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消えていける街

この平和な国で普通に暮らしているのに
ふと消えいりたくなる時がありませんか?

特に理由も目的もない。
なぜ?と聞かれても説明のしようがない。
それなのに、するりと今の場所から存在を消したらどうなるんだろう?と
考えてしまう時があります。

何かそうなる喚起ボタンがあるわけでもないです。
夕食の買い物に行く途中
いつもの電車に乗り込む瞬間
大通りを歩いていて何かの看板を見上げる時

日常のふとした、本当に何気ない瞬間にゆらっと想像するのです。

かといって、きっと私は消えいらないし
ずっと何かを努力しながら、笑い、喜び、時には涙を流したり肩を落とし、猫を撫でながら暮らします。
怠け者でもないし、世の中に絶望もしていない。
歳をとってゆく事に楽しみさえ感じながら、家族の安全を祈っています。

「紙の月」という映画のように

映画「紙の月」より

宮沢りえ主演。彼女はこれで日本アカデミー賞 最優秀主演女優賞を取りました。相手役はやはりこの映画で新人俳優賞を取り、昨年には芸術選奨文部科学大臣新人賞にも輝いた、池松壮亮君です。

この映画では、宮沢りえちゃんは勤務先の銀行のお金を横領して犯罪者となります。誰にでも起こり得る日常の中のふとした瞬間がきっかけでした。
とは言っても日々の暮らしの中で池松君みたいな人に会えるとは思えませんが:笑
それでもあの時、あのまま電車に乗っていたら。

この映画のメインテーマはこういう事とお金、についてだと思っていますが私が惹き込まれたのは別の事。

「ある男」という映画のように

映画「ある男」より

妻夫木聡主演。共演は、安藤サクラ、窪田正孝。安藤さんは今や最優秀主演女優賞・助演女優賞をダブル受賞しちゃう、本当に素敵な演技をされる女優さん。この映画でも素晴らしかった!

妻夫木聡は、理性のある弁護士役で、大事な家族を支えながら淡々と仕事をこなしていきます。この映画では私が見たことのないような顔と空気感を出していてとても良かった。
ただ良い人ではなくて、なるほど、その結末になるエッセンスは途中で沢山散りばめられています。

最初は窪田正孝中心に家族の姿でスタートしてゆくのですが、途中から妻夫木聡が絡み展開していきます。
どう展開してゆくのかが最後まで引っ張っていってくれる映画。

「エクスパッツ」というドラマのように

ドラマ「エクスパッツ」より

ニコール・キッドマン主演。ちょっと顔が変わっちゃったなあ、という彼女の印象はさておき、通常の精神状況ではいられなくなるこの役は適役でした。
この話は相当シリアスな内容で、上の2つとは一線を引く形になります。
舞台は文化が交錯してきた香港。今や観光客も相当減ってしまった香港ですが、やはりとても魅力的で不思議な街であると思います。
事件が起こった場所は、世界一人が多い場所、という人もいるくらい。

このドラマは”シーズン1"とあるので、てっきり"シーズン2"があると思って見ていましたら、なんと2の予定は無いという事で最後まで見てから慌てました。

紛れ消える場所

あちこちと他の国を訪れると、そういう場所に恐怖を感じながら同時にとても惹かれてしまう場所があります。実はこれは逆で惹かれるからこそ怖いと思うのかもしれません。
そんな情景を見ると、フッとあの中に進んで行ったら・・と。

・モンコックの市場(香港)
・セントラルのフェリー乗り場(香港)
・ムンバイの街中(インド)
・ホーチミンの南区(ベトナム)
・ファアランポーン駅裏のヤワラーエリア(バンコク)
・台湾の夜市
・ニューヨークのチャイナタウン

目に入るのが、人の顔か頭の後ろかどちらでも構わないくらいの密度です。この世のあらゆる色や形が全部視界に入るような。
「混沌」という言葉の意味が、物理的、精神的、文化的にもあてはまるような場所です。

消えいるための条件のようなもの

混沌が重なり合う場所に

すうっと消えて紛れ込み、一生見つからないような場所。
人がウヨウヨいて、ざっくりとでも数えられないような場所。
国籍も性別もしゃべっている言語も、肌や髪の毛も色も何でもありで。
食べ物の匂いや、湯気、煙はそのせいなのか、タバコなのか。
もしかしたらもっと危険なものなのか。

履いている靴の質や、服の襟ぐりの褪色も、手首につけているものが何のための何なのか、問題にならないような場所。
祈る先は何なのか、その涙の理由は何の為か。
消えいる前に後ろは振り向かないか。その後ろに未練はないか。
一呼吸してから踏み入れるか。それとも息もつかずに紛れ入るか。
ゆっくりと?それとも足早に進むか。
早く誰にも見つからないうちに。まるでこの世に私なぞいなかったかのように。

だからそんなふうに消えいってしまったら何も望んではいけないのだと。
希望や目的を持ってしまったらきっと生き出てきてしまうでしょう。
希望を持たずに生きる場所。こんな恐ろしい場所はありません。

だから私は消えいらないと思います。
こんなことをフッと思い巡らすということは私は生きる理由を沢山持っているからです。

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