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『細川幽斎 虹彩奇譚』

タイトル:細川幽斎 虹彩奇譚
著者:南良輔
ジャンル:小説
発行年月日:2016年2月
発行元:熊日出版
備考:

この物語は、水前寺成趣園を完成させた肥後三代藩主細川綱利が一人で、成趣園を訪ねたところから始まる…。
歴史に造詣の深い著者が、細川家に関する研究と、熱い思いをもって上梓した貴重な郷土の宝物と言える作品である。
歴史に造詣の深い筆者は、しっかりとした歴史考証にたって、細川家に関する深い研究と、熱い思いをもって上梓されている。本書は、その心意気が伝わってくる貴重な郷土の宝物である。

(「はじめに」吉丸良治 熊本県文化協会会長、公益財団法人永青文庫常務理事より)

感想

 この物語は、筆者が述べているように、水前寺成趣園を完成させた肥後三代藩主細川綱利が一人で、成趣園を訪ねたところから始まる。熊本の細川氏ゆかりの各所へ訪れたことがある人なら、誰でも思い浮かべながら読み進めることだろう。綱利公は肥後細川藩主としては三代目(忠利の孫)だが、大名細川家の祖と言える幽斎公から数えれば五代目である。
 幼少期に父・光尚が亡くなってしまったため、危うく細川家改易の危機にさらされたところを、家老たちが一丸となって存続へと導いた細川藩。この頃、綱利はまだ家を継げる年頃ではなく、江戸屋敷において母の元で養育され(ある意味、彼の人格形成は幕府のひざ元で育てられ)、充分に成長してから熊本へと初めて「里帰り」する。色々と問題も目立ったらしい「ヤンチャボーイ」だったそうだが、まあ細川家の男子は大なり小なりヤンチャボーイだなと思っている。ちなみに、松井佐渡守興長の有名な「諫言状(自筆4m29cm)」を送られたのは綱利公である。しかし、この小説の綱利公は晩年ということもあり、ひっそりとした佇まいを感じさせる。
 物語自体は、前述の通り綱利公が一人で成趣園を訪ねたところから始まる。父のいなかった幼少の自分を思い出し、次いで、朧気ながらも伝え聞かされていたそれまでの細川家、つまりは、父・光尚以前の細川家を築き上げた忠利、三斎(忠興)、幽斎(藤孝)のことを思い、肥後細川藩の成り立ちについて回る悲しい運命に心を痛める。
 そこから、幽斎、忠興、そして忠興の嫡男であった忠隆と歴史の順を追うような形で「細川家男子の話」が展開されていく。とりわけ、一族の長たる立場にいた幽斎の苦慮、息子や孫たちの間を取り持ち、時には隠し、細川家という武士の家をどのように伝えていったかに焦点が当たっているように思う。
 この本の素晴らしいところは、なんといっても忠興と玉子(ガラシャ)の息子たち、三人が揃って登場するところだ。ところどころ、筆者の地の分というか、すっと冷静になる説明文が挟まれるのは気になるけれど、物語自体は非常にウェットなものであり、仲の良い兄弟である忠隆と興秋(忠興の次男)、それでいて、兄弟たちは細川という家のために犠牲にならざるを得なかったという現実の描き方。三男・忠利はそうした事実を心苦しく思い、ようやく長兄・忠隆と再会したときは涙を流す。本当に仲良しの兄弟三人として描かれていて、もうなんていうか、ありがとう世界。
 このね、兄弟水入らずで再会する時の段取りを取っているのが幽斎様なんですよ! ッハ~~~~! 孫たちのために息子(忠興)に黙って手配するじじ! 最高! ちなみにだが、書籍の半分は幽斎様と忠興様の話である。本の半分も使ってこの親子のことが描かれている。いろいろとありすぎる。

 あとね、やっぱりこれ、忠隆様の目線から見て「哀れな父」として忠興様が描かれているあたりに、こう、ものすごいウェットを感じてしまうんですよね……。私は細川家の親子関係に頭を悩ませ涙を流し思いを馳せる者……。
 いやもう、とにかく読んでください。お願いします。お願い。

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