色を蝕む
楕円形に整えられた試験場は、どこか異常だった。
ある席には番号が順序よく振られているし、
またある席の番号はでたらめな数字だった。
ある席には石膏でできたヴィーナス像が座っていたし、
テーブルの上に薔薇が咲く席もあった。
およそ試験どころではないこの室内で、学生は30名ほど考えを巡らせていた。
なぜなら、自分に配布された席番は見当たらないからである。
代わりにこの暗号めいたメッセージを解くこととなった。
学生の中には既に自力で解き、着席する者もいた。
わたしはどう考えても解けない難問に苦戦していたが、
ある賢い学生が教えてくれたことによれば、
”ど うしようもなく 途方に 暮れる者に
だいじなアスパラガス 満足 しますか”
「…とあるから、君の席はきっとここだよ」
と言い、椅子をひいてくれたのだった。
その学生は、丁寧な親切のあと、わたしの肩に手をまわし愛の言葉を囁いていたが、そんなことはどうでもいい!
その席には、足元にアスパラガスが生えており、その濃密な生命力と自然の匂いが見えた!
恍惚と光る、緑色のアスパラガス。
密集して20本ほど自生している。
この試験場は変だとは思ったが、これも暗号の仕掛けなのだろうか。
一瞬、気味悪さは感じたが、やむなくその席に着席した。
間もなく試験が始まった。
わたしも女上司の話を聞くのだったが、どうにも集中できない。
それはアスパラガスの放つ匂いが、まるで黄色いバターのようにとろけ、口の中に広がるからだった。
そこから星屑のなかへ飛び込み、夜空を駆け巡って、オレンジの太陽に似た真っ赤なハイビスカスの蜜を吸うのだった。
わたしはさも蜜蜂になった気分で、アスパラガスからハイビスカスまでの旅を何往復かした。
そのたびに、鮮明に景色も匂いも味も、繰り返されるのであった。
ふと気づくと、目の前に黄色と赤色の油絵の具があった。
先ほどまではなかったのに、だれが置いたのか。
わたしはそれを手にすると、まずは赤色の絵の具の封を切り、絵の具を出した。
ああ、これは、あの太陽とハイビスカスの色。
真っ赤な、なによりも真っ赤な、幸せな色。
わたしはその赤を蝕んだ。
口のなかいっぱいに広がる、太陽とハイビスカス。
ああ わたしはまさに今、赤をそばに置いて光を取り込んだ。
次に黄色い絵の具。
これはアスパラガス自身だった。
わたしはこれも蝕んだ。
黄色はわたしの口を痺れさせ、震えさせた。
だらだらと赤と黄色が混ざったものが口から溢れ出て
わたしの衣服も、席も、赤と黄とオレンジに染まった。
そしてこのオレンジから、新たなアスパラガスの緑が生まれるのだった。
わたしは気付く。ここには三原色などない。
ただあるのは生命力と幸せの色だった。
さて、わたしが旅をしている間、試験は続いていたが
さすがにわたしに気付いた女上司は、ひどく叱った。
「真面目にやらないのならもういい」とさえ言われた。
「もういい」とはどういう意味ですか?と問うと、しばらく考えたあと、
「それが悪いとは言わない。
しかしそれをあなたが比べようとすることは間違っている。
何かと比較しても、それは相対であるから
あくまで主観的なあなたの真価ではない。」
試験というのは、優劣をつけることなのに、比較しないとはどういうことか。
そしてやけに現実の言葉を使うのだなと思った。
わたしがその言葉について意味を考えようとしたとき、夢から覚めた。
***
わたしの夢の中で、赤・黄・オレンジが印象に残るのは珍しい。
色を体の中に取り込むイメージは、過去に何度かあった。おそらくその色(波長のようなもの)が足りないから、取り込もうとしているのではないか。
単純にチャクラで考えれば物質的要素を表す1・2・3の3色になる。
カバラで考えればゲブラー←ティファレト←ホド(←マルクト)になる。そのパスは31シン→26アイン→22ラメドになる。
サポートして頂けたら、魔術研究の支援に使わせて頂きます。皆様により良い情報とデータを開示することで生き生きとした魔女活・魔術ライフになるよう願っています。