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わたしとドトール、夢みる頃を過ぎても

みなさんには思い出の場所がありますか。それは今でもずっと変わらずにありますか? それともそっと自然の流れで移ろいゆくものなのでしょうか。

今日はちょっぴりセンチメンタルに、わたしとドトールの話をさせてください。

今日、用事のために3年前まで住んでいた地元に久しぶりに行きました。
わたしは都会の出身なので、相変わらずその駅には人がたくさんいました。それでもコロナで人通りは昔よりは少なめだし、駅やその周辺はやけに綺麗で人間くさくなかったけど。
ああ懐かしい。やっぱりずっと住んでいた街。懐かしい。
空気まで違う味がするみたい。
気分が高揚した、なんて言わないよ。ただなんだかマスクの中がにやけちゃうだけ。

足取り軽く、頭も軽く、ふらふら街を歩きました。
地元だもん、景色なんて見なくたって歩けちゃうよね。

足が向いた先は、中高時代に行きまくったドトール。
3年ぶりに向かう場所。当時の自分は第三の居場所のように思っていた場所でした。
テスト勉強もしたし、漫画も読んだし、テンパる心を鎮めながら好きな子とメールもした。電話がかかってきちゃって、いつもちゃんと飲み切るドリンクをほっぽり出して慌ててお店を飛び出したりもしたな。

いつだってお金のない中高生のわたしは、基本的に当時220円だったコーヒーの一択。夕方になるとカフェインを気にしてアイスティーにする。お母さんが夕方からコーヒーは飲むなって言ってたからね。
夏は贅沢にMサイズにしちゃったり。Mサイズにするだけでちょっと特別感。
今日はたっぷり飲んじゃおう~今日だけだよ~って脳内でくるくる踊っちゃったりして。

本当にそのドトールへよく行っていたから、アルバイトのお姉さんの顔だって覚えちゃってたし、お客さんの混み具合のリズムもつかめていた。この曜日はこの時間から混むから早く行かなきゃ!とか焦りながら向かったり。

たまにやってくるごりごりとコーヒー豆を挽く音も大好きだったなあ。その香り濃い振動の中、全然解けない数学の問題とにらめっこして頭を抱えて、そんでシャーペンを投げ出してブレンドコーヒーを飲むんだ。ブラックコーヒー苦くて飲めなかったのに、今日はコーヒーフレッシュも何もいれないんだ!って頑張ってみたり、そんでなぜか最後の二口くらいになるとコーヒーフレッシュをいれるんだなあ。
テスト終わった日は頑張ったご褒美にカフェラテで贅沢したね、部活の試合で負けた時も慰めのご褒美にカフェラテ。「なんでブラックコーヒーより高いんだよ~」っていつも思ってたな、でもおかげで君がわたしの特別になってくれてたよ。

もうすっかりブラックコーヒーを飲めるようになった今日のわたしは、昔の自分の足跡を辿るようにたどり着いたその場所の前で呆然とした。
そこには黒と黄色のでかでかとしたロゴはなかった。あるのはただ背の低いつまらなく白い壁。いかにも“仮です”と装うその壁の向こう側には何もない。建物ひとつぶん、ぽっかりと空気が満ちる。
わたしは辺りを見渡した。そして引き返す、もう一度向かう。けれど、どうしても今のわたしはそこに行きつく、もうドトールのないドトールがあった場所へ。

茫然。
白い工事用の壁で覆われた場所の横には、昔から見慣れたちょっとおしゃれなカフェ。
「そうだ、お昼ご飯を食べなきゃ」と唐突に浮かんだその言葉に導かれ、わたしはちょっとファンシーなそのカフェに入った。

1200円のランチを食べた。
視線は落ち、スマホの上で踊る親指。画面に映る「ドトール、閉店」の文字。
わたしの第三の家は昨年の秋に閉店していた。そしてぐしゃりと殴られ壊され、破片の残る空間へと変貌していた。

土曜日の13時ごろはいつも満席だった。
新聞を読んでいるチェックのシャツを着たおじいちゃん、スマホを充電しながら動画を見る女の人、パソコンとスマホの両使いお兄さん、空っぽのグラスを片手にお喋りワールドの女子高生。
ドトールはいつも溢れていたのに、会話と人と孤独な世界に。

それが閉店なんてことがあるのだろうか。満ちて混雑してまざりあってみんなが自分の世界を展開していた空間はどこにいってしまったんだろう。

わたしは、スマホの中の「閉店」を見つめながら、お洒落なカフェの中に居る。1200円のランチを食べて、真っ黒で苦いコーヒーを飲んでいる。

このカフェはドトールに通うかつてのわたしにとっては憧れの場所だった。店内は観葉植物でいっぱいで、白と茶色のドトールの店内とは全然違う。
綺麗なおばさま方、大人っぽい若い恋人たち、くるんと毛先が踊る女子大生たちがそのカフェに入って行く。美しくスムーズに、気品ある手つきでドアを開ける。ぴしっと黒のベストで決めた店員さんがにこやかに彼らを店内の奥の方へと案内していく。

「いつかこんなお店にも行ってみたいなあ~」と思いながら通りすぎ、隣の自動ドアのドトールにかつてのわたしは飛び込んでいたんだ。

そんなあの頃憧れて何回も通り過ぎたお店に今、わたしはいる。そしてわたしの隣には、あの頃の“マイホーム”はない。うるうると見つめた“あの憧れのおしゃれなお店”ももうわたしの隣にはいない。わたしは観葉植物に囲まれて座り、220円を大きく上回るコーヒーを飲んでいる。

「変わらないものなんてない」そんなありふれた言葉がちゃんとわたしの一部になった日だった。「気がついたら大人になっていた」その言葉もわたしの血となり肉となり、また次の「気がついたら大人になっていた」へと向かっていく。

2年前、違う店舗のドトールでわたしはバイトをしたことがある。そこの店舗は改装されてピカピカになっていた。
わたしはよく朝の6時から働いた。コーヒーカップの触れ合う音が好きだった。自立したぬくもりがひしめくあの空間が大好きだった。

きのこ帝国の「夢みる頃を過ぎても」を聴こう。
朝の五時半バイト先へと急いだわたし、今電車に乗って家へと帰るわたし。そのふたりをこの音楽が繋いでくれるような気がした。

明け方の街ではいつもあなたのことを考えています
夢みる頃を過ぎても 屈託なく笑ってみせて
明日に落ちてく 夢から覚めて
変わりゆく街並みをそっと
あの頃の夜に塗り替えてみても
変わらない物などないと
気付いてしまった 気付きたくなかった
ねえ 明日に落ちてく 
大人になってく 夢から覚めて

明日からまた早起きしてみようかな。
みなさんもお気に入り/憧れの場所があったらぜひ教えてください◎


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