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サステナブルなコーヒー文化を日本へ。オーストラリアの業界構造を日本で再現【Yozo's Story #3】

「未来のコーヒー」をコンセプトとするコーヒースタンド2050 Coffee、高品質な海外コーヒー器具を扱うストアKiguなど、ユニークな事業を展開するコーヒースタートアップ・Kurasu。

実は、Kurasuを率いる代表・大槻洋三(Yozo)の人生も、Kurasuの事業と同じくらいユニークなんです。そんなYozoさん自身の生い立ちやキャリア、コーヒーとの思い出などを、ざっくばらんに教えていただくこの連載、第3回はシドニーで新しいビジネスを始めるところからスタートです。


■これまでの連載
【第1回】京都生まれ、NY育ち。コーヒースタートアップ「Kurasu」創業者Yozoの少年時代
【第2回】ゴールドマン・サックスを辞めてコーヒーで起業。Kurasu代表Yozoの「ラッキーな人生」



「日本との架け橋」にチャンスを感じ、シドニーで物販事業をスタート

——前回は、ゴールドマン・サックスを退職し、「スタートアップ」の概念を知り、シドニー移住に合わせて自分でビジネスを始めてみようと考えたところまでお聞きしました最初はどんなビジネスにチャレンジしたんですか?

自分のスキルって何だろうと考えたとき、まずは「バイリンガルであること」だろうと思い、翻訳や通訳から始めました。

特に翻訳は、けっこう頑張ってやっていましたよ。出版物、手紙、ウェブ記事、学会の論文など、フリーランスとしていろいろ何でも請け負っていましたね。仕事として面白いと感じましたし、「自分には意外と市場価値があるんだな」と感じる機会にもなりました。

まだ駆け出し翻訳者だった頃、クライアントの方から「言語だけでなくカルチャーもわかる翻訳者があまりいないので助かる」というフィードバックをいただいたことがあります。細かいニュアンスが訳出できることはもちろんですが、仕事をする上でコミュニケーションがスムーズだということも、すごく喜んでもらえたんです。

そのとき「カルチャーも含めて英語圏と日本との架け橋になれる人って、意外といないんだ」「この『架け橋』の部分に、ビジネスチャンスが絶対あるはずだ」と思いました。この気づきが、「モノを販売する」という次の事業につながった感じです。

——モノの販売というとKurasuにもつながると思うのですが、最初はどんなものから販売したのでしょうか。

本当に自分が好きだと思えるものを取り扱いました。コップやマグカップ、布などいわゆる「雑貨」と呼ばれるものが主で、全てメイドインジャパンにこだわりました。

当時から僕はいろいろなモノがうまくキュレーションされている雑貨屋さんに通うのが好きなんですが、シドニーにはあまりそういう雑貨屋さんがなかったんです。

——メイドインジャパンにこだわったのはなぜですか?

当時はまだ日本のプロダクトがオーストラリア国内にあまり入ってきておらず、日本のモノ作りの魅力があまり伝わっていませんでした。無印良品やユニクロのようなブランドも、今でこそオーストラリアに店舗を展開しているけれど、僕がシドニーに渡った当時はまだ進出できていなかった。

でもその一方で、日本のモノ作りに注目するオーストラリア人も増え始めた時期でした。実は、オーストラリア人の旅行先で一番人気なのは日本なんですよ。旅行で日本を訪れて「この国にはこういういいモノがあるんだ」と知る人がたくさんいました。

そういうタイミングだからこそ、日本のモノで何かできないかなと思ったんです。自分がもともと好きだったブランドのプロダクトをシドニーに持ってきて、売ったらいいんじゃないかなと。

「雑貨屋さん」から「コーヒーグッズ屋さん」へのシフト

——どういったチャネルで販売したんですか?

オンラインショップでも販売しましたし、シドニーやメルボルンのマーケットにも出店しました。オーストラリアって、週末になると至るところでファーマーズマーケットのような催しをやっているんですよね。そういうところへの出店は、「どういう反応があるんだろう」「これに興味を持つ人はどれくらいいるのかな」と、ちょっとした市場調査にもなりました。

そんなにバンバン売れた訳ではないですが、マーケット出店1回につき5万円から10万円ぐらいは売上がありました。ポップアップみたいな店構えで、簡単にモノを置いているだけでもお客様の反応が良かったので、「やっぱり需要あるんじゃないかな」と感じました。その後はオンラインをメインにしていったのですが、マーケットに出店して生の声を聞けたのは良い経験でした。

——今のKiguのように、当時からコーヒー器具も扱っていたのですか?

雑貨屋さんって、コーヒー器具のコーナーがあるお店が多いじゃないですか。ドリッパーがちょっとだけ置いてあったりして。僕はもともとコーヒー好きだし、自分のお店でもコーヒーグッズを取り扱ってみたんです。

当時はドリッパーとかケトルのようなただ機能的なものより、エナメルポットのような色合いがかわいいプロダクトなどをメインにしていました。もちろんコーヒーグッズもすべて日本のものだけを扱っていました。

そしたら、そのコーヒーグッズたちがものすごく売れて。「コーヒーいいやん」って思って、雑貨全般からコーヒーグッズ一本へ、取扱商品をちょっとずつ絞っていった感じです。

——コーヒーグッズがよく売れるということは、オーストラリアにはコーヒー愛好家が多いんですね。日本とオーストラリアでは、コーヒー文化も異なるのでしょうか?

けっこう違いますね。僕は、日本のコーヒー文化の特徴は「多様であること」だと思っています。

飲み方一つとっても、インスタントコーヒーがあり、缶コーヒーがあり、スーパーで買える豆があり、コンビニで買えるコーヒーがあります。特に缶コーヒーって日本独自の文化なんですが、缶コーヒーの中にもいろんなブランドがあって、一つのブランドがいろんな商品を出しているじゃないですか。

それにコーヒーが飲めるお店も、昔からある喫茶店とスターバックスのようなカフェが街の中で同居していますし、チェーンのカフェの中にもドトールやタリーズなどたくさんのブランドがありますよね。

それに比べてオーストラリアのコーヒー文化ってめっちゃシンプルなんです。オーストラリアでコーヒーといえば「近所のお店で飲むコーヒー」。以上です。ベーシックでシンプル、突き詰めているという言い方もできるかもしれません。

もちろん缶コーヒーはありませんし、コンビニ自体があまりないのでコンビニコーヒーもほぼありません。スターバックスもありません。オーストラリアは唯一、スターバックスを追い出した国なんですよ。それくらい「街にある、ローカルなコーヒー屋さんに行く」という文化が根付いている。みんな、行きつけのコーヒー屋さんがあるんですよ。

オーストラリアのコーヒー文化を、日本に持ち込んでみる

——日本でもオーストラリアでもコーヒーは身近だけれど、「身近さ」の種類がけっこう違うんですね。

シドニーなんかは特に生活の時間帯がかなり早くて、朝6時とかでも街にたくさん人がいるんですが、みんな6時とか7時にまずはコーヒー屋さんに行きます。

例えば朝イチに海沿いでランニングして、コーヒーを飲んで帰る。家でシャワーを浴びて、仕事行く前にまたお店でコーヒーを飲む。仕事中も、休憩としてみんなと一緒にコーヒーを飲みに行く。ランチを食べ終わったら、またみんなでコーヒー。お昼の時点でもう4回くらいコーヒーを飲んでいるし、それが全て外のお店で飲むかテイクアウトするコーヒーなんです。

一人当たり1日4杯も飲んでくれたら、お店の循環として素晴らしいですよね。日本だったら、1日100杯売れたら結構いいほうで、200杯売れたらめちゃめちゃ良いなという感じですが、オーストラリアでは200杯、300杯は当たり前。大きい店や駅にあるお店だったら1日2000杯くらい売れます。

——すごい規模感ですね。

あと、コーヒーのラインナップ数も違います。日本だと、スペシャルティコーヒーショップでもすごくたくさんの豆を取り扱っている場合が多いですよね。ブラジルがあって、エチオピアがあって、シングルオリジンを一杯一杯ドリップして出す。もちろんそれもすごく素晴らしいと思っています。

一方でオーストラリアのカフェは基本的にエスプレッソベースで、ブレンド1種類だけでやっています。1種類だけだから、「このエスプレッソブレンドをいかに安定的に、いかに高いクオリティで、いかに手頃な価格で出せるか」にフォーカスできる。さらに、1つのブレンドをたくさん消費することがわかっているので、豆の確保もしやすいんです。

たとえばメルボルンとかシドニーのような大きい焙煎所だったら、ワンコンテナ(20トン)のコーヒー豆をポンって仕入れちゃうんですよ。日本だったら商社を通さないと20トンを仕入れるのはほぼ無理なので、30キロや60キロの一袋単位で細かく買うんですけど。

「この一年で必ず20トン買います」って言えたら、農家の人たちとの交渉もしやすいし、「こういう風に一緒にやっていこう」と働きかけることもできる。オーストラリアのカフェは基本的に独立店だというのもあってか、経営者にも高い志を持っている人が多く、「農家さんとの良い関係の中で、良いコーヒーを提供したい」という想いを持つ経営者がたくさんいるんです。

——日本とオーストラリアでは、コーヒー業界の構造自体が異なりそうです。

オーストラリアでは自家焙煎に取り組むカフェはほとんどなくて、ある程度大規模なカフェだけが焙煎もやるというイメージですね。それもあってか、「農家さんのところから豆が入ってきて、それを焙煎して、提供して、飲んでいただく」という一連の流れが明確に「見える化」されていると思います。

ロースタリーも小さな焙煎所じゃなくて大きい工場のようなイメージです。だからいろいろな役割の人ができるんですよね。マーケティング、営業、バリスタ、カスタマーサポートとそれぞれにチームがあって、それがまとまって一つの大きな組織になっています。「コーヒー屋さん」一つで、ちゃんとした「会社」になっている。それが、すごくいいなと思うんです。

店舗もめっちゃかっこよくておしゃれだし、いろんなお客さんがめっちゃたくさん来てくれるし、何かすごい楽しそうだし、だけどお金も回っている。コーヒーも生産者と直接取引できているから、サステナブルな運営ができている。いいことずくめなんですよね。

もちろんオーストラリアのコーヒー業界にも、改善すべき点や、日本のほうがいいなと思うところもたくさんあります。でも、当時自分がシドニーに住んで、実際にコーヒー業界の構造を目の当たりにして、「どうして日本ではこれが実現されていないんだろう」と疑問に思った。それで、日本で一つのモデルケースを作れないかなと思って始めたのが、Kurasuの店舗です。

——オーストラリアのコーヒーカルチャーが、Kurasuの店舗の原点なんですね!

Kurasuのお店作りに取り組む中で念頭にあったのは、店舗の裏側にある「枠組み」を構築するにはどうしたらいいのか、組織構造を理想的なものにするには何に取り組めばいいんだろうか、といったことでした。

シドニーやメルボルンのようなカルチャーが成り立たないと、業界内での循環がうまく続かない。でも、その構造を日本で作るのはすごく難しい。だからどうしても、お店作りの重点が「店舗の内装」や「かっこいいエスプレッソマシン」とかに偏ってしまいがちです。でもやっぱりそれだけではうまくいかないと思うんです。

今の日本の環境だと、一般消費者の側も「隣のコンビニで100円でコーヒー買えるのに、どうしてカフェで500円で買う必要があるの?」みたいに思ってしまうかもしれない。そうなってしまう構造を変えるためにも、オーストラリアのやり方を日本に持ち込んでみようと思ったんですよね。

——Kurasuの各店舗が、ローカルに根ざしたお店作りを大切にしている理由がわかりました。新しくオープンしたコーヒースタンド「2050 Coffee」にもシドニーでの体験が活きているのでしょうか。もっとお話を聞きたいところですが、今回はこのあたりで。また次の記事でお会いしましょう!

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大槻 洋三(おおつき・ようぞう / Yozo)
京都生まれ。合同会社Kurasu 代表社員。幼少時代はマンハッタン、ニューヨークで育ち、高校からカナダに留学。ウォータルー大学卒業のち、ゴールドマンサックス証券日本法人入社。日本の文化を世界へ伝えたい思いと、幼い頃に両親がジャズ喫茶を営んでいたことに影響を受け、日本のコーヒー文化の魅力に着目。日本のコーヒー器具を販売するECショップ「Kurasu」を立ち上げ、出身である京都市内に3店舗、シンガポール、バンコク、インドネシア、香港に合計10店舗展開。海外メーカーのコーヒー器具を輸入する「Kigu」、スペシャルティコーヒーをマスへ浸透させる「2050 COFFEE」を立ち上げるなど、積極的な事業展開を通じて、より多くの人々に高品質なコーヒーを提供することを目指している。