〈エッセイ〉ずっとうさぎの音を聞いていたい
うさぎと暮らしていると、よく聞かれることがある。
「うさぎって鳴くの?」
声帯がないので、犬や猫のように大きな声で鳴いたりはしないけれど、音は発する。
怒っているときは鼻を「ブッブッ」と鳴らすし、逆に嬉しいときは「プゥプゥ」と小さく鳴らす。
鳴かないけれど、自己主張はしっかりする。
それ以外にもたくさんの音で思いを伝えてくれる。
機嫌が悪いと、後ろ足を踏み鳴らす。「ダンッ!」この音がわりと大きくてびっくりする。
ケージの端にあるプラスチックのトイレを鼻先で揺らして「ガシャンガシャン!」。これは完全にニンゲンを呼んでいる。まろんさんの場合はだいたい「おなかが空いた」「ごはんをよこせ」。
ニンゲンが寝坊したときによく聞く音だ。すまない。
そんなまろんさんが発する音は全部好きだ。
撫でているときの「コリコリコリコリ」という音。小石がぶつかり合うような、可愛らしい音。気持ちいいと、歯ぎしりをするのだ。その歯ぎしりをしている振動が手にも伝わってくるので、わりと力は入っているのだろう。人間の場合、歯ぎしりにいいイメージはないけれど、うさぎさんなら大歓迎。
「気持ちいいの~ゴキゲンだね~うれしいね~」とニンゲンももれなくゴキゲンになる。
次第に「コリコリコリコリ」音が小さくなり、今度は「ぷすぅぷすぅ」に変わる。寝ているのだ。個体差によるんだろうか、まろんさんは寝息が大きい。2キログラムくらいしかないのに、人間の寝息ぐらいある。10畳ほどの部屋でこの寝息が響き渡ることもあるほどだ。
「ぷすぅぷすぅ……すぅぷすぅ……」
これを聞いてニンゲンも眠くなる。なんというヒーリング効果。
ヒーリング効果が抜群の音は他にもある。
「ポトッ……ポトッ……」
トイレで糞をしているときの音だ。
この音が聞こえてくると「えらいね、コロコロうんち、たくさんしていてえらいね」とニンゲンたちは拍手喝采。人生で誰かのトイレ音を褒める日が来るとは。
でもうさぎにとって便秘は生死に関わる。だから、トイレでちゃんとトイレしている、ということは健康の証拠なのだ。拍手喝采に決まってる。
ずっと見ていなくても、意外と音だけで何をしているかが分かる。
今、草を食べているな、とか、トイレ行ったな、とか、寝ているな、とか。仕事中に音楽を聴かない時間が増えたのはまろんさんの音に耳を澄ませたいからだろう。
でも、たまに何も音がしないときがある。そういうときは黙ってジッ……とこちらを見ている。それは「撫で」の催促。
何気ない音だけでもコミュニケーションが取れる。人間同士、言葉を尽くしても通じ合えないことばかりなのに、不思議なものだ……などと実感してしまうのだった。