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ゼームス坂物語

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記事一覧

雨の遠征

「あなた……」  とつい口をついて出かかるときがある。しかし空っぽの部屋にただよっている…

ウオールデン
2週間前
17

モンスターはどこから生まれたのか

スピーチのレジュメ 一 およそ三十年ほど前、遠山啓という数学者が、「ひと」という教育雑誌…

ウオールデン
3週間前
22

いじめに苦しむ子供たち

これはみなさんとの出会いの場を、ボールを投げあう挑戦のスピーチとするために作成した問題で…

ウオールデン
3週間前
20

木立は緑なり

 長太もまた文章を書くのが苦手だった。蝶の仲間たちと「南の国から」という季刊誌を発行して…

ウオールデン
1か月前
23

樫の木子供団

 午前中、森閑としている児童館は、小学一、二年生があられる一時頃からざわざわしてきて、高…

ウオールデン
1か月前
23

白紙の答案用紙

 長太は疲れるなあと思った。一流企業のしかも出世街道を驀進しているビジネスマン夫人で、自…

ウオールデン
1か月前
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人生のデビュー

 その日、智子ははじめてできた彼女の部下と、新しい仕事の打ち合わせをしていた。そのとき、隣に住んでいる有明家の奥さんから、電話が入ってきたのだ。 「奥さん、ちょっと、宏美ちゃんが、たいへんなのよ」  なにかただならぬ事態を告げる声だった。 「どうしたんでしょうか」 「もう服をずたずたにされて、泣きながら、帰ってきたの」  宏美が、なにか事故にでもあい、大怪我でもしたのかと、智子は青くなって受話器をもちなおしたが、その様子を問いただしていくうちに、ようやく二人は落着いて、智子に

オランダ運河のタカシ通り

「お一い、弘さん。弘せんせ一い」  通りの向こう側から男が叫んでいた。長太だった。 「お茶…

ウオールデン
2か月前
42

樫の木に張り付けられたゲジ子

             漆があざやかに紅葉していた。ブナもカエデもミズナラもケヤキもま…

ウオールデン
2か月前
45

手の素描

 長太はその朝、新聞を広げていつものようにさあっと目を走らせながらページをくっていくと、…

ウオールデン
3か月前
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煙草事件

 だんだん団員の数が多くなってくると児童館で活動することが、どうも窮屈になりはじめていた…

ウオールデン
3か月前
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君は素敵なレディになれる

「お母さん、頭が痛いの」  今朝も宏美はぐずりだした。ぐずりだすといつもひと悶着もふた悶…

ウオールデン
3か月前
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この「あとがき」こそロレンスがもっとも憎んだことだった。

『草の葉』で「チャタレイ裁判」の特集がなされた一年後の、1996 年の11月に、伊藤整訳の「…

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禁断の書はどのような日本語で翻訳されたのだろうか

新潮文庫におさめられた伊藤整訳の「チャタレイ夫人の恋人」は、猥褻文書として指弾された箇所を削り取って刊行されたが、その削除された部分には、✻✻のマークがつけられている。しかしそれはおそらく編集ミスか校正ミスであろうが、一か所だけ落とされているページある。第十三章の最後の部分、新潮文庫の二百八十一ページ、 この文章の後に、削除されていることを表示する✻✻のマークを入れなければならなかった。しかしその表示がなく、その章はそこで打ち切られて次の第十四章になっていく。いったいここに