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寄席のお席はどこが好き?〜落語のはなし

 寄席は基本、自由席。ふらりと入って、好きな席に座る。
 まだ寄席初心者の頃は、そうっと後ろのほうに座っていた。ただ、慣れてくると仕草や表情もより近くで見たくなる。だんだん前に進出するようになり、一番前に座ってしまうこともある。
 しかし一番前は同好の士の皆さんも狙っているので、仕事を終えてから行くと既に座られていることも多い。だが、前でも端のほうは空いてたりするのだ。何度か端の前のほうに座っているうちに、「あれ、ここ、面白いかも」と思い始めてきた
 とくに上手(高座向かって右)の前に座ると、師匠方の与太ちゃんを演じている時の顔がダイレクトに見られる。まっすぐ正面から対峙して、上下をきる師匠方の芸を楽しむのもいいが、いわゆる「ボケ」顔を見る楽しみが上手の前方にはあるのだ。
 贔屓の師匠がトリの芝居では私は通える限り連日通う。ある時、本当に上手の前列の席に陣取り十日間堪能した。千秋楽を無事迎えたが、さすがに腰に負担だったのか、次の日腰が痛くなったので、慌てて馴染みのケアラーさんに診てもらった。
「あれ?来栖さん、何かやりましたか?腰から上が左に旋回してます。」
えっ!マッサージ店の穴の開いたマクラに突っ伏したまま笑った。身体が寄席の座席を記憶しているのだ。少し左の肩をうしろに、首も腰も旋回させていた。その姿勢のまま、ずうっと笑い続けている。「寄席上手席形状記憶人体」とでも言おうか。
 「宗論」で「寄席で笑いながらポックリ死んだじいさん」のクスグリがあるが、私がもし本当にポックリ寄席で死んだら、この左旋回の身体のまま、こときれるのだろう。私がお棺の中で少し左向いてたら、「ああ、また上手で高座見てたのね!」と思ってください。私も彼岸でニヤリです。
 でもでもどこでも楽しい寄席の席。明日も元気に寄席に行く。

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