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廃校が世界を変えていく

廃校に地域力がはじけるとき  5  竹内敏


 

 8  グラウンドに突如森ができた

 「ポレポレECOまつり」は、はじめから江戸をテーマにしていたわけではありません。年間の児童館事業コンセプトとしては、開館当初から「自然体験」というものにこだわってきました。
 開館した2004年度だけでも行事、クラブ活動、日常活動のなかには、「平和の森公園」探検、葉っぱの葉脈写し、木肌写し、藍染め、木の実拾い、環境カウンセラーの「めだかの学校」、サケの孵化と放流、ハゼ釣り、虫探し、冬探しビンゴ、路地裏探検、蕎麦殻の枕づくり、麦踏み体験、サツマイモ・エダマメ・ひょうたん・ブロッコリー・里芋等の植栽・収穫、桑の実ジャムづくり、ドクダミ茶づくり、菜種油づくり、手打ちそばづくり、菜の花料理など、多彩で精力的な収り組みがすでに始まっています。
 
 しかし、第一回、第二回「ポレポレECOまつり」のテーマは、「遊びの森ワンダーランド」という遊びと自然とが融合したような、ややファジーなテーマをもったスタートとなりました。それはまた、まだ職員集団として論議を充分尽くしたわけではない事情も反映していたと言えなくもありません。「森」「木」「葉」というようなキーワードにこだわりながら、「自然」というものの存在意味を考えるとともに、そうした自然素材に直接触れることを通して子どもといっしよに「職員自身も学んでいった過程」でもありました。
 
 まつり一か月前のこと、区内の「平和の森公園」へ丸太や枝をいただく相談に行きました。すると、私のぶしつけな申人れに対して、間伐したクスノキや近くの公園で処分するケヤキの丸太などをすぐさまトラックで運んでくださいました。子どもまつりで「森を作りたい」という意図を察知した所長の即決の判断に頭が下がりました。今までは、万が一の事故や責任の所在ばかりに汲々とする行政の対応に辟易としていたところもありましたので、初対面にもかかわらずてきぱきした前向きの対応に感銘しました。「役所も捨てたものじゃないな」と見直した瞬間です。それは同時に、事故を起こさないための万全の措置を取ろうという気持ちをいっそう鼓舞させてくれました。
 
 「どんな森になるのか」心配していたまわりの不安と期待が交錯する目線のなか、まつり会場のグランドには、突如森が出現したのでした。三~四メートルくらいある立木だけでも少なくとも四〇本はありました。枝葉はトラックの1台分くらいありました。また、直径四〇~八○センチくらいもある丸太も届きました。それはさっそく休憩コーナーのイスとなりました。
 
 そこに集められた人量の枝葉は、まつり終了後も工作の材料になったり、年末にはリースづくりやお正月の飾りにもなったり、焼き芋の燃料になったりするなどおおいに貢献しました。
 
 植物にも個性があった
 ポレポレ銀行に預託されたどんぐりには、コナラ・ウバメガシ・シラカシ・アラカシ・アカガシ・シイノキなど、いろいろな種類があることを肌で知りました。同じどんぐりにも、大きさ・帽子・色・お尻・かたちなどが違うこともじっさいに比較することもできました。 また、「樹木の皮」も触りながら、すべすべ・ざらざら・ごつごつ・黒っぽい・赤っぽい・灰色っぽい・焦げ茶色っぽいなど、多様であることも知りました。
 
 「葉っぱ」にも、鋸歯がある・鋸歯がない・半分鋸歯がある、ざらざら・つるつる、切れ込みが深い・切れ込みが浅い・葉の先端・基部のいろいろなかたち等々、たかが葉っぱなどとあなどれないくらいの個性があることも知りました。植物を同定する際の指紋のような役割をするのが葉っぱだということも大発見でした。
 
 これら自然が持つ多様な個性を知っていくと、自然を見る目が変わっていきます。自然一般ではなくみどり一般でもなく、固有名詞でつきあうようになります。植物それぞれの個性的な性格が見えてきます。それはまた、人間もそうであるように季節によって装いが変移していくというのも見所です。そうしたことで、学童保育や幼児クラブの活動では、近くの公園や「平和の森公園」への探検や遠足が必然的に多くなっていきました。
 
 それは、「子どもといっしよに自然を探検するということは、まわりにあるすべてのものに対するあなた自身の感受性にみがきをかけるということ」を職員自身も体感していくことになりました。それはまた、地球温暖化に対する子ども交流センターなりのとりくみを積み重ねていくことでもあります。

 そのうちに、これらの自然とじょうずにつきあいながら、自然エネルギー100パーセントの生活や文化を創造していった時代が日本にもあったことに行きあたったのでした。そうです。それは世界的にも画期的な「植物国家」「環境都市」、江戸でした。
  
 

9   愉しさ・美しさ・安らぎが世界を変える


  このまつりは、食べたり、買ったりで終わりではないというのが「売り」です。
 子どももおとなも楽しく遊んでもらったり貴重な展示物を見てもらったりして、まつりの滞在時間をゆっくりしてもらい、そのやりとりのなかでいつのまにか自然・環境・生き様とかをしぜんに感じてもらうということが大きなねらいです。これからも、人の賑わいから「まち」や「人」を暖かく感じてもらうこと、幼児から高齢者まで集うことで異世代の持ち味を共有・共鳴しあうこと、しっかり生きようとすると孤立しがちな個人やグループが励まされる場とすること、「まち育て」につながるような出会いやきっかけが生かされることなどを実現したいと思っています。
 
 文化人類学者辻信一さんは「愉しさ・美しさ・安らぎが世界を変える」として「スロー快楽主義」を宣言しました。
 そのなかで、「祭りは人間が生きることと、動植物が生きることとをひとつなぎにして、生きるという快楽を祝う祭礼だった」と指摘していますが、「ポレポレECOまつり」のめざすものは、まさしく人間が「生きる」ということが自然と共生することにあるというメッセージのまつりでもあるということです。そして彼は「周囲のおとながゆとりをもって安心感や自己肯定感を育てられなければ、子どもの好奇心やチャレンジ精神など生きる力は生まれない」と、おとなのスローな「ゆとり」の大切さを強調しています。
 
 このまつりに象徴される輝きは、人の気配を失った校舎からの「復活祭」でもありました。それはまた、呼吸の止まった施設からの「ルネッサンス」でもありました。それはまた、子どもの歓声というものを忘れてしまった砦からの「雄叫び」でもありました。それはまた、無機質になってしまった部会の「孤独からの脱却」でもありました。

  まつりのアンケートをとったところ、つぎのような感想がかえってきました。
 
子どもの感想
「みんなが協力してお店をがんばっていた」「お店をやったのでみんなよりも、倍楽しかった」「来年は自分でお店をやりたいです」「みんなと協力すること、知らない人との交流があった」
「地域の人が、一体となっていて、とてもよい」「この町にたくさんのひとがいること」
「みんないろいろじゅんびしているからすごいとおもいました」
「無料でも楽しめることがたくさんあった」
「ボクもゴミを出さないようにしたい」「リユースの大切さ」「ECOはすごい」
「むかしの人は、すごい!」
「去年よりもすごく内容がふくらんでいた」
 
おとなの感想
「子どもがお店の中心になってはりきっているようすがとてもよかったです」
「おとなも子どももみんないきいきとしていて、主催側も来客側も一体化して盛り上がっていました!」
「子どもっていつの時代も変わらないんだと思いました」
「若い人たちが、生懸命やっている姿に感動した」
「スタッフや出演行に片者が多い。good」
「手づくり感がすごくよい」
「マイ弁当箱でゴミも減らせて、ゴミ箱のゴミがあふれかえってないところがよかった」
「江戸のまち並みやくらしをくふうしていて、こんなおまつりは初めてでした」
  

第一章 地域と職員の総合力「ポレポレECOまつり 
1 「ポレポレECOまつり」の開幕です
2  江戸のまちができていく
3 「子ども時代」を取り戻す
4  「粋なおとな」が江戸を徘徊した?!
5  テーマを貫くまつりにする
6  「エコな江戸」が二十一世紀を救う
7  それは「罵倒」からはじまった
8  グラウンドに突如森ができた
9  愉しさ・美しさ・安らぎが世界を変える


 
 

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