さよならシャボン(34) 痛覚研究
Story : Espresso
Illustration : Yuki Kurosawa
殴打、これは痛くない
刺突、これは痛くない
火傷、これは痛くない
痛くない痛くない、痛くないのに、なにもかも全部痛くない筈なのに、君に言われたひとこと
たった一言が痛い
あなたはなにも分かってない
僕はなにを分かっていないの?
昨日のことも明日のことも、その先のこともその前のことも、全部分かっている僕なのに、どうしてアナタはそんなことを言うんだろう?
どうしてアナタの言葉は痛いのだろう
刃物で切られた指先から滴る深紅の滴より、瞳から零れる透明な滴の方が痛いんだ
痛くないはずのものが痛くて、痛いはずのものが痛くない僕はおかしいのかもしれない
教えて欲しい、どうしてアナタの言葉が痛いのか
でも、なんでも分かる僕だから、周りの誰も教えちゃくれない
僕はなんでもわかる筈
だからせめて、同じ痛みを知りたくて
殴打した箇所を再び殴打する、いくらやっても痛くない、これは違う
突き刺した箇所にももう一度突き刺す、やっぱりこれも痛くない
周りがなにか騒いでいるけど、僕には関係ないことだ、なんでもわかる僕だから、これは絶対間違いない
火傷、そんなもんじゃ足りない、燃やすんだ、火傷の痕に火を近づける、それでもなにも感じない
なにが足りないんだろう
いや、足りないんじゃなくて多いのかもしれない
また研究しなくっちゃ
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「さよならシャボン」チーム
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