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サピエンス全史の面白さは「認知革命」だけじゃない!

最近読んだ本の中でもダントツで面白かったのが、ユヴァル・ノア・ハラリさんの著作『サピエンス全史』です。

この本、かなり有名なので名前だけは知っている方も多いと思います。私もずっと気になっていて、この前ようやく読み切ったのですが、いやあ期待通りの面白さでした。というわけで軽く紹介。

今作はタイトルの通り、我々人類(ホモ・サピエンス)の誕生から現在に至るまでの歴史を紐解く書籍です。特に、人類史の中でも重要な転機となった「革命」について解説しています。

革命といっても「フランス革命」のような歴史上の出来事ではないですよ。ここでいう「革命」は、もっと根本的な、全人類に影響を及ぼした革命を指しています。

例えば、今作を語る際に特に話題になるのが「認知革命」でしょう。たくさんの生物が存在する地球で、人間が頂点に立ったのはなぜなのか? その答えが「嘘を信じたから」だとしたら、誰でも驚きますよね。

我々の周りにはたくさんの「嘘」があります。古くから存在する貨幣や宗教もそうですし、現代だと国家や株式会社も該当します。現実には存在しないものを信じたからこそ、多数の人類が結束を固めることができたのです。

そんな認知革命も面白いですが、「今作の面白さはそれだけじゃない!」と私は言いたい。人類史を紐解く今作には、他にも様々な革命が紹介されています。

このnoteでは、私が面白いと感じた3つの要素、農業・貨幣・科学についてざっと紹介します。

農業革命は罠だった!?

歴史の授業では「農業によって人類は安定して大量の食物を得ることができ、人口が爆発的に増えた」と教えられましたよね。まさしくこれも革命の一つ。

今でも農業は米や小麦などの主食を中心に回っていますし、少なくとも農業革命をポジティブに捉えている人がほとんどではないでしょうか。

ところが、今作はそんな農業を否定的に見ています。なんと、農業革命は罠だったと言い出すのです。

人類は農業革命によって、手に入る食糧の総量をたしかに増やすことはできたが、食糧の増加は、より良い食生活や、より長い余暇には結びつかなかった。むしろ、人口爆発と飽食のエリート層の誕生につながった。

『サピエンス全史 上: 文明の構造と人類の幸福』より

特に面白いのが、狩猟生活から農業に軸足を移したことで、我々は未来の心配をするようになったと指摘している点でしょう。

これはハッとさせられる指摘です。確かにその日の飯をその日に探す暮らしなら、少なくとも一年後や二年後のことは考えないはず。長いスパンで作物を収穫する農業だからこそ、我々は未来を考えざるをえないのです。

生まれながらに人生の道筋がだいたい決まっている現代人は、子どもの時から未来について考えますよね。「将来の夢はなんですか?」とか「どの大学に行きたいか?」とか聞いていると、もっと今のことを考えようぜ!と思わなくもない。

現代人の悩む「未来」は、農業をきっかけに広がった。これはなかなか面白い指摘じゃないでしょうか。

貨幣が人を結びつけた

「お金=悪」という図式は、さすがに現代だとあまり見かけないですよね。とはいえ、お金稼ぎになんとなく抵抗を感じている人も多いはず。

悪いイメージもつきまといやすいお金(貨幣)ですが、この本ではむしろ、貨幣ほど人を結びつけたものはないと主張しています。

貨幣は相互信頼の制度であり、しかも、ただの相互信頼の制度ではない。これまで考案されたもののうちで、貨幣は最も普遍的で、最も効率的な相互信頼の制度なのだ。

『サピエンス全史 上: 文明の構造と人類の幸福』より

歴史を振り返ると、多くの国が戦争を経験していますが、どのような国家でも貨幣を採用しています。アメリカが冷戦時に対立した共産主義国家でさえ、貨幣を捨てるようなことはしませんでした。

宗教を信じない人はいても、貨幣を信じない人はほぼいない。貨幣は人類がもっとも信用している嘘なのです。

現代の経済政策は上手くいかないことが多く、資本主義の問題点も指摘される昨今ですが、それでも「もう貨幣なんてなくそうぜ!」と言い出す人は全くいない。これこそが貨幣の強さを証明していると言えるでしょう。

科学と宗教の決定的な違い

新型コロナウイルスによるパンデミック真っ盛りの時期、ワクチンに対する陰謀論が広まったのは周知の通りです。

陰謀論を主張する人の中には、「科学だって宗教の一つのようなもの」「我々が必ず信じなければならない道理はない」と言う人がいました。

なるほど。ぱっと聞いただけだと、一理あるような気もします。「そんなわけないだろ!」と反射的に言いたくなる気持ちも分かりますが。
宗教と科学は、結局何が違うのか。すぐに説明できる人は、意外と少ないのではないでしょうか。

本書は二つの違いを明快に解説しています。要約すると、「私たちは全てを知っている」と主張するのが宗教であり、「私たちは何も知らない」と認めるのが科学なのです

近代科学は、私たちがすべてを知っているわけではないという前提に立つ。それに輪をかけて重要なのだが、私たちが知っていると思っている事柄も、さらに知識を獲得するうちに、誤りであると判明する場合がありうることも、受け容れている。

『サピエンス全史 下: 文明の構造と人類の幸福』より

自分たちは何も知らないという前提に立ち、この世の理を解き明かそうとする。科学が発展すると、それまでの常識が覆ることもあるが、そのような誤りの存在、ひいては不完全性をも認めている。これが科学の特徴なのです。

じゃあ科学は万能なのかというと、これまたそうでもないんですよ。実は科学研究を裏で支えているのは宗教やイデオロギーで……といった、大きな声で言えない話も語られています。

マクロの視点を持つ重要性

今回は、サピエンス全史で個人的に面白かった要素として「農業」「貨幣」「科学」を取り上げました。でもぶっちゃけるなら、この本は全編にわたって面白いです。

普段本を読まない人からすれば、上下巻のボリュームに怖気つくと思います。ですがその分充実した内容で、間違いなく読む価値があります。

何より、今回取り上げた人類史のような「マクロの視点」を持つのは、実はすごく大事なことだと思うのです。

私たちはどうしても、日々の雑務に忙殺されがちです。とにかく目の前の出来事を上手くやり過ごすのに精一杯。気づけば常にミクロな視点に陥っていることも珍しくありません。

そんな毎日だからこそ、時には歴史や経済などの大局的な動きを学び、「マクロの視点」を兼ね備える重要性も増しているのではないでしょうか。


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