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「技術マーケティング」とは?~経営戦略・技術戦略・知財戦略、および、技術者のキャリアの視点で考える

特許情報を用いた技術マーケティング(2008年)」の TechnoProducer株式会社 CEO 楠浦(くすうら)です。

今日は、「特許情報 縛り」は外しまして、発明塾®として「技術マーケティング」をどう位置付けているか、つまり、発明塾®的な視点で見た場合「技術マーケティングとは何か」について、できるだけ幅広く話題提供をしたいと思います。

 そもそも「技術マーケティング」とは?

 技術マーケティングについて、「ずばり、技術マーケティングとは何ですか?」と聞かれて、過去15年間、僕がよくお伝えしてきたのは

 「技術を、顧客ベネフィットに翻訳すること

 です。「顧客ベネフィット」は、日本の技術者が、なぜ iPhone が作れなかったか、などの議論でもよく出てくる言葉です。「嬉しさ」「便益」「不・負の解消」など、おおよそ似たような考え方だと思います。最近の発明塾では、わざわざ横文字にする必要は無いかもね、ということで「顧客価値」に統一しています。

 「顧客価値」だと、投資家や経営者の方もよく使われる言葉ですから、話が通じやすいですね。そうなると、翻訳というのも分かりづらいので、「変換」「変える」でよいでしょうか。

 「技術を顧客価値に変える

 ですね、なんか普通ですけど、、、まぁ、技術に関わる人間はアタリマエに毎日考えないといけないことだと思いますので、普通に感じるのが正解なんでしょう。でも、アタリマエを忘れるのが人間という生き物です。忘れたくない方は、書き出して机の前に貼り出しましょうか(笑)

経営戦略・経営者視点での「技術マーケティング」とは?

技術を「顧客ベネフィット」「顧客価値」に変えるのが、技術マーケティングだと。一般的にはそうですね。では、「経営戦略」「経営者の立場」から見たら、どうなるでしょうか?

僕の考えをお伝えした上で、お客様企業(ほとんどが技術系・製造業系の企業)の経営者の方に「技術マーケティングとは何でしょうか?」と伺うと、例えば以下のような言葉が出てきます。

次の飯の種を見つけること」

自社資源の有効活用法」

次の成長市場を探す手段」

コア技術を磨き、成長し、生き残るために行うこと」

ROI・ROAの高い投資分野・事業分野を見つける方法」

なるほど、という感じです。ここから見えてくるのは

①技術は(重要な)経営資源の一つ

②技術は使いながら磨かれる、どんどん強くして競争を抜け出し、生き残っていく

③既にある経営資源を使う方が、経営効率・投資効率が高い

技術マーケティングは、「両利きの経営」で言う「(知の)探索」に位置付けられる

というイメージや考え方です。皆さんの会社では、どのように捉えておられますか?

技術の軸足は維持しつつ、「探索」により「投資効率の高い事業機会」を見つけ、そこで「技術をさらに磨く」ことで、「ますます強く」なり勝ち残る、というような、成功イメージ・成長イメージが見えてきます。

僕は「100年続く事業(企業)」をキーワードに、各企業や起業家の方に「発明塾®」を提供していますが、まさにぴったりのイメージのようです。

技術戦略・技術マネジメント視点での「技術マーケティング」とは?

「経営戦略」「経営者」視点での「技術マーケティングとは何か?」は、見えてきました。では、技術戦略や技術マネジメント視点では、どうでしょうか?

先の経営者の言葉に、既にヒントがありますね。

技術を、使いながら強くする

もう少しいうと、ある技術からいろいろな用途(市場・顧客価値)が枝分かれして、果実が生まれ、それを通じて幹が太くなり、さらにまたいろいろな市場や顧客価値が生まれてくる、、、というようなイメージですね。

市場に出ていくと、周辺技術・関連技術も取り込めますので、「持ち駒」が増えるわけですね。この辺は「技術ポートフォリオ」のお話しになりますね。最初は、持ち駒はたった一つの技術だけど、それを磨いて顧客に提供する(しようとする)と、他にも必要なことがいろいろ出てくる。

自社の保有する技術と関連していたり、相性の良い技術が次々に生まれたり、取り込まれたりして、技術の幹が太くなるんですね。新たに生まれた技術や取り込んだ技術が、次の市場を捕まえるヒントや武器になる可能性もありますので、「弾み車」が回るわけです。有名な企業では「3M」が、そもそも砥石を手掛けていて、粘着剤・光学フィルム・ヘルスケアなどへ幅を広げてきたことで、非常に有名です。

知財戦略視点での「技術マーケティング」とは?

ここで「知財戦略」は、権利に限らない知的財産(アイデア・ノウハウ・技術を含む)の創造と活用の戦略、ぐらいのイメージで話を進めます。そうなると、「技術マーケティング」とは、まさに知財戦略だ!ということになります(笑)

終わってしまってもつまらないので、補足しておくと、書籍「新規事業を量産する知財戦略」で取りあげている「OPTiM(オプティム)」社の事例は、僕にとってはまさに「知財戦略視点での技術マーケティング」の典型例です。元知財責任者の方が、「”顧客バリュー”の部分について知財を取り、それを元にアライアンスを組んで、事業を興し拡大する」と明言されています。

「顧客バリュー」って「顧客価値」ですよね。OPTiMのコア技術は「IoT」に関するものです。それが「顧客価値」につながる部分について、想定される「市場」(マーケット)ごとに特許を取得していき、顧客と市場を共創(co-create)する。それがOPTiMの知財戦略であり、「技術マーケティング」ですね。

企業内発明塾®でも、知財部の方が自社保有技術を中心とした資産(技術資産だけでなく設備や協力企業・顧客との関係などを含む)を使って、将来どういう事業展開が可能か新規事業の企画を立て、顧客価値を明確にした上で、それを抑えるための知財を取りに行く、という取り組みを行っています。まさに「技術マーケティング」=「知財戦略」になっている事例です。

この時、自社保有技術の棚卸しや発掘に、自社特許の分析を行うケースもあります。このへんは知財情報の話になりますので、次節で取りあげます。

知財情報視点での「技術マーケティング」とは?

「技術マーケティング」の起点にする技術を選ぶための自社保有技術の棚卸しや発掘に、自社特許の分析を行うケースもあります。その自社技術が、どの企業・組織にもあるものだと、「勝てる」事業にはつながりにくいですので、「独自性が高い技術」「他の人が目をつけていない技術」「自社が圧倒的に強い技術」「自社で活用して成功事例がある技術(使われて磨き抜かれている技術)」などの視点で、選びたいところです。

発明塾の用語を使うなら、自社内の「エッジ情報®」探しですね。

また、「顧客価値」≒「市場」を見つけるために、特許情報分析を用いるのは、「IP(知財)ランドスケープ」の普及により、一般的になっています。「特許情報を用いた技術マーケティング(2008年)」で僕が試行錯誤したことが、14年を経て、どの企業でもごく当たり前に行われるようになりました。嬉しいですね。

技術者のキャリアアップ・ステップアップ視点での「技術マーケティング」とは?

「まとめ」でも書きますが、それまでは一人の技術者であった僕が、経営という仕事にどっぷりシフトするきっかけをくれたのが、「技術マーケティング」です。この経験から、僕が技術者の方に持っていただきたいと感じている、自身のキャリアと技術マーケティングの関係イメージは、以下です。

技術者が経営やマネジメントを経験する入り口が、技術マーケティング」

技術者が、顧客・市場・社会・投資家に価値を提供する、提供しようと考えるきっかけが、技術マーケティング」

自分の(担当している)技術が、誰の何の役に立つのか、自分の目と手で確かめ、技術の価値を実感するのが、技術マーケティング」

技術者が、お客さん(顧客)を意識する第一歩が、技術マーケティング」

他にもいろいろありますが、だいたいこんなところです。

役に立っていると実感したい
(企業で技術に関わっている限り、多分誰かの役に立ってますから、実感するかどうかの話です)

キャリアアップ、キャリアチェンジしたい
(出世したい・給料上げたい・ボーナス上げたい、に留まらず、ポストの異動や転職、起業など、いろいろあるかと)

少しでも感じている方は、技術マーケティングを学んで欲しい。そして、小さくてもアングラでもいいので、実践して欲しい。出来れば成果を出してほしい。成果が出たら社内で「ドヤ―」と威張って欲しい(笑)。

「技術マーケティング」を学べる大学や講座は?

私が実情を知る限り、という非常に狭い限定になりますが、以下ご紹介します。内容をまったく把握できていないものを紹介するのは気がひけますので、、、ご容赦ください。

立命館大学MOT大学院 テクノロジー・マネジメント研究科

2010年から2014年まで、僕が教壇に立っていたところですので、内容は把握できています。僕が担当していたのが、まさに「技術マーケティング」の講義と演習でした。大学2回生~院生までが参加できる講座を、講義演習内容もすべて僕自身がゼロから創り上げ、実施していました。現在も、技術マーケティングに関する講座があるようです。

大阪大学大学院ビジネスエンジニアリング専攻

こちらは、弊社のメンバーが現在も一部講義を担当しております。OPTiMが行っているようなオープン・クローズド戦略」についての講義や演習があり、高度な技術マーケティングを学べる機会が提供されています。

e発明塾「開発テーマ企画・立案における特許情報分析の活用」

僕がナノテクスタートアップ時代に実践して成果を出した「技術マーケティング」のプロセスを、その時に行った特許情報分析やヒアリングの様子を再現しながら、丁寧に解説したものです。ちなみに立命館大学MOT大学院で講義していた内容は、この講座を簡素化して6回の講義に収まるようにしたものです。

まとめ)僕の「技術マーケティング」経験を振り返る~技術者から経営者になる転機をくれたもの

以下の facebook(公開記事)で詳しく書いたのですが、そもそも僕がナノテクスタートアップで成果を出せたのは、完全にこの「技術マーケティング」のおかげでした。

日誌代わりの独り言を 先日、ある方が教えてくださった論文に、約20年前に競合?していた開発者の名前があり、非常に懐かしく思う いよいよ市場が立ち上がるということで、大変注目される分野に成長 やはり研究開発は20年かけてやるもの、という...

Posted by 楠浦 崇央 on Tuesday, January 25, 2022

そもそもナノテクではなく「医療ロボット」の開発マネジメントを担当する予定だったのですが、着任前にものすごくいろいろなことがあり、自分で企画を立て直すも、資金も協力者も得られず。行き詰って完全に炎上していた(笑)隣の「ナノテク」を立て直せ、ということで僕はそのプロジェクトに加入したわけです。

いわゆる「ターンアラウンド」「再生」屋として、担当したわけですね。その時に活躍したのが「技術マーケティング」でした。良い市場が見つからず、右往左往してましたが、逆に言えば「見つければ、勝ち(大手柄)」ということです。そして、見つけました。「細胞培養シート」です。後にJSRに事業売却されますが、現在JSRは、祖業(日本合成ゴム:JSR)のゴム事業を売却し、バイオ事業へ大方向転換の真っ最中です。

市場が見つからず、行き詰っている研究開発」って、結構ありますよね。それは「技術マーケティング」ができる人には「チャンス」だと言えるでしょう。「捨てる神あれば拾う神あり」ではないですが、「困っている」「助けてほしい」状況で、小さくても確実に成果が出せる人、いや、「出し続けられる人」が欲しい。これが、多くの経営者の方のホンネです。

技術マーケティングは、そういう経営者の期待に応えるための、武器になります。

また、視点を変えると「研究者」「技術者」のサバイバルスキルでもあると思います。特に発明塾の手法をきちんとマスターすれば、調査と情報分析で「行き詰っているネタの打開策」が次々見つけられるので、アイデアマンではない方が新製品や新規事業を産み出し、成果を出せます。これなら、くいっぱぐれません。むしろ「救世主」的に重宝されそうです。

最近よく言われるのですが、「起承転結」人材という考え方があります。ザックリ言うと、「起承」人材というのは「新しいアイデアを出す」「新しく何かを始める」のは得意だけど、様々な行き詰まりを超えながらそれを大きくしていくのは苦手、という方々。「転結」人材は、その逆で「管理」含めて、上手く回して大きくしていくのが得意な人ですね。

技術マーケティングは、「転結」人材にとっては、アイデアが湧かなくてもイノベーションが起こせる方法になります。逆に、「市場が見えず行き詰まりがちなアイデアマン」にとっては、技術マーケティングは救世主ですね。

いいことづくめですから、「技術マーケティング」は、もっともっと活用されて良いと思います。

ぜひ学んで、活用してください!

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楠浦 拝

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