yasu

LGBT当事者。原体験をもとに短い小説書いてみます。 1話ずつ読み切りです。 Twit…

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LGBT当事者。原体験をもとに短い小説書いてみます。 1話ずつ読み切りです。 Twitter→@yasu796249801

最近の記事

沈黙(ゲイ小説)

言葉でどこまで、自分の気持ちを正直に伝えられるのだろう。 上手い言葉はなかなか見つからない。 最後には、沈黙だけが僕の気持ちを表すことになる。 「なんでだよ、どうしてそういうことができるんだよ」 僕は付き合って5年になる相方と喧嘩している。 喧嘩、というか僕が一方的に攻めている。だって彼が完全に悪い。 浮気した挙句、その男が好きになったから別れてくれというのだ。 「どうしてだよ」 声が大きくなる。涙が出てきて、視界がぼやける。 「僕たち、来月で6年だよ、ここまで来

    • 反故(ゲイ小説)

      20代後半になり、一人でいるのがだんだん辛くなってきた。 新卒の頃は一緒に飲みや旅行に行っていた同期の仲間たちも、今は結婚子育てに忙しいようだ。 この半年は、とくに連絡も来ていない。 かといって、ゲイ活動を隠れてやってきた自分には、気軽に会えるようなゲイ友だちもいなかった。 週末の一人で持て余す時間。 そして、こう考え始める。 この先ずっと、もしかしてこのままずっと、孤独なのかもと。 いや、これじゃダメだ。 この行き止まりを打開しようと、僕はある計画を実行に移した。 兼ね

      • リダクト(ゲイ小説)

        周りから見たら十分壊れてるように思えても、本人はいたって真面目に生きてる場合がある。 社会人10年目、 新入社員の頃の野心はもう1mmも残ってない。 惰性で出勤して、ただ仕事をこなして帰って来る日々。 自宅と職場を往復する機械だ。 いわゆるブラック会社だと思うが、辞めたところで俺には今さら就活する気力がない。 このまま使い古されていくのがお似合いなんだと思う。 終電近くの電車は、乗客もまばらだ。頭にはなにも考えが浮かばない。 意識せずにいた疲れにそのまま身を任せて、頭を空

        • 九獣(ゲイ小説)

          9monは、どっちかというとやる相手探しだ。 俺だってそのつもりで使ってるから、それは良い。大体、ログインするのはムラムラして仕方がない時。 発情期というか、性欲が高まる時期が数ヶ月に一度ある。 そういう時はセックスや、男のことしか考えられなくなってIQが50くらい下がっている気がする。 9monを開いて、自宅近くに表示される男たちを値踏みしていく。 なかなかタイプがいない。 いいなと思うと(有)とか書かれていたりする。なら、アプリやるなよ、と心の中で突っ込む。一応、彼氏

        沈黙(ゲイ小説)

          散歩(ゲイ小説)

          いつものコンビニまでの道を相方と一緒に散歩する。 一緒に住むアパートは、最寄りの駅から徒歩20分にある。少し遠いなと思ったけど、間取りと日当たりの良さ、お互いのこだわりとかもろもろ妥協してここに落ち着いた。 コンビニまでは、住宅街を10分くらい歩かなければならない。 夜の散歩、真夏の夜の空気はどこか熱を帯びて重い。 いつもはバスで駅まで行くので、あまり歩き慣れていない。 月明かりが照らす道を一歩ずつ丁寧に歩いた。 相方はもちろん、タバコを吸いながら歩く。 吸うたびに少しだ

          散歩(ゲイ小説)

          蛇足(ゲイ小説)

          いつものグループがある。人数は5人だ。 今日はみんなで新宿2丁目に飲みに来た。立ち飲みの店で、5人で一角を陣取り、出入りする客を値踏みする。 男は集団で群れたがるものだ。みんなと居れば上から目線で他の男に評価をつけられるくらい、傲慢になれる。 少し過激にも思えるような下世話な話をしながら、僕はグループの一人を目で追いかけた。 この5人の中で、一番男前なのが彼だ。 短髪で、眉は太く、程よく鍛えていて性格は男っぽい。喋り過ぎず、かといって無愛想じゃない。たまに可愛いところもみ

          蛇足(ゲイ小説)

          初恋(ゲイ小説)

          男同士の馴れ合い。 学生なら、誰でも経験があるはずだ。 中学生の頃には、もう自分がゲイだということは自覚していた。けど、同時にこれは普通じゃない、言ってはいけないんだと言うことも感じ取っていて、女の子が好きなふりをした。 別に難しいことじゃない。 みんなが言う、「あの子いいよな」、 に同調すれば良いだけだから。 嘘をついている感覚はあったけど、生きていくためには仕方がない。 そんな毎日の中で、僕はついに初めて恋をすることになる。 ハンドボール部のエース。 キャプテンじゃな

          初恋(ゲイ小説)

          使い捨て(ゲイ小説)

            僕が初めて彼と出会ったのは、20代の前半。大学を卒業して、社会人として働き始めて直ぐのことだった。その頃は、社会人としての生活に慣れていくのに精一杯で毎日が慌ただしかった。彼氏ができたら良いなとは思っていたけどそこまで執着もなくて、一人の身軽さが好きだった。 久々の休日。日頃の寝不足を解消するように泥のように寝て、夕方過ぎに起きた。携帯をいじって数時間。暇を持て余していたけど、しばらくすると身体の疼きに気付いた。こういう時、発展場があればいいんだろうが、この辺にはそんな

          使い捨て(ゲイ小説)

          2丁目の神隠し

           こんなに賑やかで、孤独な場所が他にあるだろうか。  「2丁目は1人で来るところじゃないんだよ」。そう忠告してくれる友だちがいたら。  僕が初めて2丁目に足を踏み入れたのは、29才の時。それまでとくに焦りもなかったけど、30才を目前にして一念発起して行ってみることにした。けれど、僕には一緒に行くようなゲイ友だちはいない。地元から一人で高速バスに乗り、新宿へ出発する。  数時間で無事に着いたが、バスタ新宿の前はとにかく人が多い。今日すれ違った人数は地元で過ごした一年分以上の人

          2丁目の神隠し

          三十代の人生が行き詰った話し(ゲイ小説)

          俺の人生は行き詰った。 自分の平凡さにうんざりしている。みんな同じだろうが、自分が特別でありたい、という欲望は抱えてしまうものだ。TwitterやTikTokを見れば一目瞭然だろう。だれもが必死でいいねを求めている。あなたは特別だ、と言ってもらいたい。SNSで繰り広げられる承認欲求の渦をみていると、辟易することも多々ある。 そんなこと言っているが、俺自身も自撮りを投稿してしまう。なぜか、辞められないのだ。画像に対していいねがつくと、まだ俺は大丈夫だ、需要があるんだと自分自身

          三十代の人生が行き詰った話し(ゲイ小説)