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その苦しみによく耐えられますね




 シェカール・カプール監督の手になるわずか十分余の短編映画だが、深い言葉とイマジネーションを喚起させる。こんな短編映画をつくってみたい。こんな短編小説を書いてみたい。
 ワイングラスをあわせた高名なソプラノ歌手は、腰に障害をもった若いホテルマンに、
「寂しそうね、そんなにお若いのに」
 ホテルマンは、ソプラノ歌手に寂しく尋ねる。
「いまでも歌われているのですか」
「歌わないの、今は歌っていないの」
「あなたの歌が聞きたかった」
 画面の奥から彼女の歌う歌が流れてくる。
 寒くなりますからドアを閉めましょうと揺れるカーテンの奥に姿を消していくホテルマンから声が飛んでくる。
「その苦しみによく耐えられますね、よく我慢ができますね」
 歌を歌えなくなったこの高名なソプラノ歌手は、このホテルのテラスから身を投じるために投宿したのだった。



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