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信託報酬の高い安いは、スマホの通常契約とpovo・ahamoの違いのようなもの

某SNSでの話題を元に、一度だけちょっと深く考察するだけの文章です。
今回は、本当に某SNSからの話題です。
昨今イヤな話が続いたので、今回は趣向をまた変えまして、カネの話です。(イヤな話には変わりねぇ)

少し前に、作者さんからのポストで、面白い漫画が流れてきました。

渡波郁さんという方の作で、
「マンガでわかる株のキホン お嬢様投資をはじめる」
です。

作者さんご自身、アベノミクス以前からの投資家で、リーマンショックもリアルタイムで経験した猛者であるとのこと。
実際、内容も実によく練られており、こりゃ気軽に読み飛ばせるような話じゃないな、と襟を正し読み進めたものです。

そして、記念すべき第一話が毎月分配型のクソファンドの話ってのもなかなか、大好物でした。
リテールマン(個人向けの金融商品営業)である毛呂山が、バチクソ資産家の娘である高園寺のところへろくでもないファンドの営業にくる、というのが毎回の話筋となります。
ですがこの毛呂山、さすが証券営業だけあって、なかなかツボを押さえた解説をします。最初の営業トークこそ詐欺師のそれですが、いったんそのお勧めファンドのクソさを高園寺に見破られると、とたんに開き直ってちゃんとした金融知識の解説を行う、という感じです。

で、一話では高園寺は毛呂山の勧める毎月分配型クソファンド、信託報酬年4%というクソを昂ぶらせたような野グソファンドは上手に回避した上で、購入手数料ゼロの日本国債を購入するのでした。
しかしこれには少しだけ裏があり、手数料ゼロは本当だが、これは国が負担してくれるというだけで、もっと良く探せばネット証券などで「国が負担する購入手数料をキャッシュバックする」という形で購入できたことを後になって知り、
「あーキャッシュバック分無駄にした。もっとよく調べて買えば良かった」
と後悔するシーンへとつながります。

ま、ここで。
ちょっと言いたいことがあるんですよ。
高園寺の上記の台詞は、我々投資民がよく言う言葉でもあります。
一番言うのが、
「ネット証券を使えば、同じファンドなのに信託報酬の高い方を買うことなく、信託報酬の安いものを買うことが出来る」
という文脈で語ります。

すごくわかりやすいのが、三菱UFJアセットマネジメントが運用するファンド、emaxisシリーズ(全世界株式、S&P500、米国株式、等)と、emaxis slimシリーズ(同じ)。
前者の、たとえば全世界株式であれば信託報酬は(500億未満の場合)およそ0.66%ですが、後者の全世界株式であれば信託報酬は(2,500億未満の場合)およそ0.056%で、その差およそ10倍以上の開きがあります。

これら、何が違うかというと、前者が銀行や証券会社、それに類する金融機関で、しばしば対面で買えるのに対し、後者は特定のネット証券でしか買えません。
要は、このシステムで似たようなものを挙げるならば、スマホ契約の通常契約とpovo(kddi)やahamo(docomo)との違いに似ています。

スマホ契約の場合、povoやahamoで契約すると、基本代理店が使えません。故障依頼はネットを介して依頼し、機種変更もネット通販で行います。物理SIMの場合は、SIM交換も顧客側で己の責任でやらないといけません。
emaxis~においても、emaxisシリーズの場合は購入時やその他の時においても担当者が随時相談に乗ってくれるのに対し、emaxis slimシリーズは己の裁量で購入からポートフォリオの設定(まぁ基本はファンド任せで、ファンドを選択した瞬間にその仕事は終わってるようなものですが)まで、あるいは売り時の見極めまで、全て顧客側の裁量でネットを通して行うことになります。

いわば、emaxisに乗っている10倍の手数料は、人件費ということになるでしょう。
ただ。

これを「もったいない」の一言で切って捨てていると、有価証券についてのある一面を見逃してしまうような気がします。
それは、「コストばかりを気にして人件費をないがしろにする発想は必ずしも顧客において利益とは言えないことがある」という点です。

ネットに慣れており、かつ金融リテラシーに習熟済みの人であれば、インデックスファンドであるならタイミングを狙った購入も必要ないので、顧客自身で購入時期と購入額を決め、それに従って購入することも売却することも問題はないでしょうが。
まったくのヒラの人が、いきなり証券会社に口座開設をし、まがりなりにも大金を出してファンドを購入する、となれば、そこに対して詳細な説明を、いわば自分を納得させてくれるような手ほどきを相手に期待する、という心理は分かりますし、そこは一考すべきなのです。……本来は

しかし。
本来じゃないのが、証券の世界なのです。
上記漫画、「マンガでわかる株のキホン お嬢様投資をはじめる」の同巻第4話で毛呂山はこう、言っています。

「(高園寺の、『信託報酬などが高額の、ワリの悪いファンドを売りつけることでカネを取るくらいなら、あなたら営業マンは素直に相談料を取るとか、そういう料金システムにすべき』という提言に対して)ウチに来るような客は相談料なんて払ってくれない。マーケットという戦場にいるという自覚がないから。ショッピングに行くような感覚でファンドを選んでる客に対して、戦場で生き抜く知恵をアドバイスしても、その価値が分からないからカネを払おうとはしない」
と。

実際、ファンドを売りつける以外の毛呂山の言葉は、(まぁマンガの中だからこそ出来るのでしょうが)証券市場という戦場で生き抜くための貴重な知恵が満載されたアドバイスを一話ごとにそこかしこに投げかけてくれています。
で。
これまた本来であれば、ある程度は顧客側が、ショッピングモールではなく戦場にいることを理解して金融商品を買い、営業側がそこでその戦場にて生き抜く知恵を伝授し、そしてその価値ある金言に対してお金を払う。
そういうWin-Winな関係こそが理想というものでしょう。
ですがそれは、毛呂山自身の上記の台詞のように、「現実的ではない」のです。

客はノーテンキにショッピングモールにいるよな感覚で金儲けをしようとし、売る側は自分の働いたぶんの給料をどこかで捻出するために、人件費が乗りに乗ったクソファンドを売りつけざるを得ない。

営業に限らず、証券マンはおよそ毛呂山程度の知識は入社初年でたたき込まれます。ファンドマネージャーともなれば、血尿と闘いながら市場読みに必死で、文字通り命をかけてローソク足と格闘しているわけです。
その価値に免じてカネを払うという行為が、しかし証券に関してはいびつに作用しているのです。

いわば。
金融リテラシーがない、いわば「何も知らない」客は、金融商品に手を出すべきではないし、出したとしても個人向け国債ぐらいにしておくべきなのです。
リテラシーにまつわる知識を、「営業マン」から仕入れようというのはそもそものやり方を間違えている。彼らには生活があり、生活のためには「自分たちから買うより安く上げる方法がありますよ」という本当のことを、戦場で生き抜く知恵付きで顧客に与えてあげることは、まかり間違ってもありません。もしやったとしたら、これは営業マン側から見れば自分を雇ってくれてる会社への一種の背任行為と言って等しいことになります。
(まぁでも、そうとも言えないところもあるのですけどね。正しい知識を伝えたい、というのは、実は証券に携わる全ての人が持っている願望である、と私は信じたいです)

だからこそ、我が敬愛する山崎元先生は、繰り返したった一つのことしか言わなかったわけです。

「ネット証券会社から、信託報酬の安いインデックスファンドを買え。日本+米国か、全世界だ」……(1)
と。

どうあがいて、どう勉強しても。
たとえそこらへんのファンドマネージャーより上の知識までも身につけたとしても。
この電脳取引跋扈する証券市場において、他の機関投資家を出し抜いて市場平均以上に利益を上げることが出来る確率は、99%ない。

ならばおとなしく(1)だろう、と。

山崎元先生の本を読んでいただけでは分からなかった、証券会社側の言い分が、本作「マンガでわかる株のキホン お嬢様投資をはじめる」で補完された。そういううれしさのある一冊でした。とさ。

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