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あなたは、なぜ、歌う?踊る?奏でる?

私はアーティストではない。

でも、ニューヨークシティに住んでいる。

アメリカ生まれでもなく、会社の命令で来たわけでもなく、社会人になってから、自分の意志でこの街に住もうと決めた。もう、かれこれ20年以上前のことだ。

ニューヨークに憧れて住もうと決めた人たちの中には、ダンサーや音楽関係者、映像や絵、ファッション等に強い興味を持っている、所謂、アーティストが多い。

でも、私は違った。日本では旅行会社に勤めていた一般OL(表現、古っ!)、別に何か特別の能力や才能があるわけでもなく、普通に働き、普通に暮らして一生を終えるであろうタイプである。だけど、どうせそんな風に生きるのであれば、自分が心地良い場所で暮らす、生活をしたいという気持ちが非常に強い人間であった。

その私が選んだ街が、”ニューヨーク”だった。

何が良かったのだろう?地下鉄は汚いし、ホームレスは死体みたいに道路でうつ伏せになって寝ているし、怪しげなジャンキーや観光客を騙すペテン師、レトロ過ぎるダイナー、甘過ぎるケーキ、中々中身が出てこないガラスのケチャップ瓶。毎日、イライラする、ピリピリする、ヒリヒリする事ばかりの連続。

でも、面白かったんだ。そこにいるだけで。

地下鉄の落書き、廃教会のディスコや肉屋街のクラブ、漏れ聞こえるライブハウスの音楽。急いでいるのに、見たことのないストリートパフォーマーに心奪われ立ち止まったり、面白いアート作品を道端で売っているのを、眺めたり。入場券を買わなくても、そこにいるだけで、アートを感じられる街なのだ。

自分は、アートを生み出す才能はないし、格段、それが好きだ!という自覚もない。ただ、毎日、起きて、働いて、寝る。そんなルーティーンの合間に、会社に通う為、友人と会う為、買い物をする為などで街を歩く。街の空気を吸う。それだけで、実はアートに触れていたんだと、気づいた。   ニューヨークが新型コロナ禍でロックダウンとなって。

3月22日から始まったNYCロックダウンの中で、広がった”Clap for NYC"ムーブメント。毎晩7時から数分間、市民の生活を守る為、維持する為に働く医療従事者をはじめとするエッセンシャルワーカー達に向けて、アパートの住民達が、バルコニーや窓から顔を出し、拍手、歓声、カウベル、鍋を叩くなどで感謝を伝えるという動き。私もほぼ毎晩参加していたが、実は叩いている自分自身が一番力を貰っていたのではないかと思う。なぜなら、窓を開けると、こんなにも多くのニューヨーカーが同じような気持ちでいるんだと思い、人々の愛を感じたから。まだまだ、ニューヨーカー、捨てたもんじゃねーぞ、と思えたから。

それが、今はズタボロ状態のニューヨーク。

私は夢想する。

毎晩夜7時に、私はアパートの窓を開け、目的の人を探す。”あ、いたいた、今日は向かい側の道路にいる。”と心を躍らせる。近所のアパートの窓は、私と同じ様な住民達でいっぱいだ。

道路には、バイオリン奏者がいて、天まで届くような音を奏でる。

それは、決して、画面越しでは味わえない感動だ。

「昨日のオペラ歌手も良かったけど、今日の演奏は泣ける。」

「俺は先週のロックギターが最高だね。」

なんて会話を相方とする。

私は、この街を救う鍵は、”アート”だと思っている。

人はなぜ、歌ったり、踊ったり、奏でたり、描いたり、するのだろう?

お金の為?名誉?有名になりたいから?

きっと、”それをしたくて、したくてたまらないから”なんじゃないかな? 

そして、それをしたくてしたくてたまらない人たちがわんさかいるのがこの街、ニューヨークだとすれば、それが、きっとこの街の何よりの資源だ。

あなたが踊る。あなたが歌う。あなたが奏でる。

それをアパートの窓から聴き、拍手を送る。なんて、贅沢な人生の時間。それはたった3分の時間かもしれない。でも、自分の心を豊かにしてくれる。そして、新しいアーティストを知り、ファンになり、サポートしたくなるチャンスだ。そして、そのチャンスは、アーティスト達にとってもチャンスなのだ。

こんな街、どこにもない。きっと、世界中の人が住みたくなる。

そして、気がつけば、ニューヨーク・マンハッタンは、世界一のアートと愛が溢れる街になっている。




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