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血漿分画製剤のはなし

現在も残念ながら世界中がコロナウイルスの影響下にあります。
それに向けて様々な製薬企業が治療薬の開発に取り組んでいます。
その中の血液製剤(血漿分画製剤)について書こうと思います。

この記事の冒頭はこう始まっています。

新型コロナウイルス感染拡大が続くなか、世界で治療薬開発が急ピッチで進んでいる。製薬会社は既存薬を転用することで開発期間を短くし、早期の市場投入を目指す。回復した患者の血液成分を使った治療法も試されており、既存の医療技術・手法の掘り起こしも進む。新型コロナの猛威を止めるには、迅速な審査や承認を可能にする仕組みも欠かせない。

すでにご存じ方も多いと思いますが、現在世界でコロナウイルスに対する医薬品開発が活発に進んでいます(以下は上記記事より抜粋)。
ウイルスの増殖を阻害するような治療薬や全身症状を引き起こす炎症(サイトカインストームなど)を抑制するような炎症抑制剤など挙げられる。

キャプチャ

これ以外にもワクチンの開発も並行してすすめられています。

血漿分画製剤を使ったコロナウイルスへの対抗策

今回はその中でも血漿分画製剤、特に免疫グロブリン(抗体)を使ったコロナウイルスへの対抗策に関して取り上げたいと思います。
(その理由は後程かきます)

血漿は血液から赤血球や白血球などを取り除いた成分のことで、「アルブミン」や「グロブリン(抗体)」といったたんぱく質が含まれる。このうちグロブリンには様々な性質があり、血漿から分離し精製することで免疫不全の治療や重度の感染症治療に使える医薬品となる。

このグロブリン(抗体)は、いわゆる抗体医薬品とは全く違うものです。
血漿分画により精製されたグロブリン(抗体)は、ポリクローン(ポリクロ―ナル)抗体と言って、コロナウイルスの色々な場所にくっつく色々な(ポリ)種類(クローン)の抗体が含まれた製剤になります。
一方で、抗体医薬はモノクローン(モノクローナル)抗体です。例えて言うと、コロナウイルスの単一の(モノ)部分にのみくっつく一種類(クローン)だけの抗体が含まれています。

中国でも重症患者に対する血漿療法で回復した人がいるとする報告が出ており、米食品医薬品局(FDA)も血漿投与を認め、カナダでも大規模な臨床研究が始まった。日本でも国立国際医療研究センターが早ければ4月中にも試験的な治療を試みる方針だ。

日本からは武田薬品が参戦

このニュースとほぼ同時期に武田薬品は競合他社とコロナウイルスに対抗する血漿分画製剤を供給するため提携を発表しています。

回復者の血液を使った治療法は、武田薬品工業が開発を進めている。同社は2019年1月にアイルランドの製薬大手シャイアーを買収した。シャイアーは、人の血液から様々な免疫を取り出し医薬品として販売する世界大手だ。武田は3月、このシャイアーの技術を活用して最短9カ月で治療薬として完成させる方針を公表した。
武田薬品は2019年1月にアイルランドの製薬大手シャイアーを6兆2000億円で買収した。シャイアーは血液由来の医薬品開発の大手で「アルブミン製剤」や「免疫グロブリン製剤」などの開発ノウハウを持つ。特に免疫グロブリン製剤は重症感染症に対して治療効果があることから予防や治療に使われてきた実績がある。
武田はシャイアーが持っていた血液由来の医薬品技術で新たな治療薬を開発する。新型コロナから回復した患者の血液を活用し、免疫機能を高める治療薬をつくる。すでに米国やアジア、欧州の規制当局と調整を進めているという。早期に治験を始める計画で、9カ月から18カ月程度で治験を終える計画だ。

私がこの記事を取り上げたのは、血液製剤が上表の一番下に取り上げられていたからです。この血液成分を使った治療法(血液製剤)については、日本では武田薬品工業が名乗りを上げています。

血液製剤企業のはなし

血液製剤、ここでは血漿分画製剤にフォーカスしたかというと、私は以前に日本製薬という会社の研究員をしていたことがあるからです。
この会社は武田薬品の完全子会社で、主力製品は血漿分画製剤の一種である、免疫グロブリン製剤です。

日本での血液製剤は基本的には日本国内での健常人からの献血を使って製造されていて、血液法という法律で規定されています。
現在日本で血液事業をする機関は、以下の3機関となっています。
 日本血液製剤機構(https://www.jbpo.or.jp/
 日本製薬(https://www.nihon-pharm.co.jp/
 化学及血清療法研究所(https://www.kaketsuken.org/

どのような流れで血液が採取され、流通しているかの大まかな流れについては、ご興味のあるかたは以下のリンクからご覧になってみて下さい。
https://www.mhlw.go.jp/new-info/kobetu/iyaku/kenketsugo/2s/pdf/06.pdf


訂正と追記(血液製剤の輸出について)

法改正があり、血液製剤の輸出が可能となりました。しかし、輸出品目は大幅に削減され、かつ現状血液製剤の国内安定供給確保の観点から、輸出は原則承認されないこととなっているとのことです。

なので、輸出する道筋は作られたものの、今は閉ざされています。

<修正前の文章>
ちなみに、無償で採取された血液から製剤化されているため、日本で採取された献血由来製剤は国内で利用するルールとなっているため、輸出はできないのが大原則としてあります。海外で採取された血液製剤については、輸入が認められています。

この章では、輸出に関する国の考え方が変わったため、内容の訂正と修正をします。2017年頃から法改正に向けた動きがありました。

2017年11月の日経新聞での記事になります。
献血から作られる血液製剤の余剰分について、厚生労働省は29日、国内メーカーによる輸出を認める方針を固めた。同日開いた有識者会議で了承された。1966年に輸出が原則停止されてから半世紀ぶりの方針転換。厚労省は年内にも正式決定し、輸出貿易管理令や血液法の施行基準の改正に着手する方針。2019年度中にも血液製剤の一種、血漿分画製剤の輸出が認められるようになり、20年度から輸出が始まる可能性がある。

追加資料:血漿分画製剤の輸出に関する具体的な制度改正案

その後、平成30年12月25日(2018年)「血液製剤の輸出承認について」の規定が改正、平成31年4月1日(2019年)から施行となっています。

<血液製剤の輸出>
血液製剤を輸出する場合は、「外国為替及び外国貿易法」(外為法)に基づく経済産業大臣の承認を受けなければなりません。承認の申請を行うに当たっては、申請に先立って、厚生労働省医政局経済課長の確認を受ける必要があります。
なお、現在、血液製剤の国内安定供給確保の観点から、輸出は原則承認されません。詳細は、「承認基準」を確認して下さい。

<輸出対象品目>

輸出貿易管理令別表2外部リンクの19の項の中欄に掲げる安全な血液製剤の安定供給の確保等に関する法律第2条第1項外部リンクに規定する血液製剤のうち、輸血に用いるものであって、次に掲げるものとする。
(1)人全血液
(2)人赤血球液
(3)洗浄人赤血球液
(4)解凍人赤血球液
(5)新鮮凍結人血漿
(6)人血小板濃厚液
(7)合成血

JETROのHPに分かり易い資料がありましたので、一応、記載しておきます。
以下のサイトにあるPDFに現行と改正後の対照表があります。


まとめ

日本の献血血漿については基本日本赤十字社が一元管理しているため、日本国内でも海外と同様にコロナウイルス感染からの回復者の献血血漿を利用することは日本赤十字社次第(国の意向もあると思いますが)です。法的には出来ない事はないものの、難しいのだろうなぁと思います。

この血漿分画製剤の最大の利点は、前述したポリクロ―ナル抗体であることです。コロナウイルスの抗原に対して色々なバリエーションを持って結合できることは、例えばウイルスの変異に対しても対応できる可能性を持っていることが予想されます。一方で、抗体がくっつく場所が変異により形が変わってしまうと、作成したモノクローナル抗体は全く役に立たなくなってしまうリスクを持っています。。。

なので、コロナウイルス感染~重症化に至る色々な場面において有効な医薬品を揃えておくことは非常に大切になります。
その一翼を担っているのが血漿分画製剤だと思っています。

色々な医薬品の迅速な開発が進むことと
コロナウイルスが収束しているのを祈るばかりです。

#血漿分画製剤 #COVID19 #COMEMO #テクノロジー #日経新聞

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