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【備忘録SS】それは「巧みな」ストラテジー

「テレビ……ですか?」
先ほど受け取った書類にざっと目を通した四条畷紗季は、やや乗り気ではない表情を浮かべて尋ねた。

「そんな嫌な顔しないでよぉ」
彼女の上司に当たるマーケティング部副部長、寝屋川慎司は「まあ分からないでもないけど」と言いながら話を続ける。

「今度出す新しいコマーシャルの関連で、代理店から打診があったんだよ。ぜひ御社のマーケティング部門の女性を取材したいってね」
「はあ……それで何故わたしなのですか?」「そりゃあ、仕事が出来て見栄えも良いからじゃないの?」
「はい?」
適当な返事に噛みつかれた寝屋川は、椅子に座り直して言った。

「こないだの企画……四条畷さんが中心に組み立てて貰ったやつね、あれが代理店の部長さんにどハマりしたみたいでね……」


ひと通りの説明を聞いた紗季は、ようやく納得した気持ちになってきた。

「純粋に企画を評価頂いたのであれば、断る理由も無いですね。分かりました」
ただ、と付け加える。
「上手く受け答えできる自信がないので、どなたかサポートに付いて欲しいです」
「なるほどね、分かったよ」
「わたし的には、寝屋川副部長でも良いのですが」
紗季から指名を受けた寝屋川は、ぶんぶんと首を横に振った。
「いやいや、僕が出たら放送禁止になるよォ」
「寝屋川副部長って、痩せたら超絶イケメンなのですから……あれ、本当に痩せてきてません?」
「また健康診断に引っ掛かったのを妻が激怒してね。現在絶賛ヤセ活中なんだよ」
映画俳優の役作りのようなダイエット内容を話した寝屋川は、話を締め括った。
「同席を希望するメンバーを教えて貰えるかな?無ければこちらにお任せで。あと取材内容の企画書に目を通しておいてね」

「分かりました」
「私も大丈夫です」
席に戻った紗季は、早速同じ課の本八幡ハジメと市川春香にテレビ出演の打診をしてみた。
「随分あっさり……本当にいいの?」
サクッと了承を得ることができた紗季は、幾分驚いて言った。
「はい、課長をテレビにひとり晒す訳にはいきませんので」
「私、一度意識高い系の番組に出てみたかったんですよね」

其々の言い分は異なるが、紗季にとっては2人とも頼もしい発言と感じた。
「よぉし、チーム力でこの難局を乗り越えましょう!」
「課長にとっては難局なんですね……」
春香の苦笑を聞き流して、紗季は代理店担当者の携帯電話番号をプッシュした。

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