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第一回、手術準備検査

3時予約の検査を受けるために、路線バスと病院のシャトルバスを乗り継いて病院へ。広い待合室は一杯だ。車椅子の人、杖の人、母親に連れられた子供など。

視力検査、眼底検査、視野検査など受けてレンズの説明が30分ほど。これは丁寧で良かった。

保険の効かない多焦点レンズが「先進医療」ということだから一番いいのだろうか。保険の効く単焦点レンズより優れているのだろうか。

漠然とそう思っていた。私の入っていた医療保険は「先進医療特約」が付いていた。というか私は付けていたのだ。

長年保険料を払って来たのだから、片目30万円、両目で60万円の「多焦点レンズ」を入れて保険料の元を取った方がいいか。など、次元の低いことばかり真剣に考えてしまった。

しかし、説明文を家で何回も読むうちに、一抹の疑問と不安を覚えて来たのだ。先進医療の「多焦点レンズ」は、全体に遠くも近くも見える分、手元の本を読むときや字を書くとき、かえって見えづらくなるのではないか。

手術して前より、読み書きがしづらくなったら、何のために手術したか分からない。

その疑問が今日の説明ですっかり晴れた。若い技師の説明が明瞭で分かりやすかったのだ。

「先進医療のレンズの方がいい、とか優れているというのではありません。保険の効く従来のレンズの方が『生活スタイル』に合っていることもあるんです。安いといっても、もともとの値段は保険の効く方も片目20万円ほどで、安物というわけではないのですよ」

そうか。生活スタイルなんだ。分かったような気がした。

「仕事をしているので、本や資料がより見やすい方がいいのです。運転はもともと夜や雨の日はしません。今でも近い所だけ、昼間だけです。それに、いずれ免許返上するつもりです」

「今までどおりの生活タイルに近い方がいいのですね」

「はい。大きく見え方が変わるのは不安なんです」

「今のスタイルで生活したいのですね」

「はい。運転する時だけメガネをかけて、手元でパソコン打ったり字を書くときは今までどおりメガネなしで。つまり、漠然と全体が見えるようになるより、近くがよりはっきり見えればいいのです」

「それなら単焦点レンズの方がいいかな」

「私もそう思いました」

実は、先進医療特約の多焦点レンズで手術した人が近くを見る時、メガネをかけるのを見て、何のために手術したのかな、と疑問に思っていたのだ。それまでは近くを見る時、メガネを使っていなかったのに。

oteの皆さんは皆若いから、白内障の手術は他人事だろうが、知っていた方がいいかも知れない。

『自分の生活スタイル』をよくよく考えてレンズを選ばないと後悔することも有りうるということ。

それにしても、天然のレンズ「水晶体」は何と素晴らしい機器なのだろう。遠い近いを自ら察知して、理想的にピントを合わせてくれる。

天然の目の「水晶体」以上のレンズはないのだ。

年齢とともにこの水晶体が濁ってくる。それが白内障というものらしい。

どんなに先進医療が進んでも、天然の目に勝るものはない、ということをしみじみじ感じた。

医者の診察室に辿り着いたときは5時過ぎ。会計を済ませ最後の6時25分のシャトルバスに滑り込んだときは、もう辺りは暗かった。

乗客は二人。乗り合わせたオジサンが言った。

「白内障の手術受けたらその目が斜視になってね、もう2年通っているんですよ」

「手術で前より悪くなったってことですか」

「そうなんです。たまにそんな人もいるみたいですよ」

私の胸にまた一抹の不安が頭をもたげて来た……。 

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