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黒ネコのクロッキー⑨太った男2

 ネコは駄目だ。馬鹿なのだから…  いったい何だって言うのだ、俺の顔をじろじろ見やがって。ネコのくせに。ほら、あっちへ行け。 よし、横になったら少し体が楽になった。深呼吸するぞ。吸って、吐いて、吸って。  だいたい俺は、犬の方が好きなのだ。一緒に走ったりボールで遊んだり、ネコより健康的だ。    ああ懐かしいなあ。母さんがいたころ家には犬がいた。柴犬だった。名前を何といったかなあ、母さんの言う事を一番良く聞いたのだ。  娘が犬を欲しいと言っても俺は知らぬふりをしていた。世話

    • 黒ネコのクロッキー⑧白ネコ先生と三毛ネコ先生2

       ねえねえ、三毛ネコさん。こちらに降りていらっしゃいよ。そして私とお話しましょうよ。この方、もうそろそろ目を覚ますわよ。お顔の色がだんだん明るくなってきたもの。  それにしても、どうかしらねえ、人間って本当は愚かなのかしら、賢いのかしら。私は不思議に思うのよ。素晴らしい発明をして、大きなビルを建てて、そりゃ私たちネコは人間の真似なんて出来やしないけれど、難しい本も、こうして前足で開いたり閉じたりするだけで、人間の文字が読めるようになるわけではないけれど。  でも、眠くなったら

      • 黒ネコのクロッキー⑦少食の女神3

        (少食の女神)まあ、博士。こちらにいらっしゃったのですね。この人間のエナジーの行方をお知りになりたかったのでしょう?  (博士)ああ、そうなのだ。この者には多少関わりがあってね。  (少食の女神)ええ、ええ、存じておりますよ。一刻を争う状態でしたので、博士がいらっしゃる前にこの者のエナジーたちに話をしました。これからもうひと仕事しなくては。  あら、クロッキー、あなたも来てたのね。  (クロッキー)ええ?女神さまはどうして私を知っているのですか?私は知らない。  (少食の女神

        • 黒ネコのクロッキー⑦少食の女神2

          (腸のエナジー)なるほど。確かに、最近姿の見えない同僚がいる。  あいつは掃除をしたがっていたのだ。この方の体の中は真っ黒な汚れの塊があちらこちらに置いたままになっていて、早くそれを片付けたい、暇が出来ればなあと常々言っていたのだ。  (少食の女神)ええ。そのようにご立派なエナジーの方々がほんの少しでもいらしたおかげで、この人間はまだ死んではいないのです。  幸いしばらくの間眠ってくれるでしょう。  私があなた方をお呼びしたのはこういうわけなのです。まずはご自分の持ち場に戻り

        黒ネコのクロッキー⑨太った男2

          黒ネコのクロッキー⑦少食の女神1

           (少食の女神)それでは次に、少食のエナジーの説明に参ります。エナジーと言いますのは仕事をする力のことでございますよ。人間が食べ物を摂取したさいに、その体内で何がおこなわれているかと申しますと…  さあ、あなたはご存知ですか。どうぞ、想像してご覧なさい。  まずご飯をどんぶりにいっぱい、これに肉、魚、野菜を山盛り、海藻やきのこ。さらにサクランボやバナナなどの果物を、ひとつの大きなすり鉢に入れてすりこぎ棒でぐるぐるとすり潰します。全部の形がわからなくなるくらいどろどろに潰すので

          黒ネコのクロッキー⑦少食の女神1

          黒ネコのクロッキー⑥白ネコ先生と三毛ネコ先生1

           (白ネコ)何を言っているのかしら。ネコは駄目ですって。馬鹿なのですって。  たしかに隣の部屋で飼われている、あの小太郎といったかしら、若い柴犬の。あの子に頼めばきっと誰かに知らせて救急車でも呼んでくれるでしょうけど。  小太郎は、いつも何か人間の役に立ちたくて仕方がないって様子だものねえ。私が窓の前を通るたび真ん丸な黒い目でじっと見るのよ、いたずらでもしようものならすぐ人間に言い付けようとして。  三毛ネコさんもあの小太郎には始終やられているでしょ。  (三毛)ああ、そうだ

          黒ネコのクロッキー⑥白ネコ先生と三毛ネコ先生1

          黒ネコのクロッキー⑤太った男1

           「こんにちは。誰かいますか、こんにちは。」   やっぱり、あれは夢だったのだろうか。いや、昨日も確かにこの部屋に来たのだ。あの黒ネコのあとをつけてこのドアの前までは来たのを覚えてはいるが、その後はまったくいけない。  だいたい、野良ネコの尾行なんて無理な話だ。こちらに気がつけばさっと姿を隠してしまうのだから。娘に頼まれて仕方なく、ああ、ひどい汗だ。ほんの少し歩いただけなのに心臓が締め付けられるようだ。  それにしてもあの黒ネコは、俺があとをつけているのを知っているようだっ

          黒ネコのクロッキー⑤太った男1

          黒ネコのクロッキー④エメラルドグリーンの氷山

           「まあまあ、お二人ともようこそおいでくださいました。お二人というのはおかしいかしら。あなたは博士のお手伝いをなさっているクロッキーさんね。」  クロッキーはびっくりしました。あの人間のお母上というからには、もっとおばあさんを想像していたのです。ところが目の前のお母上は、つやつやの栗色の髪を耳の後ろでひとつに結んで、日に焼けた顔は小麦色にすべすべしています。ハーフパンツをはいた足はすらりと長く、クロッキーには、あの人間より目の前のお母上のほうが若く見えたのです。  「さあさあ

          黒ネコのクロッキー④エメラルドグリーンの氷山

          黒ネコのクロッキー③博士とクロッキー

          「おじいさん、そんな具合だったのです。」  クロッキーはがっかりしていました。博士から言いつかったように、あの人間を闇ネコ診療室まで連れてきたのはよかったのですが、うっかりへまをして逃げられてしまったのですから。  「いいや、そんな顔をせずともよい。人間というのは怖がりだ。いろいろなことが怖いのだ。しかし、あの者はまたきっと診療室にやってくる。人間は怖がりだが知りたがりでもあるのだからな。お前と一緒なのだよ、クロッキー。」  そんなものかなあ、とクロッキーは少しほっとしました

          黒ネコのクロッキー③博士とクロッキー

          黒ネコのクロッキー②闇ネコ診療室

           もちろんこの近くです。すぐそこの角を曲がったところが入り口ですから。  さあさあ、お入りになってそのソファに腰かけてください。  私はご覧の通りの黒ネコ、名前はクロッキーと申します。この診療室の管理人のような仕事をしております。お掃除をしたり鍵をかけたり、こんなふうにお客さまをお連れするのも私の仕事なのですよ。  私がいつからこの仕事をしているのかお知りになりたいのですか。さあ、本当に我々ネコ族というのはまったく何でも忘れてしまいます。   でもずっと昔、ここは助産院だった

          黒ネコのクロッキー②闇ネコ診療室

          黒ネコのクロッキー①黒ネコのクロッキー

           みなさんは心理学という学問をご存知ですか?心理学といいますのは、人間の心や魂と呼ばれる現象を、詳しく調べる学問のことです。人間は心や魂の話しが大好きです。そして、わからないことを調べるのも大好きです。いったい心や魂と呼ばれるものがどんなものかを人間はわかっていないのですから、心理学が大好きなのです。  我々ネコ族はちっとも学問が好きではありません。なるほど人間に言わせると怠けているようにも退屈しているようにも見えるのかもしれませんが、本当はそうではありません。そうではなくて

          黒ネコのクロッキー①黒ネコのクロッキー