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3行日記(クラクション、供養、電話の声)

十月十一日(水)、晴れ。

朝、長年つれそったベッドのマットレスを手放した。起きて五分後、妻と二人で一階まで運ぶ。いくよ、せーの、足を小刻みにすらせてちょっとずつ運んだ。今までありがとう。

夕方、商店街から入る横筋で、通行を妨げられた車がクラクションを鳴らしている。だんだんと煽るように、より攻撃的に、間隔が短くなっていった。

夜、鶏むね肉とキャベツの味噌炒め、りんご、チョコレート。昨日から皿を拭くふきんを新調した。古いふきんはもうぼろぼろだ。妻が言った。ふきん、供養したいね。焼くのがいいか、埋めるのがいいか。河原で焼くことにした。

チャックの散歩、祭りが終わってから、残り香がするのか、落とし物を求めてか、家を出たとたんにすごい力で神社へむかっていく。きょうもまず神社を通り抜けて、東へ。ファミマを右に折れてぐるっと回る。そのあたりにあるマンションの一階の部屋の奥から、誰かと電話をする男の声が聞こえてきた。俺がいま元気でいられるのは、おかんがおるからや。なにやら真剣そうだ。声が路地に響いている。おやじとおかんはどこまでいっても夫婦なんやから。あとは親父がのむだけや。環境を変えなあかん。まず部屋をきれいにすること、ヘルパーさんに頼むこと、それから、犬を手放すこと。犬を手放す!とは聞き捨てならない。何があったか知らないが、犬に罪はない。帰りも神社によると、参道のいつものところで猫おじさんがしゃがんで餌をあげていた。そろそろ銀杏が落ちるころなのか、妻が銀杏のにおいがするねと言ったが、私は何も感じなかった。祭りが終わり、日常が戻った。

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