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3行日記 #151(タオル、筆先、西陽)

三月二日(土)、晴れ

風が冷たい。冬が、まだまだあ、と叫びながら最後の力をふりしぼっているのだろうか。

午前、出町から高野へ川沿いを歩く。床屋の店先に、洗ったタオルが並べて干され、手延べそうめんのように風に揺れていた。

午後、毎週のように、近くを通るときは欠かさず、気をかけているものがある。高野の交差点にある辛夷(コブシ)の木だ。季節が春にかわるころ、毛の生えたもふもふの蕾がふくらんでいくのを楽しみにしている。二週間ぶりにのぞいてみると、いまにも弾け飛んでなかから花びらがあふれでそうな勢いだ。蕾はみな、書道の筆先のようにつんと尖らせた先を天にむけ、陽射しをあびて白くかがやいている。来週にはもう咲くだろう。と、そこへ、L字に曲げた左腕にハンドバッグをさげたおばさんがあらわれ、辛夷を見あげた。おばさんも蕾を気にしているのだろうか。そのひとが離れて信号を待っていると、自転車をひいたべつのおばさんがやってきて、これまた木を見上げる。それに気づいたバンドバックのおばさんは、知り合いなのか声をかけて談笑がはじまった。後ろを振り向いて辛夷を指差していた。

いつもの喫茶店が臨時休業だったので、もうひとつのほうへ。入ってすぐ右手にある九人がけの大きな木のテーブルに座ったのだが、夕方になるとガラス窓から西陽が差しこんで顔に直撃した。外の観葉植物の葉の影がガラスに揺れていた。

一乗寺の古本屋で、志賀直哉、井伏鱒二、幸田文を買う。恵文社に某旅雑誌の福井の号が並んでいた。帰省したときのことを思う。福井に帰ってきたなあと感じるとき。バスに乗って、お年寄りが乗ってくると、どうぞ、とすかさず立ち上がって席をゆずる高校生を見たとき。また、道を歩いていると、こんにちは! と高い声があがって、驚いてそちらを見ると、通りがかりの小学生がつぶらな瞳を向けてきているのに気づいて、こんにちは、とやさしく返すとき。

夜、昨日の残りの豚汁、塩豆腐のカプレーゼ、はるか。チャックの散歩、京阪の踏み切りをまたいで西へ、区役所をすぎて遠回りして商店街を戻る。

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