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ファンレターみたいな書評 『黒い雲と白い雲との境目にグレーではない光が見える』著者:26人のがんサバイバーあの風プロジェクト 監修:岡野大嗣 (左右社)

  たぶん自分だから書けることがあると思っている。クラウドファンディングをわずか3日と12時間で達成した本書。怒涛の勢いそのままに今手元にある。Amazonの歌集ランキングでも1位に輝いた。自分がクラファンに賛同した理由から書きたい。

 2020年にナナロク社という出版社がオンラインの短歌教室を開催した。教室はふたつあって、ひとつは岡野大嗣さんの教室でもうひとつは木下龍也さんの教室があった。教室のイベントで両教室の生徒が作った短歌を講師が選んで競うという「短歌合戦」というイベントがあった。その中で本書の著者のお一人である尾崎ゆうこさんの短歌を知る。

満開をすぎたダリアの花びらが重力に耐え世界を変える(尾崎ゆうこ)

 一番良いと思った短歌に生徒たちが投票するというのがあって自分が投票したのがこの歌だった。こんな短歌を作ってみたいと思った。その人がクラファンで本を出すことを目指すという。だから開始された時に即賛同した。これが理由。

 さて本書の話、26人の女性がんサバイバーが作った歌集。監修は岡野大嗣さん。出版社は左右社。短歌はネットと相性が良すぎるので引くのは三首までとします。一首目。

見たらわたしよりも苦しむのだろうか 母がまだ見ぬ胸のきずあと(yutty)

   歌集の後ろのほうに執筆者のプロフィールがあってそこを読むとどのかたが作った短歌かわかるようになっている。これは8ページに載っている短歌。歌集を読みはじめてすぐにこの本に書いてあることがあたりまえだけど借りてきた言葉じゃないことがわかる。類想なんて遠い。自分はがんになったことはないけどがんを患った友人がいる。病気の当事者ではないけど病気の当事者の友達がいる。引き込まれた。自分は病気の当事者ではないからもしかしたらわからないところがあるかもしれないと思っていたけどそれは杞憂だった。この本にある一首一首が切実で刺さった。

 でも楽しい歌もあって、二首目。72ページ。

ハムスターもふ尻だけの写真集眺める手術待ちのひととき(猫由)

 これは「ミナオダヤカニスゴセマスヨウ」という連作の中の一首。好きなものは力になるんだと感じた。いま気付いたのだけど二章の連作パートは一人のかたが作った連作が並んでいるのではなくて、メンバーの作品を編んで作っていることに気づいた。これはすごい。

 最後、三首目。81ページ。

手術痕を見せ合って語る露天風呂のふたりをつつむ満天の星(ヒダノマナミ)

 この本が誰かにとっての支えになりうると強く思った一首。ほかの病気、ほかの怪我を負った人々にもこの歌は寄り添ってくれるんじゃないかと思った。

 引きたい歌は他にもたくさんあって全部を引いたらここに本をコピーしてしまうので自重します。ぜひ読んで確かめてみてください。三章にはサバイバーストーリーがあって作者と短歌の背景を感じられる。ハムスターのお尻の写真集を読んでいる理由も書かれていた。歌だけを見て楽しい歌だと自分は感じたけど写真集がそこにあるのには理由があったことを知れました。本当に良い本だと思うのでおすすめします。

 

 


大変ありがとうございます。