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「女好きの末路」というお話し

「お嬢さん、かわいいね!」
男は爽やかな笑顔で女性に声をかけていた。

男の名前はエドワード。
今は大工の見習いをしている。
でもこの物語にはこの男が大工かどうかは関係ない。
関係あることは、この男、極端な女好きなのである。

大抵の男は女性が好きだ。
だがエドワードの女好きは並大抵ではない。

そして不思議なことに、女性たちもエドワードに声をかけられることが嫌じゃない。
いや、むしろ声をかけられたいと思っている。

それはなぜだろう、エドワードの言葉には不思議な力があるのだ。
甘いとろける蜜のような愛をささやく言葉ではない。
でもなんていうんだろう、エドワードに「キレイだね」とか「かわいいね」と言われると、うれしいのである。
その気になってしまうのである。
乙女になってしまうのである。
そんな魔法のような力がエドワードの言葉にはある。

エドワードには夢がある。
世の中全ての女性に会ってみたい。
その中で一番素敵な女性は誰かを知りたい、という。

しかしながら、世界は広い。そして人生は短い。

そんなエドワードの思いは日に日にふくらんでいった。
ある夜、寝床の中でエドワードはぼそっとつぶやいた。
「あぁ、この望みがかなうなら、この身などなくなってもかまやしないのに」

「その言葉、偽りないか?」

エドワードのつぶやきに老婆と思われる声で問いかけられた。
「誰?」
「私は魔法使い。望みを叶えてやろう。ただしお前はその望みが叶った時、呪いで人ではなくなってしまう。それでもよいか?」
「あぁ、それでも構わない」
「よろしい。さぁ、お前はこの世の理を超えた存在となり、世界中の好きなところへ思うだけで飛んでいけるようになった。世界中の女性と会ったとき、私はお前の前に再び現れる」
といって魔法使いの老婆は消えていった。

エドワードはどうやって力を使えばいいのか?と思ったが、それは杞憂だった。
思うだけで街から街へと移動ができた。
そして行く街で女性と会い続けた。

10年がたったとき、ある街でエドワードが宿で寝ていると、魔法使いの老婆があらわれた。

「ほう、思ったより早く望みを叶えたようだね」
「そうさ。まだ見ぬ女性と出会えると思うと休んでいるのももったいなくってね。素敵な力をありがとう」
「そうさね。では約束通り、お前はこれから人ではなくなる。そしてある家具になってもらう」
「家具?」
「そう、意識をもったまま、鏡にでもなってもらおうかね」
「鏡か。悪くないね。なんせおめかしをする女性を眺められるんだから」

そうしてエドワードは鏡となり、人手を渡りついで今はなんと王宮にいた。
その王宮にはまことに見目麗しいお妃様がいて、さっそくエドワードであった鏡を覗き込んでこういった。

「鏡よ、この世で一番美しい女は誰だ?」

エドワードであった鏡は、今まで出会った世界中の女性を思い浮かべて、そして確信を持ってこういった。

「はい、お妃様。それはあなたでございます」


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