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石田和也さんの花器に観られた苦悩の表現について〜ムンク・作「叫び」との共鳴〜

表題の画像は、新進気鋭の備前焼作家、石田和也さんによる花器です。2022年の新年が明け、倉敷美観地区の備前焼ギャラリー・倉敷一陽窯を訪れると、石田和也さんの窯出しされたばかりの新作が上級品の棚に並べられていました。そのうちの一点ですが、特別に惹かれました。
石田作品の象徴的なデザインである、らせん模様の花器がですが、胴体の途中が捻れていて、瞬間的に苦悩の身体感覚が惹起されます。作家の深い苦悩の表現なのでしょうか。

しばらくじっくりと作品を観てみると、色彩が多彩で虹の様に帯状に変化し、捻れの上下で優美な流れを残しているので、図案的なデザインです。石田さん自らの内なる苦悩と言うよりは、人の苦悩・孤独・不安を、一般化して、シンプルに表現した作品と思われました。

すぐに思い浮かんだのが、かつて、東京・上野で観たムンク作「叫び」です。

エドヴァルド・ムンク「叫び」1910? オスロ市立美術館*

「叫び」は、世界でもっとも有名な絵画の一つです。ムンクの個人的な体験をモチーフにしたものですが、そこから、「不安」「孤独」という人類一般の根幹に関わる感情を視覚的に表現したものです。ですから、ポップカルチャーにおいて、とても人気があります。石田さんの花器も、ムンクの絵も、人の感情を一般化して表現しているのは、共通していると言えます。

ムンクというと、苦悩に満ちた狂気の芸術家というイメージですが、筆者が観た展覧会では、自己を客観的に見つめ、現実に柔軟に適応する姿が強調されていました。実際にムンクは、多作で、生涯、画風が変化し、業界でも認められ、商業的にも成功し、80歳の長寿を全うします。死後には、ノルウェーの首都・オスロ市にムンク美術館が開設されました。
石田さんも備前焼の伝統だけにこだわるのではなくて、国内のみならず海外から学び、また世界に向けて創意溢れる陶器作品を発表され、グローバルに活躍されています。

石田作品は、せっかくの花器ですから、倉敷の花屋、アトリエ・トネリコでセレクトした花を生けてみました。

アトリエ・トネリコの花を生けた花器

ムンクの絵の色彩に合わせて選んだのは、肌色の蘭の花と、色とりどりの岡山産のスイトピーです。ムンクをリスペクトして、花器と花とで二重に再現して、遊び心を加えて、花器と花々を愛でてみると、ムンクの「叫び」も、孤独や不安の客観表現として受け入れられるように、こころに余裕が出てきた感じがします。
そうして、自らの苦悩や狂気を、他者に鑑賞できるものに換えていった、画家ムンクからのメッセージを、余すところなく受け取れそうです。

*ムンク展 共鳴する魂の叫び .図録p094 作品リスト46(2018年10月27日〜2019年1月20日 東京都美術館)


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