8月8日)

番外編2
白いバラが咲き終わったあと、秋になって、バラからは新しい枝が伸びてきて、先端に花を咲かせました。

新しく伸びた枝(左)

それは、くすんだ淡い紫色の花でした。

2代目のラピスヴェール

ラピスヴェールとの世代をまたいだ再会でした。
(2022年12月14日)

番外編3
今年は、異常気象と猛暑とがつづいていますが、季節は巡ります。暑さで弱っていたバラをリビングで休ませていたら、少し小振りですが、またあの味わい深い花と出会えました。

3シーズン目の花

今年の花は、土台となったバラとラピスヴェールとが融合したような姿をしています。2個体のバラが助け合って、遺伝子レベルでひとつに融合することで、命をつないでいるのでしょうか? 生命の神秘を感じました。
(2023年9月4日)

つづき
花は、数日後に土台となったバラの姿に変わりました。けれども、花びらはほんのりと緑色に染まっています。ラピスヴェールのなごりなのでしょう。

溶け合いながら、せめぎ合う、ダイナミックな生命の営みを目の当たりにしました。
(2023年9月12日)

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