見出し画像

位置情報は誰のもの?(1/3)

1.位置情報利用が日常化する

日常生活の様々な場面で利用されている「位置情報」。

位置情報を身近な存在にしたのは、1990年に登場した「カーナビ」です。これは、カーナビに搭載された受信機が複数のGPS衛星の信号を受信することで、自車の地表上の位置(緯度・経度・高度)を把握するという画期的なものでした。

その後、カーナビは、目的地までの経路案内というナビゲーション機能に加え、多くの車から収集した車両の走行情報を収集・分析して、道路の混雑状況を提供する交通情報サービスへと発達していきました。

また、GPS受信機はガラケーといわれる携帯電話に搭載されます。特に、2010年代になってスマートフォンが急速に普及し、インターネット常時接続が一般的になると、「個人の位置情報」が日常生活に入り込んでいきました。

スマートフォンで「個人の位置情報」が簡単に取得できるようになると、位置情報の利用範囲が拡がります。地図アプリや、交通機関の乗換え案内、周辺のクーポン提供、フードデリバリー、タクシー配車サービス、災害時の避難支援といったように、企業は位置情報を利用した様々なサービスを提供するようになりました。

さらに、2001年からSuicaがスタートするなど「交通系ICカード」が普及していきますが、公共サービスにおいても個人の位置情報や移動履歴が使われるようになりました。

2.位置情報利用が社会的問題に

現在、利用者は位置情報サービスを利用するにあたり、企業が提示する個人情報保護方針に同意した上で、スマホの位置情報をONにして利用する仕組みになっています。

しかし、位置情報サービスが急拡大していく過程では、プライバシー問題が社会的な問題となっていきました。現在でも、利用者からみると、自分の位置情報がどのように使われているか、自分以外の第三者に提供されていないか確認することは現実的に難しいことです。

このようなプライバシー問題が、最初に社会問題化したのは2013年6月、Suicaビッグデータ販売問題です。これは、日立製作所がJR東日本(東日本旅客鉄道)のSuicaで取得した乗降履歴を使って分析サービスを提供すると公表した後に、JR東日本がSuica利用履歴というビッグデータをパーソナルデータとひも付けて外部企業に販売していたことが判明し、批判を浴びたという問題です。

続いて同年11月、「ドコモ地図ナビ」のデータ取扱いが社会問題化します。NTTドコモは、「ドコモ地図ナビ」で収集したGPS位置情報を、業務委託で統計的に加工したうえで第三者提供しました。
しかし、このサービスの利用規則に書かれていた位置情報の取扱いに関する記述が、利用者にとって大変分かりづらかったことから、マスコミに叩かれるという問題が発生しました。

これらの事例は、企業による位置情報利用が、利用者個人のプライバシーを侵害するおそれがあるという点で共通しています。
プライバシーの保護は、法律に規定されているわけではありませんが、憲法解釈(日本国憲法第13条)によって認められている権利です。プライバシーの保護という観点から個人の位置情報は適正に扱われる必要があり、その利用に関して、法や規制の整備が重要になってきます。

そこで、次回は、「個人の位置情報」の法的な扱いの経緯を整理してみたいと思います。

(後藤 博則、森 健、丸田 一如)