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きみはお子様

お子様って偉い?ある日のこと、末娘が聞いてくるので私はそうだね、お子様だねと答えた。

お子様ランチだってあるくらいだし、お子様はお子様なんだろう。

少なくとも親である私より彼等の方が遥かに尊く優れた人たちであると思って暮らしている。

親になった今。親になれたのは親にしてくれた彼等がいたからで選んでくれたからで。
ちょっと、そこのあなた。私が大人になるまでお世話よろしくね、ってどこかのマダムみたいに仰せつかって今があって。

はあ、さいですか。では何卒よろしくお願い致しますとここまで来て。

彼等曰く「高い空から毎日お母さんが頑張るのを見てこの人ならと思った」と本気かわからない熱量で言っていたのを今も信じている。
末娘は「一番かわいかったからきたよ」と言ってくれたのをこれまた信じて暮らしている。

親になるとは、人が人を育てるとはどういうことかを教えに来られたのだと今でも思う。

思っていた以上に何もかもをぶち壊され、打ちのめされ、冷水を浴びせられるかの如く思いもよらない出来事にであう。

子供だからと高を括ってると痛い目にあう。
舐め腐りやがってと言わんばかりに。
ほらみろ、適当にやるからだと。

我が子という存在すらままならないことを知ることになる。どんなに愛していても憎しみと隣り合わせなんだということも学ぶ。
愛が強ければ強いほど裏切られたときの怒りはいともたやすく憎しみに変わる。

何もかもままならないことを叩きつけられ、それでも日々も子供の鳴き声も止むことはない。
頭が回らない中でいつ食事を摂ったのかも思い出せない中でも日々は続いていき彼等は大きくなっていく。それは私達から何かを吸い上げ源にしているのではと疑うほどに大きくなっていく。

子どもを育てるのが大変なんだよ、そんなものではない。考え方の甘さ、愛する我が子に憎しみや怒りを感じるなんて思いもよらないがそういう生き物であることをちゃんと教え込まれる。

寝られない日々が数日続けば正気をなくしてまともじゃない頭でものを考えることはもはやできない。
あんなに愛しているのに愛してきたのにまともになれなくなった今、鳴き声に苛つくしうるさいと言い放つ自分がいる。鬼婆みたいだ、そう傍観しつつ抜け出せない。
食べられない、眠れない、24時間こどもを抱っこしながら暮らす時間のなかに幸せより苦痛を感じ始めるとこんなにも自分という人間は脆かったのかと思い知らされる。

いいママをできるはずだった。ボサボサ頭でパジャマのまま、日付もわからなくなるまで追い詰められたりしない雑誌に出てくるようなママになれると信じて疑わなかったのに。なんで、今こんなことになってる?気づいたらもうその先は闇しかない。

味わったことのないものをとことん味わって自分のことを改めてどんな人間かを思い知らされる。
寝ろといっても寝ず、食べろといっても食べず、やめろといっても辞めず、ことごとく打ち砕かれる。良い母になるという希望を。
散々砕かれたあと、良い母なんて言葉が意味がないことを知って知るべきは我が子が何を思い生きているかということ。
この子とどう生きていたいかを自分に問い直すこと。

親と子になった私達は今からどう生きるかを考えなければならないことを知る。

人生は修行だ。それを身を持って教えに来てくれる。それがお子様なんだと私は思う。
譲歩して諦めてまた手に入れて無くしてまた歩いて、堪えようのない涙を流して、抑えきれない怒りを抱いて、大きすぎる失望にのまれて、砕け散ってまたかき集めては歩いていく。そうやって少しずつ不必要なものを捨て必要なものを見る眼を養う。
正解のない世界を死ぬまで歩き続ける。そのために今がある。

少なくとも私がここまで来るためには必要な出逢いだったのだと思う。そうでなければ、私は一生誰かやなにかに依存して引っ付いて生きようとしただろう。自分の力で成すこともなくいつも人や世界のせいにして自分のことを見つめることもなかった。

とにかく幸せになりたい。と所構わず探し回っていた私はもういない。幸せとは来るものでもなるものでもない。幸せだなぁと感じられるこの気持ちがそう呼べるのだと思う。幸せにしたいと誰かのために生きていく中でもらえるささやかなおこぼれ。そんな程度でもとても優しく素敵なものだ。

私の人生観を変えてくれたのは間違いなくお子様だ。人は一人で生きてるわけじゃない、私は死ぬまで一人で生きられると思っていたがそんなことを言えるほどたいした人間じゃなかった。
人の支えがあって、ここにいられる。
世の中を呪うばかりじゃ救いがない。 

「ねぇ、おかあさん!今日カツ丼がいい!」とあられもない大声で今日も引き戻される。
「今からカツ丼なんか作れるわけないでしょうが。また今度!」
また今度は当分来ないがこんなクソ暑い日にカツ丼なんか作れても作りたくない。
忘れたふりをして秋を待とう。
早く終われ夏休み。

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子どもに教えられたこと

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